HSPと発達障害の違いが気になる人へ|どちらでも工夫は同じ
— 名前を決めなくても、対処は始められます
ポイント
- HSPは心理学から広まった言葉で、医学の診断名としては使われていません。
- 発達障害は、生育歴といまの生活の支障をもとに医師が判断するものです。
- どちらであっても、刺激を減らす工夫と回復の時間の確保は同じように使えます。
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人の声がざわつくだけで頭が痛くなる。相手の機嫌の変化に、必要以上に反応してしまう。人と会った翌日は、一日ぐったりしている。
そういう状態が続いて調べてみたら、「HSP」という言葉に行き当たった。チェック項目がほとんど当てはまって、ようやく自分のことが説明できた気がした。ところが画面を下にたどると、発達障害の記事が出てくる。読むと、こちらも当てはまる。
そこから「どっちなんだろう」が始まって、何時間も検索を続けてしまう。片方に決まらないと、次に進んではいけない気がしてくる。
先に結論を書きます。どちらの名前で呼ぶかを決めなくても、今日から減らせる負担があります。 名前を確定させるより、困っている場面をはっきりさせるほうが確実に前へ進みます。
なぜ「どちらなのか」が決まらないのか
理由はわりとはっきりしていて、二つの言葉が同じ種類のものではないからです。
HSPは、1990年代にアメリカの心理学者が提唱した「まわりからの刺激を強く受け取る人がいる」という考え方です。心理学の言葉として広まりましたが、医療機関が使う病気や障害の分類には入っていません。医師が診察してHSPかどうかを決める仕組みは、いまのところ用意されていません。
発達障害のほうは医学の枠組みの中にあります。子どものころからの様子と、いま生活にどれくらい支障が出ているかを医師が確かめたうえで判断します。チェック項目に何個当てはまったかだけで決まるものではありません。
つまり「HSPか発達障害か」という問いは、「身長が高いのか、体重が重いのか」と聞いているのに近い形になっています。並べて比べられる関係にないので、いくら調べても決着しません。答えが出ないのは、調べ方が足りないからではありません。
位置づけを並べると、こうなります。
| HSP | 発達障害 | |
|---|---|---|
| 出どころ | 心理学の考え方 | 医学の分類 |
| 決める人 | 自分(自己申告) | 医師 |
| 見るもの | 刺激の受け取りやすさ | 生育歴といまの生活の支障 |
| 制度とのつながり | ない | 手帳や配慮の根拠になり得る |
表の右側にしか制度がつながっていないので、「制度を使いたいかどうか」が実際の分かれ道になります。ただし、それはどちらの説明が正しいかという話ではありません。
なお、感覚のつらさそのものは研究の対象になっています。自閉スペクトラム症に見られる感覚の過敏さや鈍さを、神経のはたらきの面から整理した国内の論文があります。少なくとも、感覚のつらさは気の持ちようの問題としては扱われていません。
HSPという言葉は、手放さなくていい
ここは誤解されやすいので、はっきり書いておきます。
「HSPは診断名ではない」は、「あなたのつらさは本物ではない」という意味ではまったくありません。
自分だけ音や光に参っている気がして、でもそれを言うと大げさだと言われる。そんな年月を過ごしたあとにHSPという言葉に出会って、初めて自分の状態を人に話せた。そういう人はたくさんいます。その体験まで取り下げる理由はどこにもありません。言葉の効き目と、医学の分類は別の話です。
気をつけたい点は一つだけあります。「繊細だからしかたない」で説明が終わってしまうと、環境を変える相談や、制度を使う相談に進みにくくなることです。言葉は持ったままでかまいません。そのうえで、次の一歩に進んで大丈夫です。
逆の向きの注意もあります。「HSPだから発達障害ではない」と自分で結論を出してしまうと、受診の選択肢が早い段階で消えます。人によっては、そのせいで職場での調整が何年も遅れることがあります。どちらの方向にも、決めつけないでおくのがいちばん安全です。
HSPと発達障害の違いが気になる人へ/【いちばん効く1つ】名前ではなく「場面」で書き出す
【いちばん効く1つ】名前ではなく「場面」で書き出す
やることは1つです。困っている場面を、事実の形で3〜5行書き出します。
- 直近の1週間を思い出して、しんどかった瞬間を3つ拾う
- それぞれ「いつ・どこで・何が起きて・そのあとどうなったか」を1行にする
- 気持ちの言葉(つらい、無理)はいったん使わず、起きたことだけを書く
- 最後に回数と時間を足す(週に何回、どのくらい続いたか)
「スーパーの照明の下に10分いると、帰ってから2時間動けない。週に2回。」
「となりの席の電話の内容が耳に入ってきて、自分の作業が止まる。ほぼ毎日。」
「4人以上で話した翌日は、午前中いっぱい起きられない。月に3回くらい。」
