認知行動療法を勧められた人へ|何をするのか、どこまで期待できるのか
— 話を聞いてもらう時間ではなく、練習して試す時間です
ポイント
- 認知行動療法は、ものの受け取り方とやり方を、決まった手順で練習し直していく方法です
- 大人のADHDでは、時間の管理や整理、先延ばしを扱う形が研究されています
- 特性そのものが消えるわけではなく、うまくいかない場面を減らすための練習です
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診察のときに「認知行動療法というものがあります」と言われた。あるいは、自分で調べていて名前だけは知った。CBTと略されることもあります。
調べてみても、書いてあるのは「考え方のくせを見直す」といった説明ばかりです。それを読むと、いまの自分の考え方がまちがっている、と言われている気がしてきます。何をする時間なのかも、何回通うのかも、いくらかかるのかも分かりません。
さらに言えば、通うとなれば時間もお金もかかります。効くのかどうかも分からないまま予約の電話をかけるのは、なかなか気が重いものです。まわりに受けたことのある人もいません。
先に結論を書きます。認知行動療法は、性格を作り変えるものでも、特性をなくすものでもありません。うまくいかない場面を一つずつ取り出して、やり方を変えて試す。 その繰り返しです。地味です。そして、地味だからこそ生活に残ります。
認知行動療法は、何をする時間なのか
名前を分けると分かりやすくなります。前半の「認知」は、ものごとの受け取り方のこと。後半の「行動」は、実際にやることです。この2つを分けて扱うのが、この方法の骨組みです。
進み方には、だいたい決まった形があります。
- 1回はおよそ50分
- 週に1回、あるいは2週に1回
- 全体で数回から十数回。始める前に回数と間隔を決めることが多い
- 毎回、次の回までに試すことを決めて帰る
最後の1行が、いちばんの特徴です。持ち帰る宿題があるので、その場で完結しません。 生活のほうが練習の場になります。
1回の中身も、だいたいの型があります。
- 前の回に決めたことが、どうだったかを確認する
- 今日扱う場面を一つ決める
- その場面で何が起きているかを、細かく分ける
- 次の1週間で試すことを決める
- 今日の話を短くまとめる
はじめの数回は、いまの困りごとを並べて、どこから手をつけるかを決める時間になることが多いです。いきなり練習から始まるわけではありません。 途中で扱う場面が変わることもあります。最初に決めた計画に縛られる必要はありません。
そしてもうひとつ。大人の発達障害に対して使われるとき、扱うのは気持ちの話だけではありません。時間の見積もり、書類の整理、段取りの組み方、先延ばし。 日々の運用そのものが練習の対象になります。
薬を続けていても困りごとが残る大人のADHDで、行動面の練習を足したほうがよかったという研究があります。時間の管理や整理を扱う方法を比べた研究もあります。ただし、どの研究も「これで困りごとがなくなる」とは言っていません。
【いちばん効く1つ】次の1週間で試すことを、1つだけ決めて帰る
やる気があるほど、たくさん持ち帰りたくなります。ですが、3つ持ち帰ると、たいてい0になります。
決めるのは1つだけ。しかも、気持ちではなく行動で書きます。「もっと早く帰る」ではなく、「帰ったら鞄を玄関の棚に置く」です。やったかどうかを、あとから自分で判定できる形にします。
その場で言うなら、こんな形になります。
「今週は、帰ってきたら鞄を玄関の棚に置く。これだけにします」
1つに絞ると、進みが遅く感じます。ですが、1週間で1つ残れば、3か月で十数個になります。まとめて変えようとして0になるより、確実です。
そして、いちばん大事なところ。できなかった週こそ、材料になります。
「やろうとしたのですが、金曜だけできませんでした。金曜は帰りが遅くて、そのまま座り込んでしまいます」
記録は1行で足ります。できた・できないの丸ばつではなく、事実を書きます。 「火曜 できた」「金曜 帰宅22時 できず」。これだけで、次の回に話すことができあがります。きれいに書こうとすると止まります。読むのは自分と担当の人だけです。
これを持っていくのが、本来の使い方です。宿題ができなかった日を「失格」と受け取ると、次から報告しにくくなり、続かなくなります。うまくいかない条件を見つけるのが目的であって、達成率を競う場ではありません。
認知行動療法を勧められた人へ/誤解されやすいところ
誤解されやすいところ
名前の印象から、こういう想像をする人がいます。実際とは違うので、先に外しておきます。
子どものころを掘り返される、という想像。育ちの話を聞かれることはありますが、中心にはなりません。扱うのは、いま起きている場面のほうです。
