女性の発達障害が気づかれないまま来た人へ|見過ごされやすさの話
— 「女性はこう」と言い切れる話ではありません
ポイント
- 特性を隠したり補ったりする行動と、その心の負担は研究で報告されています。
- 性別で決まる話ではなく、見過ごされやすい条件がそろうことがある、という話です。
- 伝わるのは「気持ち」ではなく回数と時間です。記録が相談の材料になります。
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学生のころは「おとなしい子」「まじめな子」で通っていた。忘れ物は多かったけれど、前の日に何度も確認して間に合わせていた。友だちづきあいも、家で一人反省会をすれば何とかなった。
社会に出て、仕事の量が増えて、家のこともやることになって、ある時期から急に回らなくなった。ネットで発達障害の説明を読んで、「これだ」と思った。けれど周りに話すと、「そんなふうには見えない」「ちゃんとやってるじゃない」と返ってくる。
家に帰ると、何もできずに座り込んでいる。それを見ている人はいないので、外から見えるのは「ちゃんとやっている人」だけです。
自分でも分からなくなってきます。本当に困っているのか、それとも怠けているだけなのか。
先に書いておきます。「女性はこうだ」と言い切れる根拠はありません。 ただし、特性を隠したり、まわりに合わせて補ったりする行動はあります。そこに心の負担がともなうことは、研究で報告されています。そしてこの記事でいちばん役に立つのは、困りごとを相手に伝わる形に書き直すやり方です。
なぜ「気づかれにくい」と言われるのか
まず、事実の範囲をはっきりさせます。性別によって特性の内容が決まる、という話ではありません。 研究で扱われているのは、もう少し限定された内容です。
一つは、自閉スペクトラム症のある人の「特性を隠す・まわりに合わせる行動」を、たくさんの研究をまとめて整理した分析です。そこでは、まわりに合わせてふるまい続けることに心の負担がともなうことが示されています。ADHDについても、特性を隠す行動と関連する要因を整理した国内のレビューがあります。
言えるのはここまでです。隠す行動があると、外からは困りごとが見えにくくなる。 それだけのことなのですが、影響は小さくありません。
- 学校では「静かで問題のない子」として扱われる
- 家では、時間をかけて何とかしているので、結果しか見えない
- 職場では、確認と手直しを人一倍しているぶん、成果物にはミスが出ない
その結果、支障が出ていないように見える状態が長く続きます。実際には、同じ結果を出すのに何倍もの手間がかかっているのですが、そこは記録に残りません。
見えているものと、実際にかかっているものを並べると、こうなります。
| 周囲に見えているもの | 実際にかかっているもの |
|---|---|
| 提出物は間に合っている | 前夜に3回確認して、2時間眠れなかった |
| 会話がふつうに続いている | 相手の表情を追い続けて、翌日は動けない |
| 部屋が片づいている | 来客の前だけ、半日かけて戻している |
| ミスが少ない | 提出前に毎回、全部を読み直している |
左の列しか見えないと、「困っている」という話は伝わりません。怠けているから回らないのではなく、右の列が見えていないだけです。 ここを埋める作業が、このあとの中心になります。
もう一つ知っておいてほしいことがあります。この状態が長く続くと、先に心身のほうが限界を迎えることがあります。眠れない、気分が落ち込む、体調が戻らない。そちらをきっかけに受診して、そこで初めて特性の話が出てくる、という順番はよくあります。遅れて気づくこと自体は、めずらしくありません。
そして、この隠す行動は性別に関係なく起きます。ただ、「気配りができること」を強く求められる環境に長くいた人ほど、隠す技術が上がりやすい面はあります。性別そのものではなく、置かれた環境の話として読んでください。
だから、この記事に書いてあることが当てはまらない人もいます。当てはまらないからといって、あなたの困りごとが軽いわけでも、思いちがいでもありません。あくまで「こういう見過ごされ方があり得る」という一例として読んでください。
女性の発達障害が気づかれないまま来た人へ/【いちばん効く1つ】困りごとを「回数」で書く
【いちばん効く1つ】困りごとを「回数」で書く
いちばん効くのは、困りごとの書き方を変えることです。気持ちではなく、回数と時間で書きます。
- 1週間、うまくいかなかった出来事だけをメモする(1件1行)
- 各行に「何が起きたか」と「そのあと何時間、どうなったか」を入れる
- 週末にまとめて、同じ種類のものを数える
- 数が多い順に3つだけ残す
「会議のあと、内容を思い出せず、議事録を作るのに毎回1時間半かかった。今週4回。」
「洗濯物を取り込んだまま、たたむのが3日遅れた。今月これで4回目。」
