話そうとすると頭が真っ白になる人へ|言葉が出てこないとき
— その場で言葉を作らなくて済む形を、先に用意します
ポイント
- 真っ白になるのは、その場で言葉を作ろうとしているからです
- 沈黙を埋める一言を持っておくと、考える数秒を自分で作れます
- 言えなかったことは、あとから文字で補ってかまいません
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会議中に、急に名前を呼ばれる。「どう思う?」と聞かれた瞬間、頭の中が白くなる。口からは「えっと」「あー」しか出てこなくて、机の木目だけがやけにはっきり見える。
帰り道になって、言いたかったことがきれいに出てくる。あのとき、こう言えばよかった。もっと早く言えていれば。そう思いながら、その場面を何度も思い出します。
黙っていたせいで、興味がないと思われたかもしれない。考えていないと思われたかもしれない。そう考えると、次に同じ場に出るのがもっと怖くなります。
先に結論を書きます。真っ白になるのは、その場で言葉を作ろうとしているからです。 作る場所を、その場から前と後ろにずらしてください。話せる回数は増えます。
この記事は、日常の会話と職場でのやりとりの話です。話す内容が前から決まっている場面とは、対処のしかたが少し変わります。
なぜ頭が真っ白になるのか
真っ白は、何も考えていない状態ではありません。むしろ逆です。一度にいくつものことが動いている状態です。
短い時間のあいだに、頭の中ではこれだけのことが起きています。
- 何を答えるか決める
- どの順番で言うか組み立てる
- 相手がどう受け取るか予想する
- さっきの人の発言と食いちがっていないか確かめる
- 自分の声や表情を気にする
これを全部、1秒でやろうとすると出口がふさがります。言葉が出ないのは頭が止まったからではなく、同時に走らせすぎているからです。
考えが別のところに流れやすい人もいます。ADHDのある人を対象にした研究では、場面に合わせて考えのさまよいを抑える働きがかかりにくいと報告されています。話を聞いている途中で前の話題に戻ってしまい、名前を呼ばれたときに現在地が分からない。これは、やる気の問題とは別のことです。
もうひとつ、言葉にする手前でつまずいていることがあります。感じていることはちゃんとあるのに、それを日本語の文に組み直すのに時間がかかる。頭の中では絵や感覚のかたまりで持っていて、順番に並べる作業が必要になります。一人なら数十秒で終わる作業ですが、人に見られている場では、その数十秒がありません。
そして、一度白くなった経験があると、次からは「また白くなるかも」という予想が上に乗ります。この予想そのものが、白くする力を持ちます。怖さは、その日の気分ではなく記憶からできています。
だから必要なのは、緊張しない練習ではありません。その場で作らなくていい形を用意することです。
【いちばん効く1つ】考える時間を、口で作る
覚えるのは一言だけです。話を振られたら、内容の前にこれを言ってください。
「少し考えます。10秒ください。」
これで、10秒が手に入ります。10秒あれば、たいていの人は最初の一文を組み立てられます。
言いにくければ、同じ働きをする言い方をどれか1つ選んでおきます。
「いま整理しているので、少しお待ちください。」 「質問をもう一度いいですか。」 「先に他の方の意見を聞いてもいいですか。」
沈黙が気まずいのではなく、説明のない沈黙が気まずいだけです。 「いま考えています」と外に出せば、同じ数秒がただの間になります。
なぜ「10秒ください」が効くのか
黙っていると、相手は「聞こえなかったのかな」「分からないのかな」と考え始めます。すると相手が言葉をかぶせてきて、こちらの考える時間はさらに短くなります。
先に宣言しておくと、相手はその10秒を待ってくれます。時間は、お願いすればもらえます。 頭の回転を上げようとするより、こちらのほうが確実です。
使う場面を、先に決めておく
その場で「言おうかどうしようか」と迷うと、結局言えません。「名前を呼ばれたら、まず10秒くださいと言う」と決めておいてください。迷う手間がなくなります。
話そうとすると頭が真っ白になる人へ/沈黙を埋める言葉を、5つだけ持つ
沈黙を埋める言葉を、5つだけ持つ
10秒では足りない日もあります。そのときのために、意味のうすい言葉を用意しておきます。中身がなくていいので、口が動きます。
- 「たしかに、そうですね。」
- 「そこは考えていませんでした。」
- 「いま、うまくまとまっていないのですが。」
- 「一つ確認してもいいですか。」
