「甘え」と言われてつらい人へ|受け止め方と距離の取り方
— その一言に、あなたが答える義務はありません
ポイント
- 「甘え」は評価の言葉で、何が起きているかの説明にはなっていません
- その場で説得しようとせず、持ち帰る一言を先に決めておきます
- 説明する相手は自分で選んでよく、全員に伝える義務はありません
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「それくらい、みんなやってることだよ」
親に言われた。上司に言われた。悪気のない顔で、仲のいい友達に言われた。その場では笑ってごまかしたのに、家に帰ってから何時間も、その一言が頭の中で再生され続ける。
反論できなかった自分にも腹が立つ。そして、しばらくすると「本当にそうなのかもしれない」と思えてくる。ここがいちばんきついところです。
先に結論を書きます。「甘え」は、あなたに起きていることの説明にはなっていません。 それは相手がつけた評価であって、何が起きているかを述べた言葉ではありません。だからこの記事では、言い負かす方法ではなく、その言葉をどう扱い、誰にどこまで話し、どう距離を取るかを書きます。
なぜ「甘え」という言葉が出てくるのか
まず、この言葉が出てくる仕組みを分けておきます。相手を悪者にするためではなく、あなたが自分を責めなくてよくするためです。
理由の1つ目は、困りごとが外から見えないこと。 疲れやすさも、頭が真っ白になることも、朝に体が動かないことも、外側からは何も見えません。見えないものは、やっていないように見えます。
2つ目は、相手が自分の経験を物差しにしていること。 自分にできたことは他人にもできるはずだ、という前提で話しています。その人にとっては本当に「気合いで乗り切れたこと」だったのかもしれません。
3つ目は、相手が言葉を持っていないこと。 「怠けている」と「うまくできない」を区別する言葉を、多くの人は持っていません。手持ちの言葉が少ないと、いちばん近いものが出てきます。
もちろん、はっきりと悪意で言われることもあります。どちらであっても、言われた側の傷は同じように残ります。
自閉スペクトラムのある成人を対象にした研究では、周囲に受け入れられている感覚と心の健康に関係があることが示されています。受け入れられていない言葉がこたえるのは、あなたが弱いからではありません。
【いちばん効く1つ】その場で分かってもらおうとしない
いちばん消耗するのは、言われたその場で説明して、相手を納得させようとすることです。
うまくいきにくい理由がはっきりしています。
- こちらは動揺した状態で、いちばん難しい説明をすることになる
- 相手はすでに「言い訳を聞く構え」になっている
- その場の空気で決着をつけようとすると、負けた感覚だけが残る
だから、言われる前に決めておきます。「甘え」と言われたら、その場では反論しない。 代わりに使う一言を、次の3つから1つ選んで用意しておいてください。
- 「そう見えるんですね」で、いったん受け取って終わらせる
- 「ちょっと考えます」で、持ち帰る
- 何も言わず、天気や仕事の話に切り替える
これは黙って我慢することとは違います。話す場所と時間を、自分の側で選び直しているだけです。準備してある言葉が1つあると、頭が真っ白になっても口が動きます。
「甘え」と言われてつらい人へ/「甘え」と「困っていること」は別の話
「甘え」と「困っていること」は別の話
言われたことをそのまま抱えると、頭の中で議論が続いてしまいます。そこで、評価の言葉と、事実の言葉を分けます。
| 言われたこと | 事実に置き換えると |
|---|---|
| やる気がないだけ | 先月、提出の期限を3回過ぎました |
| みんな眠いのを我慢している | 夜中に何度も目が覚めて、午前中は頭が働きません |
| 気の持ちようだよ | 音がある場所だと、話の中身が半分くらい抜けます |
右側には、反論のしようがありません。そして右側は、次の一手につながります。 期限を過ぎるならリマインドの形を変える。聞き取れないなら文字でもらう。
事実を書くときは、盛らないほうが強く働きます。「いつも」「全然」ではなく、「先月は3回」と数えられる形にしてください。数が入っていると、相手も自分の記憶と突き合わせられます。
左側で言い合っているあいだは、生活は1ミリも変わりません。「甘えかどうか」に結論が出なくても、困りごとへの手当ては今日から始められます。
「甘え」と言われやすい場面
言われる場面には、だいたい決まった型があります。先に知っておくと、その場で驚かずにすみます。
| 相手に見えていること | 実際に起きていること |
