忘れ物が多すぎてしんどい人へ|覚えなくていい仕組みの作り方
— 「気をつける」をやめると、忘れ物は減ります
ポイント
- 「今日は気をつけよう」は対策になりません。疲れている日に必ず破れます
- 置く場所を1か所に決める・持ち物を減らす・機械にまかせる、の3つでほとんど解決します
- 忘れた日のために、あらかじめ予備と連絡テンプレを用意しておきます
目次を開く(10項目)
家を出て5分で「鍵がない」。会社に着いて「あの書類、机に置いてきた」。改札で「定期がない」。
毎日どれかをやっていると、自分に嫌気がさしてきます。
でも、先に言っておきます。「今日は気をつけよう」は対策ではありません。 注意力に頼るやり方は、疲れている日、急いでいる日、考えごとをしている日に必ず破れます。
じゃあどうするか。忘れても大丈夫な形を、先に作っておきます。
やることは大きく3つです。
- 置く場所を1か所に決める
- 持ち物そのものを減らす
- 機械にまかせる
順番に見ていきます。
なぜ忘れるのか(ここは1分で読めます)
忘れ物をするとき、あなたはたいてい別のことを考えています。荷物を持っている、電話が鳴っている、トイレに行きたい。
このとき「鍵を置いた」という行動は、頭に残りません。残っていないものは、思い出せません。 当たり前のことです。
ADHDのある大人は、「あとでやること」を覚えておくのが苦手という研究があります。大事な用事かどうかは関係ありません。大事でも忘れます。
だから対策は「よく覚えておく」ではなく、覚えていなくても分かる形にすることになります。
【その1】置く場所を1か所に決める
いちばん効くのがこれです。お金もかかりません。
1. 玄関に「持ち物ステーション」を作る
玄関のすぐ横に、浅いトレイかカゴを1つ置きます。
外に持ち出すものは、帰ってきた瞬間に全部そこに入れます。 鍵、財布、社員証、イヤホン、定期。
ポイントは1つに絞ることです。2つあると「どっちに入れたか」を考えることになって、判断が増えます。
そして深いカゴは使わないでください。 中でごちゃごちゃになって、結局さがすことになります。浅いトレイか、仕切りのある小物入れにしてください。
2. 「元の場所に戻す」より「ここに全部」
「使ったら元の場所に戻す」は、元の場所を思い出す必要があります。それより「とりあえず全部ここ」のほうが確実です。
きれいに片づいているかどうかより、毎回同じ場所にあるかどうかを優先してください。
3. 家の中に「一時置き場」を1つ作る
判断できないもの、あとで片づけるものを置く場所を、公式に1つ作ります。大きめのカゴでいいです。
これがないと、そういうものは床かテーブルに置かれます。散らかす場所を先に決めておくと、それ以外の場所が守られます。
4. 充電ケーブルは、使う場所ぜんぶに置く
持ち歩くから忘れます。使う場所すべてに1本ずつ置いてしまえば、持ち運ぶ必要がなくなります。
100円ショップでも買えます。数百円で、忘れ物が1種類まるごと消えます。
5. 鍵は大きくする
小さいものはなくします。あえて大きめのキーホルダーやカラビナをつけると、ポケットの中でも「ある」と分かります。
見た目より、さわったときに分かることを優先してください。鍵についてはくわしく鍵をよくなくす人へにも書きました。
【その2】持ち物そのものを減らす
持ち物が10個あれば、忘れる可能性のあるものが10個あります。減らせば減ります。
6. 財布を小さくする
カードを減らす。現金を減らす。財布そのものを小さくする。
ポイントカードはアプリに移す。使っていないカードは家に置く。ポケットに入るサイズにできれば、そもそもどこかに置く必要がなくなります。
7. できるだけキャッシュレスにする
財布を出す回数が減れば、置き忘れる場面も減ります。
スマホだけは忘れにくい(いつも使うので)という性質を利用します。ただし、スマホをなくしたときの被害は大きくなるので、後で書く「なくした日の準備」とセットにしてください。
8. カバンを1つに固定する
通勤用と私用でカバンを分けていると、変えるたびに移しかえが発生します。忘れ物のほとんどは、カバンを変えた日に起きます。
1つにできれば、この種の忘れ物は消えます。くわしくはカバンを変えると必ず忘れ物をする人へに書きました。
9. カバンの中も定位置にする
ポーチを使って、カバンの中でも「ここにはこれ」を決めます。
- 常備ポーチ(薬、ばんそうこう、ティッシュ)
- 電源ポーチ(バッテリー、ケーブル、イヤホン)
カバンの底に直接ものを入れないのがコツです。底は必ずぐちゃぐちゃになります。
10. カバンに入れっぱなしにする
持ち歩くから忘れます。カバン専用に買ってしまえば、持ち運ぶ必要がなくなります。
- 折りたたみ傘(家用とは別に、カバン専用に1本)
- モバイルバッテリーとケーブル
- 常備薬、目薬
数百円から数千円で、忘れ物の種類が減ります。
忘れ物が多すぎてしんどい人へ/【その3】機械にまかせる