「人と会った翌日は、午前中に起きられない。今月5回。」
この形にすると、「見えない努力」が数字になります。隠せてしまうことが問題なら、隠しきれなかった量を数えればいいわけです。
書き方のコツは、うまくいった日を書かないことです。全部書こうとすると続きません。困った日だけでかまいません。
道具は何でも大丈夫です。スマホのメモ帳、カレンダーアプリの予定欄、紙の手帳。探さずに開けるものを1つ決めて、そこだけに書いてください。専用のアプリを入れると、アプリを開く手間が増えて止まりやすくなります。
1週間続かなくても失敗ではありません。3日分でも、数字が入っていれば相談の材料になります。空いた日は空けたままでかまいません。
「そんなふうに見えない」と言われたら
この言葉は、たいてい悪気なく出てきます。相手は、あなたが人前に出す前の準備を見ていないだけです。むしろ、うまく隠せていた証拠でもあります。ほめ言葉のつもりで言われることさえあります。
けれど言われた側には、これがきつく残ります。「見えない」と言われるたびに、困っている自分のほうが間違っているような気がしてくるからです。
言い返す必要はありません。代わりに、さっきの3行を出してください。
「見えないと思います。見えないようにするのに、毎回この時間がかかっています。」
「結果だけ見ると普通なんですが、そこに行くまでにこれだけやり直しています。」
「できていないわけではなくて、できるまでの手間の量が問題です。」
「つらい」を強めるのではなく、「かかっている手間」を数で見せる。 これが相手に届きやすい形です。理解してもらえないときも、あなたの説明が下手だったわけではありません。
家族やパートナーが相手の場合は、その場で分かってもらおうとしないほうがうまくいきます。数字を書いた紙を渡して、読む時間を相手に預けてください。目の前で反応を求められると、相手も守りに入ります。
それでも「みんなそうだよ」と返ってくることはあります。そのときは説得をやめて、相談先を家庭の外に置いてください。理解してもらうことと、対処を進めることは、切り離して進められます。
女性の発達障害が気づかれないまま来た人へ/隠す量を、自分の側で減らしていく
隠す量を、自分の側で減らしていく
全部やめる必要はありません。やめても困らないところから、1つずつ減らします。
- 反応を薄くしていい相手を1人決める(すぐ笑わない、すぐ相づちを打たない)
- その場で答えない練習をする(「あとで返します」でいい場面を1つ作る)
- 素でいられる場所を1か所つくる(家の一室、車の中、通っている店でもかまいません)
- 隠すのを減らした日は、そのぶん人と会う量も減らす
- 週に1日は、誰とも予定を入れない日を先に確保しておく
急に素を出そうとすると、人間関係のほうが揺れます。先に「休める場所」を用意してから、隠す量を減らす順番のほうが安全です。
減らし始めると、罪悪感が出てくることがあります。「感じが悪いと思われたかもしれない」「前より冷たくなったと言われそう」。長いあいだ隠す側でやってきた人ほど、この揺り戻しは強く出ます。
そのときは、減らした行動そのものを見直すのではなく、それで何が起きたかを確かめてください。 実際に関係が壊れたのか、こわいと感じただけなのか。多くの場合、相手はそこまで見ていません。
なお、自閉スペクトラム症のある女性への聞き取りでは、職場で「素の自分でいられること」が希望として語られていました。ただし、それは特定の集団への聞き取りなので、あなたの職場に当てはまるとはかぎりません。
相談と受診の進め方
相談先は、病院だけではありません。
- 発達障害者支援センター:診断がなくても相談できます
- 市区町村の障害福祉の窓口:制度の使い方を確認できます
- 精神科・心療内科:受診には予約が必要で、数か月先になることもあります
受診するときに用意しておくと話が早いものがあります。
- さきほどの3行(回数と時間が入ったもの)
- 子どものころの様子が分かるもの(通知表の所見欄、母子健康手帳、家族から聞いた話のメモ)
- いま飲んでいる薬があれば、その名前
- 何を相談したいのか(配慮の根拠がほしい、眠れないのを何とかしたい、など)
4つ目がはっきりしていると、診察の時間が短くても要点が伝わります。逆にここが決まっていないと、「どうされましたか」で言葉に詰まりやすくなります。紙に1行書いて持っていくだけで十分です。
子どものころの材料が集めにくい人もいます。手元にない場合でも受診はできます。 覚えている範囲を書いていけば十分です。
予約が取れないときは、1つの医療機関で粘らずに、支援センターに先に相談してください。地域で受け付けている医療機関の情報を持っていることがあります。費用は初診と検査で変わるので、予約の電話で「初診の費用の目安」を聞いておくと見通しが立ちます。
