「15分で終わる」が毎回1時間かかる人へ
— 見積もりを直すのではなく、予定のほうを直します
ポイント
- 時間の見積もりのズレは、成人ADHDの研究で扱われてきた特徴のひとつです
- 見積もりを正しくしようとするより、実測値を測って予定表を直すほうが早いです
- 1週間、よくやる作業だけ計測すれば、自分用の換算表ができます
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「あと15分あれば終わる」と思って始めた作業が、気づけば1時間。
支度は10分のつもりが30分。5分で返せると思ったメールに20分。
この繰り返しで、予定が毎日ずれていきます。
見積もりのズレは「特徴」として研究されている
成人ADHDの時間の感じ方については、この10年の研究をまとめたレビューがあります。
そこでは、時間の見積もりや体感にズレが出やすいことが複数の研究で検討されています。
つまりこれは、気の緩みや楽観の問題ではなく、時間の感じ方そのものの特徴として扱える現象です。
そして重要なのは、この特徴は「気をつける」で直らないということです。感覚を意志で補正しようとしても、また同じ見積もりが出てきます。
だから、感覚ではなく実測値を使う
やることは1つです。よくやる作業の所要時間を、1週間だけ測ります。
ストップウォッチでなくてもかまいません。始めた時刻と終わった時刻をメモするだけです。スマホのメモでも紙でも。
測るのは「よくやること」だけ
毎日または毎週やっていることに絞ってください。全部測ろうとすると続きません。
| 測る対象の例 | 見積もりがち | 実測(記入例) |
|---|---|---|
| 朝、起きてから家を出るまで | 30分 | 52分 |
| 自宅から駅まで | 8分 | 13分 |
| メールを1本返す | 3分 | 9分 |
| 洗濯を回して干すまで | 15分 | 28分 |
| 買い物(スーパー1軒) | 20分 | 40分 |
| 資料を1枚作る | 30分 | 75分 |
| お風呂に入る(脱衣〜着替え終わり) | 20分 | 40分 |
これで自分用の換算表ができます。
換算表の使い方
以後は、感覚で出した時間ではなく、この数字で予定を組みます。
「駅まで8分」だと思っていたのが実測13分なら、カレンダーには13分と書きます。
「本気を出せば8分で行ける」は、遅刻する日には成立しません。いつもの自分の数字を使ってください。
測っていないものは1.5倍する
慣れてきたら、測っていない作業には1.5倍するというやり方でも実用に耐えます。
ほとんどの人の見積もりは短すぎる方向にずれるので、係数をかけるだけで精度が上がります。
2倍にする人もいます。自分の実測値を見て、自分の係数を決めてください。
測るのが続かないとき
3日だけにする
1週間ぜんぶ測るのがつらければ、朝の支度だけ、3日でも構いません。
1つでも実測値があれば、他の見積もりも疑えるようになります。
自動で記録するものを使う
- スマホのスクリーンタイム
- 作業時間を記録するアプリ
- スマートウォッチ
自動なら、自分でやることはありません。
ただし、まず紙で3日やってみるほうが、自分の感覚とのズレを実感できます。数字を自分で書くと、驚きが大きいです。
忘れる
「始めた時刻を書く」を忘れるなら、終わった時刻だけ書いてください。次の作業の開始時刻が、前の作業の終了時刻になります。
「15分で終わる」が毎回1時間かかる人へ/実測値が出たあと
実測値が出たあと
数字を見ると、たいてい落ち込みます。「自分はこんなに遅いのか」と。
そうではありません。 遅いのではなく、いままで見積もりが短すぎただけです。
やることは3つです。
- 予定にその数字を使う
- 予定を減らす(そもそも入れすぎていたことが分かります)
- 工程を減らす(時間を短くしたいなら、作業そのものを削る)
「もっと速くやる」は、対策として弱いです。 できるなら、もうやっています。
場面別|特にズレやすいもの
朝の支度
いちばんズレます。判断が多く、工程が細かいからです。
「起きてから家を出るまで」を1週間測ると、たいてい自分の想定より15〜20分長いです。
くわしくは何度も遅刻してしまう人へへ。
「ちょっとやるだけ」の作業