|---|---|
| 何度も遅刻する | 朝の支度の工程が多く、どこかで止まると全部が後ろにずれる |
| 部屋が片づいていない | 手順を思い出せず、最初の一手が決まらない |
| 同じミスをくり返す | 見直しのやり方が仕組みになっていない |
| 疲れたと言ってよく休む | 人と会った翌日に、実際に動けない時間がある |
| お金が残らない | 支払いの流れが自動になっていない |
左側だけを見ている人には、右側が見えていません。だからこちらがやることは、右側を1つだけ渡すことです。全部を説明しようとすると長くなり、途中で聞いてもらえなくなります。
そして右側は、どれも工夫で軽くできる可能性があるものです。言われた言葉に向き合うより、右側に手を打つほうが早いことは多いです。
説明する相手を、自分で選ぶ
全員に分かってもらう必要はありません。相手を3つに分けて、方針を変えてください。
| 相手 | 方針 |
|---|---|
| 生活が実際に変わる相手(上司、同居の家族、パートナー) | 事実と、してほしい調整だけを伝える |
| ときどき会うだけの相手 | 説明しない。話題を変える |
| 何度話しても同じことを言う相手 | 説明をやめて、話す量を減らす |
説明しないことは、逃げでも嘘でもありません。自分が何者かを、会う人ごとに証明する義務はないからです。
伝える相手が職場の人なら職場に「これがつらい」と言えない人へ、家族なら家族に特性を分かってもらえない人へに、順番と言い方をまとめています。
「甘え」と言われてつらい人へ/言われたときに使える返し方
言われたときに使える返し方
そのまま使えるように、場面別に置いておきます。声に出して1回読んでおくと、本番で出やすくなります。
その場を穏やかに終わらせたいとき。
「そう見えますよね。自分でもそう思っていた時期があります。」
持ち帰りたいとき。
「言いたいことは分かりました。少し整理してから、また話させてください。」
事実だけ置いておきたいとき。
「甘えかどうかは私にも分からないんですが、実際に月3回、同じミスが出ています。そこを何とかしたいと思っています。」
その言い方をやめてほしいと伝えるとき。
「そう言われると、次から相談しにくくなります。困りごとの相談として聞いてもらえませんか。」
言われた瞬間に体が固まってしまう人は、この一言をスマホのメモの1行目に入れておいてください。頭が動かなくても、画面を見れば読めます。うまく言えなくても、黙って席を立って構いません。
共通しているのは、相手を責める形にしていないことです。「あなたは間違っている」で始めると、相手は守りに入ります。「私はこう困っている」で始めるほうが、話が続きます。
自分でも「甘えかもしれない」と思ってしまうとき
いちばんつらいのは、他人の言葉が自分の中に住みついてしまうことです。
- できた日のことを、まったく思い出せない
- できなかったことだけを数えている
- 「本当はやれるのに、やっていないだけでは」と考え続けてしまう
こうなったときの手当てを3つ。
- その日にできたことを、1行だけ書く。歯を磨いた、洗濯機を回した、で構いません
- 「甘え」という言葉を使わずに、いま起きていることを書き直してみる
- 結論を出そうとしない。判断は保留のままで生活できます
そして覚えておいてほしいことがあります。甘えかどうかの結論が出るまで、対策を止める必要はありません。 目覚ましを増やすのも、耳栓を買うのも、手順を紙に書くのも、誰かの許可を待たずに今日できます。
相手が変わらないときの自衛
説明しても、言い方を頼んでも、同じ言葉が返ってくることはあります。そのときは、相手を変える作戦から、自分を守る作戦に切り替えてください。
- 会う回数と時間を減らす。 連絡の頻度を落とす。実家に帰る日数を短くする
- 話題を渡さない。 その人には、自分の困りごとの話をしないと決める
- 記録する。 職場で繰り返されるなら、日付・場面・言われた言葉をメモに残す
- 第三者を入れる。 職場なら人事や産業医。家庭のことなら外部の相談窓口
同居していて距離を取りにくいときは、時間でずらす方法があります。顔を合わせる時間帯を変える、食事を別にする、自分の部屋にいる時間を増やす。物理的に離れられなくても、接する量は減らせます。
職場で人格を否定するような言葉が続くなら、それは相性の問題ではなく職場の問題として扱えます。ひとりで判断せず、記録を持って相談してください。
診断や手帳がなくても相談できる窓口は各地にあります。診断がないことだけを理由にあきらめなくて大丈夫です。 ただし、受けられる内容は自治体ごとに違うので、まず電話で確かめてください。