- 「結論から言うと、まだ決めきれていません。」
どれも、内容をひとつも言っていません。それでいいんです。口が動き始めると、あとの言葉が続きやすくなります。 完全に止まった状態から話し出すのが、いちばん難しいからです。
5つ全部は覚えられないので、紙に書いて手帳やスマホのメモに入れておいてください。 会議前に一度読むだけで、思い出しやすさが変わります。
「分かりません」も、立派な返事です
分からないときに何か言おうとするから、固まります。
「すみません、その場では分かりません。調べて、今日中にお返事します。」
これで会話は終わります。その場で答える義務は、たいていの場面でありません。 期限だけ言っておけば、無責任にもなりません。
話す前に、3行だけ書いておく
会議や打ち合わせのように、時間が分かっている場では、前の5分で書くだけで結果が変わります。
- 紙かスマホのメモを開く
- 言いたい結論を1行書く
- その理由を1行書く
- 相手に聞きたいことを1行書く
3行で足ります。長い原稿を書くと、読み上げる形になって崩れやすくなります。
書いておくと、振られたときに読むだけで済みます。読むのと、作るのは、別の作業です。 作るほうが何倍も難しいので、作る作業を家や自席に移しておきます。
出る前に「たぶん聞かれること」を1つだけ考える
全部を想定すると準備が終わらないので、1つだけにします。
「今日はたぶん、進み具合を聞かれる。」
その1つに対する答えを、先ほどの3行にしておきます。当たれば助かり、外れても損はありません。
声に出して1回だけ読む
書いた3行を、家か移動中に一度だけ口で言ってみてください。頭の中で読むのと、口に出すのは別物です。一度でも音にしておくと、本番でつまる回数が減ります。
話そうとすると頭が真っ白になる人へ/白くなってしまったあとの、戻り方
白くなってしまったあとの、戻り方
準備をしても、白くなる日はあります。そのときの手順を決めておきます。
- 息を吐く。 吸うのではなく、まず吐きます。止まっているとき、人は息を止めています
- 見るものを1つに決める。 手元のペン、コップ、机の角。目に入るものを1つに絞ります
- 一言だけ出す。 「すみません、いま白くなりました」でかまいません
- 質問を返す。 「もう一度、質問をお願いできますか」
3番を言えると、場の空気が変わります。黙って固まっているより、状態を伝えるほうが早く終わります。 相手も「では、あとで聞きますね」と動けます。
4番は、時間を稼ぐと同時に、質問の中身をもう一度受け取り直す働きがあります。白くなったとき、質問そのものを忘れていることは珍しくありません。
その場で無理なら、降りていい
どうにもならない日は、降りてください。
「すみません、今日はうまく言葉が出ません。あとでメッセージで送ります。」
逃げではなく、期限つきの持ち帰りです。 そのあときちんと送れば、信頼は下がりません。
あとから文字で補ってかまいません
言えなかったことは、その場で取り返さなくていいです。会議のあとの30分は、まだ同じ議題の中にいます。
「先ほどの件、その場でうまく言えなかったので、こちらで補足させてください。私は◯◯だと考えています。理由は△△です。」
これで、言えなかった内容は届きます。しかも、口で言うより整った形で届きます。
チャットやメールが得意な人は、この方法をはじめから前提にしてかまいません。話すのが苦手なのと、伝えるのが苦手なのは別のことです。伝える手段は、口だけではありません。
補足を送るのは、その日のうちに
翌日以降になると、話が進んでしまって出しづらくなります。帰る前の10分を、補足の時間として決めておくと続きます。
場面別の対処
急に意見を求められたとき
まず「10秒ください」。それでも出なければ、質問で返します。
「◯◯についての意見でよろしいですか。」
確認しているあいだに、答えが浮かぶことがあります。
初対面のあいさつや自己紹介
ここは完全に暗記でかまいません。名前・所属・一言の3つだけ、決まった文にしておきます。毎回同じで問題ありません。
「◯◯部の△△です。□□を担当しています。よろしくお願いします。」
怒られたとき、驚いたとき
気持ちが大きく動くと、言葉はいちばん出にくくなります。無理に説明しないでください。
「すみません、状況を確認して、あらためてご報告します。」
その場で反論しないほうが、結果的にうまくいきます。 説明は、落ち着いてからのほうが正確です。
人数が多い場
大人数では、話し出すタイミングが取れないまま終わりがちです。最初の10分以内に一度だけ発言すると決めておくと、あとが楽になります。内容は「賛成です」「その方向でいいと思います」でも十分です。