考え方が悪いから困っている、と言われるという想像。そうではありません。困りごとの原因を本人の性格に置く方法ではありません。同じ状況でも結果が変わるやり方を探すのが目的です。
根性で乗り切る練習、という想像。むしろ逆です。気合いで持たせている部分を見つけて、仕組みや道具に置き換えていくほうへ進みます。
そして、ここが大事なところです。特性がなくなるわけではありません。 忘れやすさも、切り替えのしにくさも残ります。変わるとしたら、それが困りごとに育つ手前で止められる回数のほうです。
話を聞いてもらう時間とは、どう違うのか
どちらが上ということではありません。目的が別です。
話を聞いてもらう時間は、いま抱えているものを外に出す場です。整理されていなくてもかまいませんし、結論も要りません。つらさが強くて言葉にならない時期は、まずこちらが必要になることがあります。
認知行動療法は、扱うことを絞ります。「朝、家を出るまでが回らない」のように場面を一つ決めて、そこで何が起きているかを分解し、次の1週間で試す形を作ります。終わりの回数を決めて始めるのも、この方法の特徴です。
なお、いま自分がどちらを受けているのか分からないまま進んでいることも珍しくありません。「これは何をしているところですか」と聞いて大丈夫です。目的を確かめるのは、失礼になりません。
同じ人が両方を扱うこともありますし、時期によって切り替えることもあります。いま自分に要るのはどちらかを最初に相談しておくと、話が早く進みます。
認知行動療法を勧められた人へ/自分でやる方法との違い
自分でやる方法との違い
本やワークブック、アプリでも、似た手順は手に入ります。実際、それで足りる部分はあります。まず自分で試してみるのは、無駄になりません。
ただ、一人でやると次のことが起きやすくなります。
- 記録が3日で止まる
- 採点が自分に厳しくなり、続けるほど落ち込む
- うまくいかなかった理由の見立てが、いつも同じところに寄る
人が入ると、この3つが変わります。予約が予定として残るので手がつきます。できなかった週を、失敗ではなく情報として扱ってくれます。 そして、自分では思いつかない条件を指摘してもらえます。
本を選ぶなら、大人のADHDや発達障害に向けて書かれたもののほうが、出てくる場面が近くて使いやすいです。一般向けの本は、扱う困りごとが気分の落ち込み中心のことがあります。
順番としては、自分でやってみて、続かなかったら人を入れる。 これで十分です。最初から通うと決めなくてかまいません。
どこで受けられるのか
主に、次のような場所です。
- 精神科・心療内科。公認心理師や臨床心理士が担当することが多いです
- 医療機関によっては、集団のプログラムを行っているところもあります
- 大学の心理相談室や、民間の相談室
- 就労移行支援や発達障害者支援センターのプログラムに、考え方とやり方を整える内容が入っていることもあります
集団のプログラムは、同じところでつまずいている人の話が聞けるのが強みです。一方で、人の多い場そのものが消耗する人には向きません。参加する前に「何人くらいですか」と聞いておくと判断できます。
注意点がひとつあります。どこの医療機関でも受けられるわけではありません。 担当できる人がいるかどうかで決まります。通っている先で扱っていない場合もあるので、先に聞いてください。
「大人の発達障害で、認知行動療法を受けられますか」
この一言で足ります。扱っていなければ、紹介先を尋ねてみてください。
予約は、まとめて先に取れるなら取っておいてください。次の日程が決まっていないと、間があくほど戻りにくくなります。 待ちが出ることもあるので、初回の問い合わせで「いつごろから始められますか」も聞いておくと予定が立ちます。
費用は、医療機関か民間の相談室か、保険が使えるか自費かによって変わります。 ここで金額を言い切ることはできません。問い合わせのときに「1回いくらか」「だいたい何回か」の2つを聞いておくと、続けられるかどうかを先に判断できます。
よくある質問
何回くらい通うのですか
決まりはありませんが、回数を決めて始めるのが一般的です。数回で区切って様子を見ることもあります。「いつまで続くのか分からない」と不安になるなら、最初の相談で「何回くらいを考えていますか」と聞いてください。
効果が出なかったらどうすればいいですか
出ないこともあります。 そのときは、合わないやり方だったのか、扱う場面がずれていたのか、そもそも時期が早かったのかを分けて考えます。担当の人に「うまくいっていません」と伝えるのは、失礼ではなく必要な報告です。
薬とどちらがいいのですか
ここでは判断できません。 薬のことは主治医と話してください。研究では、薬を続けている人に行動面の練習を足す形も調べられています。どちらか一方を選ぶ話とは限りません。
担当の人と合わない気がします
