WAIS(知能検査)を受けるか迷う人へ|検査で分かること・分からないこと
— 合計の数字より、領域ごとの差のほうが役に立ちます
ポイント
- WAISは大人向けの知能検査で、いくつかの力を同じものさしで並べて見るための道具です
- この検査だけで発達障害の診断はつきません。診断は問診や育ちの様子とあわせて医師が判断します
- 持ち帰るのは合計の数字ではなく、どの場面で苦労しやすいかと、その補い方です
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病院で「一度、知能検査を受けてみましょうか」と言われた。あるいは自分で調べていて、WAISという名前にたどり着いた。
調べてみると、IQという数字が出るらしい。得意と苦手の凸凹が分かるらしい。でも、その数字を見せられて何が変わるのかは、どこにも書いてありません。時間もお金もかかりそうで、予約の電話をかける前に手が止まります。
まわりに聞ける相手もいません。受けた人の書き込みは見つかりますが、出てくる数字はばらばらで、自分の場合にどう当てはまるのかは見当がつきません。そもそも受けたほうがいいのかどうかも、自分では決められない。
先に結論を書きます。WAISは、頭の良し悪しを決める試験ではありません。 いくつかの力を同じものさしで測って、その出かたのばらつきを見るための道具です。そして、この検査だけで発達障害の診断がつくことはありません。
WAISは何を測っている検査なのか
WAISは、おおよそ16歳から受けられる大人向けの知能検査です。心理の専門職と1対1で、机をはさんで進めます。かかる時間は1時間半から2時間ほど。途中で休憩をはさむこともあります。
出てくるのは、全体をまとめた数字と、いくつかの領域ごとの数字です。領域の呼び方や数は版によって変わりますが、大きくは次のような力に分かれます。
- ことばで説明したり、意味をつかんだりする力
- 図や形を見て、規則を見つけて考える力
- 聞いたことを頭の中に置いたまま、作業を進める力
- 決まった作業を手早く正確にこなす力
ここで大事なのは、合計の数字ではなく領域どうしの差のほうです。どこも同じくらいの高さなら、生活はそれなりに読みやすくなります。ところが、ある領域だけが大きく下がっていると、毎日そこでつまずくことになります。
数字は、同じ年代の人たちの真ん中がおよそ100になるように作られています。ですから「100より下だからだめ」という読み方にはなりません。真ん中から、どちらにどれくらい離れているかを見るための目盛りです。
得意と苦手の差が大きいことを、よく凸凹と言います。ただし、差が小さくても困っている人はいますし、差が大きくても困っていない人もいます。 数字の形と生活のしんどさは、そのまま一致するものではありません。
国の発達障害情報・支援センターも、特性の出かたは人によって違うと説明しています。同じ診断名でも、困る場面はまったく別ということが普通に起こります。検査は、そのばらつきを言葉ではなく数字で見えるようにする作業です。
【いちばん大事】数字ではなく「差」を持ち帰る
検査の本番は、問題を解いた日ではありません。後日おこなわれる、結果の説明のほうです。
ここで数字だけ聞いて帰ると、手元には何も残りません。次の3つを、その場で必ず聞いてください。
- どの領域が高くて、どの領域が低かったか
- その差は、日常のどんな場面に出やすいか
- 何で補えるか(道具、環境、人への頼み方)
言い方に迷うなら、そのまま口に出せる形にしておきます。
「数字の意味よりも、生活のどの場面に出やすいかを教えてください」
「補うために明日から変えられることを一つ挙げるとしたら、何になりますか」
結果説明の日は、できれば一人で行かないほうが楽です。聞きながら書くのは、それだけで手一杯になります。難しければ、あとで自分に説明し直すつもりでメモを取ってください。
説明が口頭だけのこともあります。メモを取っていいか、最初に断ってから書いてください。 文書として報告書がもらえるかどうかは医療機関によって違います。あとで職場や学校に相談する予定があるなら、この時点で聞いておくと動きやすくなります。
WAIS(知能検査)を受けるか迷う人へ/分かること、分からないこと
分かること、分からないこと
期待しすぎても、こわがりすぎても損をします。正直に分けます。
この検査から分かること
- 領域ごとの、得意と苦手の出かた