【その3】機械にまかせる
11. なくし物防止タグをつける
鍵や財布にタグをつけると、スマホから音を鳴らせます。家の中で見失ったときに効きます。
もっと効くのは「置き忘れ通知」のほうです。持ち物から離れると通知が来るので、店を出た直後に気づけます。
選び方と、効かない場面についてはなくし物が多い人へにまとめました。
12. リマインダーを「場所」で設定する
「会社を出るとき」「家に着いたとき」のように、場所をきっかけに通知を出す設定ができます。
時間で設定するより、こちらのほうが働きやすいです。「18時に通知」だと、まだ会社にいるかもしれません。「会社を出たら通知」なら、必ずそのタイミングで来ます。
13. 玄関のドアに紙を貼る
アナログですが強力です。「鍵・財布・スマホ・社員証」と書いた紙を、ドアの内側の目線の高さに貼ります。
必ず通る場所に置くのがコツです。横の壁だと見ません。
14. 前の日の夜に、玄関に置く
朝は判断する力が落ちています。夜のうちに持ち物を玄関に出しておけば、朝は持って出るだけになります。
くわしくは前の日の夜に3つだけやるへ。
15. 「もし〜したら」で決めておく
「帰ったら片づける」ではなく、きっかけになる動作を1つ決めます。
「玄関のドアを閉めたら、その手で鍵をトレイに置く」
ドアを閉める動作は毎回必ずやるので、きっかけとして確実です。靴を脱ぐ前にやるのがポイントです。脱いだあとだと、荷物を置いたり手を洗ったりする動作が割り込みます。
場面別|よく忘れるものと、まずやる1つ
「全部やるのは無理」という人向けに、そのものだけに効く対策を1つずつ書きます。
鍵
まずやること:玄関のドアの内側にフックを1つつける。
帰ってドアを閉めたら、その手で掛ける。それだけです。フックは100円ショップの貼るタイプで十分です。
それでもなくすなら、なくし物防止タグをつけるか、いっそ鍵のいらない仕組み(スマートロック)にする手もあります。工事のいらない貼るタイプなら、賃貸でも使えるものがあります。
財布
まずやること:小さくする。
ポケットに入るサイズにできれば、テーブルやカウンターに置く必要がなくなります。置かなければ、忘れません。
レジで支払うとき、財布をカウンターに置かないでください。置いた瞬間に、忘れる可能性が生まれます。
スマホ
まずやること:「探す」機能をオンにする。
iPhoneなら「探す」、Androidなら「デバイスを探す」。設定を1回オンにするだけです。
そして、飲食店でテーブルに置かない。電車で座席の横に置かない。置く場所は「ポケットかカバンの中」の2択にしてください。
定期券・社員証
まずやること:スマホと一体にするか、カバンに固定する。
スマホのケースに入れる、カバンのファスナーにリールでつなぐ、スマホの中に入れる(モバイル定期券)。単独で持ち歩かない形にできれば、忘れる対象が1つ減ります。
傘
まずやること:折りたたみ傘をカバンに入れっぱなしにする。
置き傘ではなく、カバン専用にもう1本買うのがポイントです。1,000円くらいのもので構いません。
雨の日にビニール傘を買って、店に置いてくる——このくり返しをやめられます。
書類・提出物
まずやること:受け取ったその場で写真を撮る。
紙をなくしても、中身と締め切りは残ります。そして紙は「提出待ち」の場所に1か所だけ置く。
くわしくは提出物や手続きを忘れてしまう人へに書きました。
弁当・水筒
まずやること:カバンの上に置く。
冷蔵庫に入れると、必ず忘れます。前の日の夜にカバンの上か、玄関の見える場所に置いてください。
どうしても冷蔵庫に入れる必要があるなら、カバンや靴の上に「弁当」と書いた紙を置いておく手もあります。
家族といっしょに住んでいる場合
同居している人がいると、話が変わってきます。
自分の置き場所を「縄張り」にする
共用のトレイにすると、必ずものが混ざります。自分専用のトレイを1つ用意して、名前を書いてください。
家族には「ここは触らないで」とお願いします。片づけてもらうと、かえって分からなくなります。
「片づけてくれる」がいちばん困る
よかれと思って家族が片づけると、どこに行ったか分からなくなります。
「散らかって見えると思うけど、その場所にあることで覚えているので、動かさないでほしい」
と、理由をつけて伝えてください。「片づけないで」だけだと、ただの言い訳に聞こえます。
頼めることは頼む
「出るときに『鍵持った?』って一言だけ言って」とお願いするのは、ぜんぜんアリです。
一人でなんとかしようとして毎日忘れるより、頼んで忘れないほうがいいです。伝え方は家族に特性を分かってもらえない人へにも書きました。
忘れ物が多すぎてしんどい人へ/職場での忘れ物・なくし物
職場での忘れ物・なくし物
家より職場のほうが、忘れ物の代償が大きいことがあります。
予備を職場に置く
- 充電器・ケーブル
- 印鑑(必要な職場なら)
- 予備のペン、メモ帳
- 常備薬
「忘れても職場にある」状態にしておけば、忘れても困りません。