変えられます。相性は、努力で埋める部分ではありません。言いにくければ、医師に「担当を替えてもらえますか」と伝える方法もあります。合わない相手に無理に話し続けるほうが、時間を失います。
診断がついていなくても受けられますか
場所によります。医療機関では、診断の有無よりいま何に困っているかを見ます。民間の相談室なら診断が要らないことも多いです。まずは「診断はありませんが相談できますか」と聞いてみてください。
途中でやめてもいいですか
やめられます。ただ、やめる前に一度だけ「何が続けにくいか」を伝えてみてください。時間帯や間隔を変えるだけで続くことがあります。それでも合わなければ、離れて大丈夫です。
関連する困りごと
- 先延ばしの止め方を具体的に知りたいなら → やらなきゃいけないのに手がつかない人へ|先延ばしの止め方
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まず今日、これだけやってみる
- うまくいかない場面を1つだけ選ぶ(朝、片づけ、締め切りなど。多くしない)
- その場面で試すことを、行動の形で1行書く(やったか判定できる書き方にする)
- 通っている医療機関に「認知行動療法を扱っていますか」と聞く(扱っていなければ紹介先を尋ねる)
1と2は、通わなくても今日できます。やってみて続かなかった記録が、そのまま相談の材料になります。 1週間ぶんの1行メモがあれば、初回の話がずいぶん早く進みます。
この記事について
大人のADHDに対する認知行動療法については、いくつかの研究があります。薬を続けていても困りごとが残る人に、行動面の練習を上乗せしたほうがよかったというくじ引きで2群に分けて比べた試験。時間の管理や整理、計画を扱う方法を比べた試験。そして、整理・計画・先延ばしを性格の問題ではなく練習の対象として扱う考え方をまとめた国内の解説です。
言えるのは、ここまでです。 上乗せの試験に参加したのは、薬を飲んでいる人たちでした。薬が要るかどうかは、この研究からは分かりません。 また、扱われているのは主に大人のADHDで、ASDのある人に同じ結果が出るかは別の話です。
国内の解説は、個々の生活の工夫がどれくらい効くかまで示したものではありません。「この方法なら何割の人がよくなる」と言える段階ではない、と考えてください。
さらに、研究で行われたプログラムと、日本のどこかの医療機関で受けられるものが同じとは限りません。回数も中身も担当者も違います。同じ名前でも中身は場所ごとに違う、というつもりで問い合わせてください。
そのうえで、この記事に書いた進め方は、うまくいかない場面を絞って試すという考え方に沿ったものです。合わないものは飛ばしてください。困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
「考え方を変えましょう」と言われると、いまの自分を否定された気がしますよね。でも実際にやるのは、そこじゃないんです。次の1週間で試すことを1つ決めて、うまくいかなかった理由を持って帰る。その繰り返しなんですよ。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討薬を飲んでいても症状が残る成人ADHDへの、認知行動療法(考え方と行動を整える心理的な治療)とリラクセーション+教育的支援の比較
(原題:Cognitive Behavioral Therapy vs Relaxation With Educational Support for Medication-Treated Adults With ADHD and Persistent Symptoms)
この研究でわかっていること:薬だけで足りない部分に、行動面の工夫が上乗せで効きうると言えます。
ここはまだ分かっていません:対象は薬を飲んでいる人。薬の要否についてはこの研究からは分かりません。
研究で検討成人ADHDに対するメタ認知療法の効果
(原題:Efficacy of Meta-Cognitive Therapy for Adult ADHD)
この研究でわかっていること:時間管理・整理・計画のスキルの練習が成人ADHDのうっかりしやすさを減らしうると言えます。
ここはまだ分かっていません:個々の道具(付箋・アプリ等)単独の効果を調べたものではありません。
研究で検討大人の注意欠如多動症の認知行動療法(考え方と行動を整える心理的な治療)
この研究でわかっていること:整理・計画・先延ばしを「性格」ではなく介入対象として扱う枠組みを示せます。
ここはまだ分かっていません:レビューであり、個々の生活術の効果量を示すものではありません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。