- 同じ年代の人と比べたときの、おおよその位置
- どこを外の仕組みで補えばよさそうか
- 配慮を相談するときに、話の土台になる説明
この検査では分からないこと
- 発達障害かどうか
- この先どうなるか
- 診断がついたあとに、どんな支援が使えるか
- その人の価値や、努力の量
後ろの一覧に発達障害かどうかが入っているのが、いちばん意外に見えるところだと思います。けれど、これがこの検査の性格です。どんな形の凸凹なら発達障害、という線引きはありません。
数字は、動かない値でもありません。寝不足、体調、緊張、部屋の音で上下します。短い間に同じ検査をくり返せば、慣れの影響も入ります。
ですから、出た数字を身分証のように扱わないでください。その日の自分を、ひとつのやり方で測ったらこうなった、という記録です。
受けるかどうかを決める前に
受けると決める前に、何のために受けるのかを一つに絞っておくと、あとで迷いません。よくあるのは次の3つです。
- 説明がほしい。なぜ同じところでつまずくのか、自分なりに納得したい
- 相談の材料がほしい。職場や学校に配慮を頼むときの、話の土台がほしい
- 診断の流れとして勧められた。医師から必要だと言われている
3つめなら、迷う場面は多くありません。「何を確かめるための検査ですか」とだけ聞いて、そのまま進めて大丈夫です。
迷いやすいのは1つめと2つめです。説明がほしいだけなら、検査でなくても足りることがあります。 困った場面を書き出して主治医と話すほうが、早くて費用もかからずにすむ場合があります。
逆に、急がなくていい場面もはっきりしています。いま眠れない、食事がとれない、気分の落ち込みが強い。こういうときは、検査より先に手当てが要ります。しんどさが強い状態で受けた結果は、その状態の影響を受けます。
WAIS(知能検査)を受けるか迷う人へ/受けるまでの流れ
受けるまでの流れ
- まず受診します。 精神科や心療内科で、いま困っていることを話します。検査だけを単独で申し込める場所は多くありません
- 医師が必要と判断すると、検査の予約になります。 ここで数週間から数か月待つことがあります
- 検査当日。 静かな部屋で、心理の専門職と2人で進めます
- 後日、結果の説明。 ここが本番です
当日に出てくるのは、言葉の意味を答えるもの、絵や積み木を並べるもの、数字をくり返すもの、記号を書き写すものなど、種類の違う課題です。全部に正解できる人はいません。 だんだん難しくなっていって、どこかで答えられなくなるように作られています。分からないまま次に進むのが普通です。
途中で気分が悪くなったら、我慢せずに言ってください。中断することも、日を改めることもできます。
当日のためにできる準備は、それほど多くありません。
- 前の日は、できる範囲で早めに横になる
- 眼鏡や補聴器を使っている人は、忘れずに持っていく
- 体調がはっきり悪い日は、無理をせず日程の変更を頼む
費用は、医療機関によって、また保険が使えるか自費かによって変わります。 金額をここで言い切ることはできません。予約の電話で「保険は使えますか」「だいたいいくらになりますか」と、先に聞いてください。聞くのは失礼なことではありません。所要時間と、結果が出るまでの日数も、同じ電話で確認できます。
結果を、生活の設計図に変える
低かった領域は、鍛えて直す対象ではなく、外側で補う対象として扱うほうが早いです。出かたは人によって違うので、当てはまるものだけ拾ってください。
聞いたことを保っておくのが苦手だと言われた場合は、頭の中に置かない工夫にします。その場で書く。録音していいか許可をもらう。手順はチェックリストにして、記憶ではなく紙で確認します。
手早くこなす力の数字が低めだった場合は、量ではなく順番の問題として組み直します。締め切りを自分の中で1日前倒しにする。同時に2つ持たない。速さそのものを評価されない持ち場を選ぶ。
ことばのやりとりに差が出た場合は、口頭で終わらせないことです。打ち合わせのあとに「私の理解で合っているか確認させてください」と1通送るだけで、行き違いはかなり減ります。
図や形で考えるところに差が出た場合は、目で見て察するのをやめて、言葉にしてもらいます。「先にこれ、次にこれ」と順番で説明してもらうほうが、図を見せられるより早いことがあります。
職場や学校に相談するときは、数字をそのまま見せる必要はありません。 見せられた側も扱いに困ります。伝えるのは、困る場面と、こうしてほしいという頼みごとの2つで足ります。