よくある質問
準備しても、その場になると真っ白になります
準備の効果は、その場で思い出せるかどうかで決まります。頭の中ではなく、目に見えるところに置いてください。 3行を書いた紙を机に出しておく、スマホのメモを開いておく。これだけで、思い出す手間がなくなります。
「早く言って」と急かされます
急かされると、さらに出なくなります。あとで落ち着いているときに、伝えておいてください。
「考えてから話すほうなので、少し待ってもらえると助かります。」
言いにくい相手なら、先に文字で送ってから会議に出る形に変えるのも手です。
頭が真っ白になるのは、なにかの病気ですか
緊張して言葉が出にくくなること自体は、多くの人に起こります。ここで自分に診断名をつけないでください。 ただ、仕事や生活に困りごとが続いているなら、一人で判断せずに相談してみてください。判断する材料が増えるだけでも、対処は変わります。
話す練習をしたほうがいいですか
数をこなすより、同じ場面を1つ選んで、そこだけ形を決めるほうが効きます。朝礼、定例会議、電話の第一声。1つ決まると、他の場面にも応用できます。
関連する困りごと
- 雑談の沈黙がしんどいなら → 雑談がしんどい人へ|何を話せばいいか分からないとき
- 逆に、口が動き出すと止まらなくなるなら → つい話しすぎてしまう人へ|あとで落ち込まないために
- 会議の内容そのものが入ってこないなら → 会議の内容が頭に入らない人へ|聞き漏らしを減らすやり方
- 人と話したあとの消耗が大きいなら → 人といると異常に疲れる人へ|合わせ続けることの負担
まず今日、これだけやってみる
- 「少し考えます。10秒ください」を、声に出して1回言ってみる
- 沈黙を埋める言葉を2つだけ選んで、スマホのメモに入れる
- 次の会議の前に、結論・理由・質問を1行ずつ書く
3つとも完璧にできなくて大丈夫です。1つめを言えた日が1日あれば、それで十分な進みです。話す力を上げるのではなく、考える時間を作るのだと覚えておいてください。
この記事について
ADHDのある人を対象に、場面に合わせて考えのさまよいを抑える働きがかかりにくいことを調べた研究があります。「気づいたら別のことを考えていた」を、意志の弱さではなく調整のしにくさとして説明できます。ただしこの研究は、対策の効果を調べたものではありません。 ここに書いた言い方や手順が、研究で確かめられているという意味ではありません。
外から声をかけてもらう仕組みに意味がありそうだ、という国内の小さな研究もあります。10名を対象にしたもので、比べる相手のいない研究です。効果の大きさは分かっていません。「一人で抱えるより、伴走してくれる人がいるほうが動きやすい人もいる」という程度に読んでください。
この記事の内容は、人によって合う・合わないがあります。5つの言葉が全部合わないこともありますし、3行のメモが逆に負担になる人もいます。ひととおり試して、残ったものだけ使えば十分です。合わなかったものは、あなたの努力が足りなかったからではありません。
うまく話せないことで責められ続けている、その場面を思い出して眠れない日が続いている。そういうときは、我慢の量を増やさないでください。困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
その場では一言も出てこないのに、帰り道ではスラスラ出てくるんですよね。あれ、話す力がないんじゃなくて、考える時間が足りていないだけなんです。時間のほうは、言葉で作れますよ。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討ADHDにおける、場面に応じた「思考のさまよい」の調整
(原題:Context Regulation of Mind Wandering in ADHD)
この研究でわかっていること:「気づいたら別のことを考えている」を、意志ではなく調整の問題として説明できます。
ここはまだ分かっていません:対策の効果を示す研究ではありません。
研究で検討ADHDのある成人に対するコーチングの効果—10名のADHD成人への臨床研究
この研究でわかっていること:外から声をかけてもらう仕組み(伴走)に意味がありうる、と示唆できます。
ここはまだ分かっていません:10名で、比べる相手のいない研究です。効果の大きさは分かっていません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。