涙がすぐ出てしまう人へ|職場で泣きたくないとき
— 泣かない自分になる前に、泣いても困らない段取りを作ります
ポイント
- 涙は体の反応なので、気づいた時点で頭から止めるのは間に合いません
- 止め方より、席を外す一言と泣ける場所を先に決めるほうが効きます
- 泣いたあとは、長く謝るより仕事の話に戻すと場が早く戻ります
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会議で「ここ、直しておいて」と言われる。うなずいて返事をしようとした瞬間、声が震えて、言葉より先に目の奥が熱くなります。
怒られたわけではありません。指摘の内容も、たぶん正しい。それなのに、涙のほうが先に出てしまいます。
そして泣いてしまうと、話の中身より「泣いた」ことのほうが場に残ります。気を使わせてしまった、と思うと、次に発言するのがもっと怖くなります。
先に結論を書きます。涙を止める練習より、出たときに困らない段取りを先に作るほうが早いです。 涙は体のほうが先に動く反応なので、気づいてから止めようとしても間に合わないことが多いのです。
この記事は、泣かない人になるためのものではありません。泣いても、その日の仕事が最後まで終わる形を作るためのものです。
なぜ言葉より先に涙が出るのか
涙が出るとき、体では同時にいくつものことが起きています。心臓が速くなる。喉の奥が締まる。息が浅くなる。顔や耳が熱くなる。涙は、その一連の反応の一部として出てきます。
つまり、「泣きそうだ」と自分で気づいたときには、体はもう動き始めています。そこから頭で命令しても、間に合わないのは自然なことです。
感情が動く大きさや速さには、人によって差があります。大人のADHDについては、感情が大きく動きやすいことを扱った研究をまとめた分析があり、性格の問題ではなく特性の一部として説明できると整理されています。
もうひとつ大事なのは、同じ出来事でも、日によって涙の出やすさが変わることです。寝不足の日、朝から何も食べていない日、予定が詰まった日は、同じ一言でも来やすくなります。
泣くこと自体は、直さなくていい
困っているのは涙そのものではなく、「この場面で出ると不都合だ」という点のはずです。家で映画を見て泣くぶんには、誰も困りません。
我慢しようとすると、息を止めて肩に力を入れることになります。すると喉が詰まって声が出なくなり、かえって長引きます。押さえ込むほど、収まりにくくなります。
さらに、ふだんから表情や口調をまわりに合わせて張り続けている人ほど、限界を越えた瞬間に一気に来ることがあります。まわりに合わせて自分のやり方を抑えることには心理的な負担がともなうと、自閉スペクトラム症を対象にした研究をまとめた分析で整理されています。
だから、目標を置き換えてください。「泣かない」ではなく、「泣いても、その場を立て直せる」を目標にします。ここから先は、そのための道具の話です。
【いちばん効く1つ】泣ける場所を、先に3か所決めておく
いちばん効くのはこれです。泣ける場所がないと、いちばん逃げ場のない場所で泣くしかなくなります。
- 職場の中に1つ。 別のフロアのトイレ、非常階段の踊り場、駐車場に停めた自分の車。同じ部署の人と会わずに行けることが条件です。
- 建物の外に1つ。 近くの公園のベンチ、コンビニの駐車場のはし、少し離れた道。外の空気に当たると、体の熱が下がりやすくなります。
- 帰り道に1つ。 電車を1本見送れるホームのはし、遠回りできる道。家に着くまで持ちこたえなくていい、と分かっているだけでラクになります。
選ぶ基準は3つです。5分で往復できること。人の話し声が聞こえないこと。座れればなおよいこと。
決めたら、泣いていない日に一度歩いてみて、何分かかるか測っておいてください。いざというときに迷わずに済みます。
そして「目の奥が熱くなったら、3階のトイレに行く」というふうに、合図と行き先をセットにして紙に書いておきます。 その場で考えて選ぶ余裕は、たいていありません。
涙が来る前の合図をつかむ
涙そのものは止めにくいのですが、その手前には、たいてい体のサインが出ています。ここを1つだけ覚えておくと、席を外す判断が早くなります。
よくあるサインを並べます。
- 喉の奥が締まって、飲み込みにくくなる
- 鼻の付け根がツンとする
- まばたきが増える、目を強く閉じたくなる
- 声が高くなる、語尾が細くなる