どの領域が低く出ても、やり方を変えれば結果が変わる部分は必ず残ります。数字は変えられませんが、置き場所と手順と頼み方は変えられます。
よくある質問
検査を受ければ診断が決まるのですか
決まりません。診断は、いまの困りごと、育ちのころの様子、ほかの原因がないかなどを合わせて医師が判断します。検査はその材料のひとつです。逆に、検査を受けないまま診断がつくこともあります。
数字が高かったら、支援は受けられないのですか
そうとは限りません。見られるのは数字ではなく、生活にどれだけ支障が出ているかです。高い領域があるせいで苦手が目立たず、周りに分かってもらえないという相談も少なくありません。
低い数字を見せられるのが怖いです
自然な気持ちです。ただ、検査を受けても受けなくても、いま困っていることは変わりません。こわさが強いときは、結果の説明に誰かについてきてもらうこともできます。受けないという選び方もあります。
検査を勧められましたが、断ってもいいですか
断れます。受けるかどうかを決めるのは本人です。 ただし、勧められた理由は聞いておいてください。「何を確かめたいのですか」と尋ねれば、どうしても必要なのか、あったほうがいいという程度なのかが分かります。
結果はいつ聞けますか
その場では出ません。採点と整理に時間がかかるので、数週間あくことが多いです。結果説明の予約は、検査を受けた日のうちに取っておくと確実です。
子どものころに受けた検査の結果は使えますか
手元にあるなら、持っていく価値はあります。ただし大人向けの検査とは中身が違い、そのまま並べて比べられるものではありません。あれば参考、なくても問題ないという扱いです。
関連する困りごと
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- 結果を職場に伝えたいなら → 職場に「これがつらい」と言えない人へ|配慮のお願いのしかた
まず今日、これだけやってみる
- 困っている場面を3つ、日付つきで書き出す(検査より先に、これが材料になります)
- 通っている医療機関に「検査はできますか」と聞く(できない場合は、紹介先を尋ねる)
- 予約するなら、その電話で費用と所要時間を確認する
書き出した3つは、検査を受けないと決めた場合でも、そのまま相談の材料になります。
この記事について
発達障害の基本的な説明は、国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターが公開している情報をもとにしています。ただしこの情報は、個別の検査の受け方や費用を保証するものではありません。 検査の名前や版、かかる時間、料金、結果の伝え方は、医療機関ごとに違います。
この記事に書いた領域の分け方も、おおまかな説明です。版によって呼び方も区切りも変わります。 実際の中身は、受ける医療機関で確認してください。
そしてくり返しになりますが、WAISは発達障害を判定するための検査ではありません。 数字だけで診断も支援も決まりません。「この数字ならこうなる」と書いてあるものを見かけたら、いったん疑ってください。
どこで受けられるか分からないときは、発達障害者支援センターに聞くという方法もあります。全国にあり、診断や手帳がなくても相談できます。ただし対応できる内容は自治体ごとに違います。 検査そのものを実施していない場合もあります。
困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
数字が出ると聞くと、身構えますよね。でもWAISは、点を取りにいく試験ではないんです。どこで苦労しているのかを、勘ではなく地図で確かめる作業だと思ってください。
この記事の出どころ
- 専門家・公的情報
- 厚生労働省などの公的な機関や、専門家が出している情報をもとにしています。
専門家・公的情報発達障害情報・支援センター
この研究でわかっていること:発達障害の基本的な説明と支援情報の一次情報として使えます。
ここはまだ分かっていません:個別の生活術を保証する情報ではありません。
専門家・公的情報発達障害者支援センター・一覧
この研究でわかっていること:相談先の案内として使えます。
ここはまだ分かっていません:対応内容は自治体ごとに異なります。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。