よくある質問
診断がないので、言い返せる材料がありません
診断名は、説明の材料のひとつにすぎません。困りごとを日付と回数で書き出したメモのほうが、話し合いでは強く働きます。診断がつかない状態のしんどさそのものについては診断がつかないのにしんどい人へにまとめています。
親に伝えたいのですが、毎回けんかになります
けんかになるのは、たいてい「分かってもらう」ことを目的にしているときです。目的を「1つだけ頼む」に変えてみてください。理解は後からついてくることも、ついてこないこともあります。それでも、頼みごとが1つ通れば生活は変わります。
上司に言われました。すぐ人事に相談すべきですか
急がなくて構いません。まず、いつ・どこで・どう言われたかを記録に残してください。相談するかどうかは、記録がたまってから決められます。記録があると、相談したときの話が具体的になります。
悪気がないのは分かるので、余計につらいです
悪気があるかないかと、こちらが受けた傷の大きさは別のものです。相手を許すかどうかを先に決めなくても、距離を取ることはできます。「いい人だから我慢する」は、長く続きません。
自分も誰かに同じことを言ってしまったことがあります
その経験があるからといって、いま言われてつらいことが取り消されるわけではありません。言葉の使い方は、あとから変えられます。過去の自分を裁く時間より、次に誰かの話を聞くときに使えるほうが役に立ちます。
関連する困りごと
- 診断がつかないまま、説明できずにいる → 診断がつかないのにしんどい人へ
- 家族に何度言っても伝わらない → 家族に特性を分かってもらえない人へ
- 職場でつらいと言い出せない → 職場に「これがつらい」と言えない人へ
- 人に合わせたあとの消耗が大きい → 人といると異常に疲れる人へ
まず今日、これだけやってみる
- 言われた言葉と、そのときに実際に起きていた事実を、1行ずつ分けて書く
- 次に言われたときに使う「持ち帰る一言」を、3つの中から1つ選ぶ
- 説明する相手を1人だけ決めて、それ以外には説明しないと決める
この記事について
自閉スペクトラムのある成人を対象にした研究から、周囲に受け入れられている感覚と心の健康に関連があることを示せます。ただしこれは、ある時点で調べた研究です。受け入れられないから調子を崩すのか、調子が悪いから受け入れられていないと感じやすいのか、どちらが原因かまでは分かりません。 対象も自閉スペクトラムのある成人で、ADHDのある人やほかの立場の人に同じことが言えるかは、この研究からは分かりません。
発達障害の基本的な説明と相談先の情報は、国立障害者リハビリテーションセンターが公開している情報を参照しています。こちらは、個別の生活術の効果を保証するものではありません。
そして、「甘え」と言われた経験そのものを調べた研究は見つかっていません。この記事に書いた返し方、相手の分け方、自衛のやり方は、研究で効果が確かめられた方法ではありません。合いそうなところだけ持って行ってください。
気分の落ち込みや眠れない状態が続くときは、この言葉の問題とは別に、相談する理由があります。困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
言われた瞬間より、家に帰ってからのほうがしんどいんですよね。あの言葉がずっと頭の中で再生される。だから、その場で勝つことより、あとで自分がどう扱うかを先に決めておくほうが効くんです。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
- 専門家・公的情報
- 厚生労働省などの公的な機関や、専門家が出している情報をもとにしています。
研究で検討自閉スペクトラム症のある成人における「受け入れられた経験」と心の健康
(原題:Experiences of Autism Acceptance and Mental Health in Autistic Adults)
この研究でわかっていること:周囲に受け入れられている感覚と心の健康が関連することを示せます。
ここはまだ分かっていません:ある時点で調べたもので、どちらが原因かまでは分かりません。
専門家・公的情報発達障害情報・支援センター
この研究でわかっていること:発達障害の基本的な説明と支援情報の一次情報として使えます。
ここはまだ分かっていません:個別の生活術を保証する情報ではありません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。