- 手や足の先が冷たくなる
- 耳や首のうしろが熱くなる
全部を覚える必要はありません。自分に毎回出るものを1つだけ選んで、それを合図にします。
合図が出たら、その場で議論を続けないでください。中身の話をやめて、退出の一言を出します。理由は言わなくてかまいません。
「すみません、一度お手洗いに行かせてください。3分で戻ります。」
戻る時間を先に言うと、席を立ちやすくなります。相手も「途中で帰ってしまうのでは」と心配しません。
その場でしのぐ手順
席を外せない場面もあります。そのときは、次の順で試してください。上から2つだけでも効くことがあります。
- 息を吐くほうを長くする。 4つ数えて吸い、8つ数えて吐く。これを3回。息を止めないのがコツです。
- 手や首のうしろを冷やす。 冷たいペットボトル、水道の水、金属の机の面。体の熱が下がると、勢いが弱まることがあります。
- 下を向かない。 うつむくと涙がこぼれます。上を向くのは不自然なので、正面の少し遠くを見ます。
- 手を動かす用事を作る。 メモを取る、資料をめくる、水を飲む。手が動いていると、体の緊張がほどけることがあります。
- 姿勢を変える。 背中を伸ばして、肩を一度上げてから落とす。固まった姿勢のままだと、涙が出やすくなります。
効かない日もあります。効かなかったのは、やり方が下手だからではありません。そういう日は、席を外していい日です。
涙がすぐ出てしまう人へ/泣いてしまったあとの立て直し
泣いてしまったあとの立て直し
泣いたあとにいちばんつらいのは、涙ではなく、そのあとの気まずさです。ここに手順があると、翌日の重さが変わります。
- 顔を冷やして、5分待つ。 赤みは時間で引きます。鏡を見て落ち込む時間には使わないでください。
- 席に戻ったら、自分から先に口を開く。 相手は声をかけていいか迷っています。こちらから出すと、場が動きます。
「さっきは失礼しました。話の続きですが、期日は金曜でよかったですか。」
謝罪は一言で切り上げて、すぐ仕事の話に戻すのがコツです。長く謝るほど、相手にも気を使わせてしまいます。
- その日のうちに、1行だけメモする。 何を言われた直後だったか、そのときの体調はどうだったか。それだけで十分です。
- 3回たまったら、共通点を探す。 特定の人、午後の遅い時間、人前で名前を呼ばれる場面。共通点が見えたら、そこだけ先回りできます。
自分を責める言葉をメモに書かないでください。記録は、次に備えるための材料です。反省文ではありません。
涙が出やすい日を減らす
同じ指摘でも、体力があるときは平気で、ないときは涙が出ます。涙は体力の問題でもあります。
- 重い話し合いを、夕方に入れない。 面談や評価の場は、可能なら午前中に置いてもらいます。
- 会議の前に何か食べる。 空腹のまま人と話すと、感情の振れ幅が大きくなる人がいます。
- 予定を詰め込みすぎない。 打ち合わせが連続する日は、それだけで消耗します。
- 人と会ったあとに、何もしない時間を置く。 気を張り続けたあとは、回復に時間がかかります。
疲れに自分で気づけないタイプの人は、体調のほうを時間で管理するほうが確実です。くわしくは気づいたら限界になっている人へ|疲れや空腹に気づけないにまとめました。
涙がすぐ出てしまう人へ/場面別|逃げにくいときの持ちこたえ方
場面別|逃げにくいときの持ちこたえ方
1対1の面談・評価の場
逃げ場がなく、内容も重くなりがちです。始まる前に「メモを取りながら聞きます」と伝えておくと、手を動かす口実ができます。
その場で答えを出さなくていい場面も多いです。
「大事な話なので、一度持ち帰って整理してもいいですか。」
大勢のいる会議
出口に近い席か、はしの席を選んでください。真ん中の席は、立つだけで目立ちます。
発言の順番が回ってくると分かっているなら、話す中身を短くメモしておきます。読み上げるだけの形にしておくと、声が震えにくくなります。
電話・オンラインの打ち合わせ
涙は見えませんが、声には出ます。オンラインならカメラを切る、マイクを一度切って息を整える、という手が使えます。
込み入った話になりそうなら、文字でのやりとりに変えてもらう相談もできます。
接客・客先での対応
席を外しにくい場面です。「確認してまいります」という一言を、口実として先に用意しておいてください。奥に下がる数十秒でも、立て直せることがあります。