診断がつかないこともあります。その場合でも、困りごとが消えるわけではありません。診断の有無と、工夫を始めていいかどうかは別の話です。
よくある質問
「女性の発達障害は男性とちがう」と読みました
そう書かれた記事は多いのですが、内容には幅があります。研究で比較的よく扱われているのは、隠す行動とその負担であって、「女性はこういう特性になる」と決まっているわけではありません。当てはまらなくても、おかしくありません。読んだ内容を自分に合わせにいくのではなく、自分の記録のほうを基準にしてください。
体調の波と重なってしんどい時期があります
そう感じている人はいます。ただ、この記事にその関係を説明できる出典はありません。判断は医師の領域なので、いつ、どのくらいしんどいのかを記録して、そのまま持っていってください。記録があると、どの科で相談すべきかの整理も早くなります。
子どもの受診をきっかけに、自分もではと思いました
よくある入り方です。子どもの受診先でそのまま親の相談まで受けられるとはかぎらないので、自分の分は別に予約してください。子どものころの自分の様子を、親から聞ける機会でもあります。ただ、家族の記憶は本人の実感とずれることがあるので、聞いた話は「材料の一つ」として持っていく程度で十分です。
診断がつかなかったら意味がないですか
意味がなくなることはありません。記録は職場に配慮を頼むときにも使えますし、支援センターの相談でも同じものを使います。診断は、制度を使うときの入口の一つにすぎません。
関連する困りごと
- 人に合わせた翌日に動けなくなるとき → 人といると異常に疲れる人へ
- 診断がつかないまま宙ぶらりんのとき → 診断がつかないのにしんどい人へ
- 受診を考え始めたとき → 発達障害かもと思ったら
- 限界まで気づけずに倒れるとき → 気づいたら限界になっている人へ
まず今日、これだけやってみる
- スマホにメモを1枚作って、今日うまくいかなかったことを1行だけ書く
- その行に「そのあと何時間かかったか」を足す
- 素でいられる場所を1か所決めて、今週そこで10分だけ過ごす
この記事について
この記事は、次の3つを裏づけとして書いています。
自閉スペクトラム症のある人の「特性を隠す・まわりに合わせる行動」については、たくさんの研究をまとめた分析があり、そこに心の負担がともなうことが整理されています。ただしこの分析は、隠すのをやめれば楽になるとまでは示していません。どちらが原因かは分かっていません。
ADHDの隠す行動については、国内のレビューが要因を整理しています。ただし論文自体が、実際に確かめた研究がまだ少ない領域だと述べています。
職場については、自閉スペクトラム症のある女性への聞き取りをもとにした研究があり、「素の自分でいられること」が希望として語られていました。これは特定の集団への聞き取りなので、性別や文化のちがう人へ一律に当てはめることはできません。
したがって、この記事は「女性の発達障害はこうである」と説明するものではありません。 見過ごされやすい条件がそろうことがある、というところまでです。あなたに当てはまるかどうかは、ここでは決まりません。
困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
がんばって隠せていたぶん、誰も気づかなかった。それを本人の努力不足みたいに言われるのは、順番がおかしいんですよね。隠せていたことのほうが、よっぽど大変だったはずですよ。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討「ただ自分のままでいたい」:自閉スペクトラム症のある女性が職場に求めていること
(原題:"I Would Love to Just Be Myself": What Autistic Women Want at Work)
この研究でわかっていること:「素の自分でいられること」が職場の希望として語られていると示せます。
ここはまだ分かっていません:性別・文化の異なる集団へ一律に一般化しません。
研究で検討自閉スペクトラム症における「特性を隠す・補う行動」:たくさんの研究をまとめた分析
(原題:Camouflaging in autism: A systematic review)
この研究でわかっていること:「普通に見えるようにふるまう」ことに消耗が伴うと言えます。
ここはまだ分かっていません:隠すのをやめれば楽になる、とどちらが原因かまでは分かりません。
研究で検討ADHDマスキング行動および関連要因の分類—文献レビューによる概念化の試み
この研究でわかっていること:特性を隠し続けることに負担があると整理できます。
ここはまだ分かっていません:実際に確かめた研究がまだ少ない領域だと論文自体が述べています。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。