会議室にものを置いてこない
会議室は忘れ物の名所です。立つ前に必ず一度、座っていた場所を見てください。
「何を持ってきたか」を思い出すのではなく、目で見て確認するのがポイントです。思い出す作業がいちばん失敗します。
大事なものは机に出さない
書類やUSBメモリを机に出しっぱなしにすると、他の書類にまぎれます。使い終わったら、決めた引き出しに戻してください。
忘れた日のために、先に用意しておく
対策をしても、いつかは忘れます。そのときの被害を小さくしておくのが現実的です。
| 用意しておくもの | 効きめ |
|---|---|
| 合鍵を信頼できる人に預ける | 締め出されずに済む |
| 賃貸なら管理会社の番号をスマホに登録 | 夜中でもさがさずに済む |
| 職場に予備の文房具・充電器を置く | 忘れても仕事が止まらない |
| カード会社の停止番号を紙にも控える | スマホをなくしたときに使える |
| 交通系ICを記名式にする | なくしても再発行できる |
なくす前に準備するのがポイントです。 起きてから調べると、あせった状態で判断することになって、たいてい高くつきます。
連絡のテンプレを作っておく
書類を忘れた、家に取りに戻る、という日のために、文面を用意しておきます。
「おはようございます。資料を自宅に忘れてしまい、◯時ごろの到着になります。先に◯◯を進めていただけると助かります。」
あせっているときに文章は考えられません。 コピーして時間だけ変えて送れる形にしておいてください。
まず1週間、これだけやってみる
全部いっぺんにやると、まず続きません。最初の1週間は3つだけにしてください。
- 玄関にトレイを1つ置く(家にあるお皿でもいいです)
- 帰ったら、ポケットとカバンの中身をそこに全部出す
- 前の日の夜に、明日持って出るものを玄関に置く
これだけで、忘れ物の半分くらいは減ります。効いたと感じたら、次の週にタグやリマインダーを足してください。
この記事について
ADHDのある大人は、「あとでやること」を覚えておくのが苦手という研究があります。大事な用事かどうかは関係ありません。忘れ物が多いのは、注意力や誠実さの問題ではない、ということです。
また、「もし〜したら〜する」ときっかけと行動をセットで決めておく方法は、目標を達成しやすくすると報告されています。この記事の「ドアを閉めたら鍵を置く」といった書き方は、この考え方をもとにしています。
ここに書いた具体的な道具や置き方は、その考え方を日常に当てはめたものです。全部が研究で確かめられているわけではありません。 合わないものは捨ててください。1つでも自分に合うやり方が見つかれば十分です。
忘れ物のせいで仕事や生活がうまくいかない状態が続くときは、一人で抱えないで専門家に相談してください。相談できる場所は相談先・公的窓口にまとめています。
忘れ物が多い人は、注意力が足りないんじゃありません。注意を向ける相手が多すぎるんです。持ち物を減らして、置き場所を固定するだけで、けっこう変わります。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討成人ADHDにおける「あとでやることを覚えておく力」の困難
(原題:Complex Prospective Memory in Adults with Attention Deficit Hyperactivity Disorder)
この研究でわかっていること:予定や約束を忘れるのは記憶の使い方の問題で、意欲の問題ではないと説明できます。
ここはまだ分かっていません:リマインダーなど外部化の道具そのものの効果はまだ調べられていません。
研究で検討「もし〜なら〜する」と先に決めておく方法が目標達成に与える効果の研究をまとめた分析
(原題:A Meta-Analysis of the Effects of Mental Contrasting With Implementation Intentions on Goal Attainment)
この研究でわかっていること:行動を「場面」と結びつけて決めておく方法に一定の効果があると言えます。
ここはまだ分かっていません:ADHD・ASDだけを対象にした研究ではありません。一般の人向けの知見を当てはめています。
研究で検討習慣はどうやってできるのか:日常生活での習慣づくりを追った研究
(原題:How are habits formed: Modelling habit formation in the real world)
この研究でわかっていること:同じ合図と同じ行動の反復が習慣化を支えること、定着に個人差が大きいことを示せます。
ここはまだ分かっていません:ADHD・ASDを対象にした研究ではありません。「21日で習慣化」も本研究の結論ではありません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。