よくある質問
泣いたことを謝るべきですか
一言で十分です。相手が困っているのは涙ではなく、話をどう続けるか分からない点です。仕事の話に戻すほうが、相手も助かります。
「感情的だ」と言われたときは
言われた内容と、涙が出たことは別の話です。その場で言い返さなくてかまいません。伝えたいことがあるなら、落ち着いてから文字で送るほうが伝わります。
上司に伝えておいたほうがいいですか
人によりますし、職場の雰囲気にもよります。伝えるなら、事情ではなく対応のしかたとして伝えると受け取ってもらいやすくなります。
「緊張すると涙が出やすいのですが、話は聞いていますので、そのまま続けてください。」
言い方の組み立ては職場に「これがつらい」と言えない人へ|配慮のお願いのしかたにまとめました。
泣いた自分が嫌になります
涙が出たことは、能力や人柄の評価ではありません。体の反応です。落ち込みが何日も抜けないときは、涙とは別の相談ごととして扱ってください。
関連する困りごと
- 人に合わせ続けて消耗しているなら → 人といると異常に疲れる人へ|合わせ続けることの負担
- 職場に事情を伝える言い方を知りたいなら → 職場に「これがつらい」と言えない人へ|配慮のお願いのしかた
- 限界まで気づけずに倒れがちなら → 気づいたら限界になっている人へ|疲れや空腹に気づけない
- 引き受けすぎて追い込まれているなら → 頼まれごとを断れない人へ|角を立てずに断る言い方
まず今日、これだけやってみる
- 泣ける場所を1か所決めて、実際に往復してみる。 かかった時間を測っておきます。
- 席を外す一言を、スマホのメモに書く。 「3分で戻ります」まで含めて、そのまま読める形にします。
- 次に涙が出そうになったら、直前の場面を1行だけ書き残す。 責める言葉は書きません。
涙をゼロにはできません。出たあとの手順を持っているかどうかで、次の日の重さが変わります。
この記事について
感情が大きく動きやすいことについては、大人のADHDを対象にした研究をまとめた分析があります。これは「性格の問題ではなく、特性の一部として説明できる」と言えるものです。ただし、対処法の効果を調べた研究ではありません。
まわりに合わせて自分のやり方を抑えることに心理的な負担がともなうことは、自閉スペクトラム症を対象にした研究をまとめた分析で整理されています。ただし、合わせるのをやめれば楽になる、という因果関係まで示したものではありません。
そのうえで、この記事に書いた退出の一言や、その場でしのぐ手順は、研究で効果が確かめられたものではありません。 仕組みとしては筋が通るので、合いそうなものから小さく試してみてください。
涙が止まらない日が続く、朝から気持ちが落ちたままになる、眠れない日が続く。こうしたときは、一人で持ちこたえようとしないでください。困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
泣きたくないときほど出るし、出たら出たで「泣いてしまった」ことが恥ずかしくて、また来るんですよね。涙って押さえつけるほど強くなるので、止める練習より、出たあと困らない道具を持っておくほうが早いです。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討成人ADHDにおける感情の調節のしにくさ:研究をまとめた分析
(原題:Emotion dysregulation in adults with attention deficit hyperactivity disorder: a meta-analysis)
この研究でわかっていること:感情が大きく動きやすいことを、性格ではなく特性の一部として説明できます。
ここはまだ分かっていません:対処法の効果を調べたものではありません。
研究で検討自閉スペクトラム症における「特性を隠す・補う行動」:たくさんの研究をまとめた分析
(原題:Camouflaging in autism: A systematic review)
この研究でわかっていること:「普通に見えるようにふるまう」ことに消耗が伴うと言えます。
ここはまだ分かっていません:隠すのをやめれば楽になる、とどちらが原因かまでは分かりません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。