「5分で終わる」と思っているものほどズレます。メールの返信、書類の確認、電話1本。
5分だと思うものは、15分と見積もってください。
好きな作業・得意な作業
入り込んでしまうと、時間が飛びます。始める前にタイマーをかけるのが確実です。
くわしくはやり始めると止まれない人へへ。
初めてやる作業
過去の実測値がないので、いちばん危険です。
最初の30分は「量を測る時間」にしてください。何が必要か洗い出すだけ。それから見積もります。
人が絡む作業
自分だけでは終わりません。返事待ちの時間を入れてください。
「相手に聞く」が入っている作業は、1日以上かかると考えておくのが安全です。
移動
「電車で20分」ではなく、「家を出てから会社の席に座るまで」を測ってください。
駅までの徒歩、乗り換え、改札から会社まで。全部足すと、思っていた倍になることがあります。
見積もりが外れる隠れた原因がこれです。
- 前の作業を終える(片づける、保存する、閉じる)
- 場所を移動する
- 次の作業に必要なものを探す
- 気持ちを切り替える
- トイレ、飲み物
このつなぎの時間は、たいてい見積もりに入っていません。
予定を詰めるときは、作業と作業のあいだに10分ずつ空けてください。
移動は「ドアからドア」で測る
「電車で20分」ではなく、「家を出てから会社の席に座るまで」を測ってください。
駅までの徒歩、乗り換え、改札から会社まで。全部足すと、思っていた倍になることがあります。
実測を取る
見積もりを直すいちばん確実な方法は、実際にかかった時間を測ることです。
1週間だけ、2つの数字を書く
- 始める前:「たぶん◯分」
- 終わったあと:「実際◯分」
それだけ。 記録アプリはいりません。紙の端でいいです。
自分の倍率が分かる
1週間で、自分がどれくらいずれるかが見えます。
- だいたい1.5倍の人
- だいたい2倍の人
- 作業によって変わる人
分かったら、次から見積もりにその数字をかけます。
「30分で終わる」と思ったら、45分か60分の枠を取る。これだけで、予定の崩れ方が変わります。
見積もりに入れ忘れるもの
短く見積もる原因は、「作業そのもの」しか数えていないことです。
抜けやすいもの:
- 準備(資料を出す、ファイルを開く、道具を出す)
- 片づけ
- 移動
- 確認・見直し
- 人に聞く時間(相手が捕まらない時間も含む)
- 中断からの復帰
この分を足すと、たいてい1.5倍になります。
時間が見えるようにする
時間の感覚がつかみにくいなら、目で見えるようにするのが有効です。
- 残り時間が色や面積で減っていくタイマー
- 大きめのアナログ時計を机に置く(針の位置で残りが分かります)
数字だけだと、残りの量が実感しづらい人がいます。
くわしくはタイマーをうまく使えない人へへ。
「15分で終わる」が毎回1時間かかる人へ/予定の入れ方
予定の入れ方
予定と予定のあいだに15分空ける
この15分がないと、必ずどこかで遅れます。
- 前の15分=準備
- 後ろの15分=片づけ、メモ、移動
くわしくは予定を詰め込みすぎる人へへ。
締め切りは3日前に設定する
自分の中の締め切りを、本当の締め切りの3日前にしてください。
ずれても間に合います。
くわしくは締め切りをいつも守れない人へへ。
人に伝えるときの言い方
見積もりを聞かれたとき、思ったより長めに言っていいです。
「2時間くらいいただければ、確実です。」
早く終わったら、早く出せばいいだけです。
短く言って遅れるより、長めに言って早く出すほうが、信用されます。
分からないときは分割する
「まず1時間やってみて、そこで見通しをご連絡します。」
全体が読めないなら、途中まででいいです。
思ったより長めに言っていいです。
「2時間いただければ、確実です。」
早く終わったら、早く出せばいいだけです。短く言って遅れるより、長めに言って早く出すほうが信用されます。
長期の仕事の場合
数日〜数週間かかる仕事は、途中で必ずずれます。
- 週に1回、進み具合を確認する日を作る
- ずれていたら、その時点で相談する
- 締め切り直前に言わない
早く言うほど、相手にも手が打てます。
まず今週、これだけやってみる
- 朝、家を出た時刻を毎日メモする(3日でいい)
- いちばんよくやる作業を1つ選んで、かかった時間を測る
- 出た数字を、来週の予定に使う
測るだけで、予定の精度は上がります。 直すのは自分ではなく、予定表のほうです。
よくある質問
測るのが面倒で続きません
1週間だけでいいです。 紙の端に「予定30分/実際55分」と書くだけ。
自分の倍率が分かれば、あとは掛け算です。
作業によってズレ方が違います
作業の種類ごとに倍率を持ってください。
- 事務作業:1.2倍
- 資料作成:2倍
- 初めてやること:3倍
相手の見積もりが甘いときは
「その作業だと、私は2時間かかりそうです。」
自分の実測値を根拠に話すと、通りやすくなります。
測っても、次から同じズレ方をします
倍率をかけてから予定を入れてください。 「30分」と思ったら45分の枠を取る。
感覚は変わりませんが、予定の組み方は変えられます。
関連する困りごと
-
締め切りを落とす → 締め切りをいつも守れない人へ
-
予定が詰まる → 予定を詰め込みすぎる人へ
-
遅刻してしまう → 何度も遅刻してしまう人へ
-
タイマーが効かない → タイマーをうまく使えない人へ
-
気づくと1日が終わる → 気づくと1日が終わっている人へ
-
会議に遅れる → 会議や約束の時間に間に合わない人へ
1週間測るだけで、自分の倍率が分かります。
まとめ:見積もりを合わせる5つ
- 1週間だけ「予定◯分/実際◯分」を記録する
- 自分の倍率(1.5倍・2倍)を出す
- 準備・片づけ・移動・確認の時間も足す
- 予定と予定のあいだに15分空ける
- 人に伝えるときは、長めに言って早く出す
感覚は当てになりません。 実測値を使ってください。
この記事について
成人ADHDにおける時間の見積もりや体感のズレは、この10年の研究をまとめたレビューで整理されています。「気をつける」で直らないのは、感覚そのものがズレているためです。
また、時間の使い方や整理・計画のスキルを練習する方法を調べた研究では、うっかりしやすさの改善が報告されています。国内でも、時間管理に焦点を当てた集団での取り組みで改善が報告されています(8名の予備的な研究です)。
時間管理は、性格ではなく工夫と練習の対象として扱われている、ということです。
そのうえで、「1週間測る」「1.5倍する」といった具体的なやり方は、研究で確かめられたものではありません。 この記事は、時間の感じ方のズレという研究で扱われてきた特徴に対して、生活側でどう手を打つかを組み立てたものです。
時間が守れないことで生活や仕事がつらい状態が続くときは、一人で抱えないで専門家に相談してください。相談できる場所は相談先・公的窓口にまとめています。
「15分でいける」と思ったことが45分かかるなら、それがあなたの実測値です。感覚のほうを直そうとせず、予定を実測値で組み直しましょう。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討成人ADHDの時間の感じ方:この10年の研究のまとめ
(原題:Time Perception in Adult ADHD: Findings from a Decade—A Review)
この研究でわかっていること:時間の見積もりや体感にズレが出やすいことを、性格ではなく認知の特徴として説明できます。
ここはまだ分かっていません:特定のタイマー法・時計の効果を直接調べたものではありません。
研究で検討成人ADHDに対するメタ認知療法の効果
(原題:Efficacy of Meta-Cognitive Therapy for Adult ADHD)
この研究でわかっていること:時間管理・整理・計画のスキルの練習が成人ADHDのうっかりしやすさを減らしうると言えます。
ここはまだ分かっていません:個々の道具(付箋・アプリ等)単独の効果を調べたものではありません。
研究で検討成人注意欠如・多動症の時間管理に焦点を当てた集団認知行動療法(考え方と行動を整える心理的な治療)の効果の小さな規模の検討
この研究でわかっていること:時間管理そのものを訓練の対象にできる、という考え方の国内での裏づけになります。
ここはまだ分かっていません:8名・対照群なしの予備研究。特定のアプリやタイマーの効果を示すものではありません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。