この3行は、HSPでも発達障害でも同じように使えます。病院でも、職場でも、公的な相談窓口でも、いちばん話が早く進むのはこの形です。「繊細なんです」や「発達障害かもしれません」から始めるより、相手が動ける材料になります。
うまく書けないときは、家族や同僚に見えている場面から拾うと出てきやすくなります。「あのとき急に黙ったよね」と言われた日を1行にすれば十分です。
書いたものは、スマホのメモでもノートでも、どこか1か所にためてください。1週間分たまると、自分でも意外な偏りが見えてきます。音なのか、人数なのか、時間帯なのか。偏りが見えた場所が、最初に手を付ける場所です。
名前は、この3行がたまったあとから付いてくればいいくらいに考えて大丈夫です。
入ってくる刺激を、道具で減らす
原因の名前が分からなくても、入ってくる量は減らせます。まぶしいなら暗くする。うるさいなら耳をふさぐ。
- 耳栓:数百円から。会話は聞こえて、ざわつきだけ下がるタイプもあります
- ノイズキャンセリングのイヤホン:1万円前後から。移動の消耗が変わる人がいます
- 帽子や色の薄いサングラス:屋内で使いにくければ、席を照明の真下から1つずらすだけでも変わります
- 服:タグを切る、縫い目が肌に当たらないものを選ぶ
全部そろえる必要はありません。いちばんつらい入り口を1つだけふさいでみてください。効いたかどうかは、さっき書いた3行の回数が減ったかで判断できます。人によって効く道具はちがうので、合わなければ次を試せば十分です。
家のほうも、お金をかけずに変えられる部分があります。
- 天井の照明を消して、手元のあかりだけにする日を作る
- テレビや動画を「つけっぱなし」にしない(音が常にある状態をやめる)
- 洗濯機や食洗機を回す時間を、自分がその部屋にいない時間へずらす
- 一人になれる場所を家の中に1つ決めておく(風呂場でも、車の中でもかまいません)
どれも数分でできて、元に戻すのも簡単です。戻せる変更から試すと、失敗の代償がありません。
HSPと発達障害の違いが気になる人へ/回復の時間を、先に予定へ入れる
回復の時間を、先に予定へ入れる
疲れてから休もうとしても、たいてい休めません。予定を入れた時点で、回復の時間もセットで入れておきます。
- 人と会う予定を入れたら、その直後の90分を空欄にする
- 空欄に「何もしない」と書いておく(用事を入れない口実になります)
- 帰ってからやることを1つに絞る(風呂か食事か片づけか、どれか1つ)
予定がないだけの時間は、簡単に埋まってしまいます。予定として書いてある空白は、わりと守れます。
もう一つ、休みの中身も決めておくと効きます。横になっても頭が休まらないという人は、休んでいるあいだも音や画面から刺激が入り続けていることがあります。
- 部屋を暗くして、耳栓をして、10分だけ何もしない
- スマホは別の部屋に置く(手元にあると、休憩が調べものに変わります)
- 「回復した」ではなく「10分やった」で終わりにする
効果を判定しようとすると、それ自体が疲れます。やった回数だけを数えるほうが続きます。
人と会う量を、自分の側で決める
会う相手を減らすのではなく、時間と回数のほうを先に決めておくやり方です。
- 週に何回までにするか、上限を決める
- 行く前に帰る時刻を伝えておく
- 出るときのひとことを、あらかじめ用意しておく
「明日が早いので、このへんで失礼します。誘ってくれてありがとう。」
先に伝えておくと、帰るときに理由を組み立てなくて済みます。その場で断る力ではなく、事前の取り決めで解決するほうが、消耗が少なくて済みます。
上限の決め方に正解はありません。まずは「先月の実際の回数」を数えて、そこから1回だけ減らしてみてください。ゼロを目指すと反動が来やすく、続きにくくなります。
診断を受けるか迷っているとき
受けるかどうかは、制度を使う予定があるかどうかで考えると迷いにくくなります。
- 障害者手帳や医療費の負担を軽くする制度を使いたい
- 職場に正式な形で配慮を頼みたい
- 眠れない、気分の落ち込みが2週間以上続いている
これらに当てはまるなら、受診の相談に進む理由があります。反対に、いまの困りごとが道具と時間の調整でしのげているなら、いま決めなくてもかまいません。
自閉スペクトラムの傾向を測る質問紙には、日本語版として整えられたものもあります。ただし、それは傾向をつかむ目安であって、医師の判断とは別のものです。点数だけで結論を出さないでください。
相談の入口は病院だけではありません。発達障害者支援センターは、診断がなくても相談を受け付けています。
受診すると決めたら、当日までに用意しておくと話が早いものがあります。
- さきほどの3行(困っている場面と回数)
- 子どものころの様子が分かるもの(通知表、家族から聞いた話のメモ)
- いま飲んでいる薬があれば、その名前
- 何を相談したいか(診断がほしいのか、配慮の根拠がほしいのか、眠れないのを何とかしたいのか)
最後の1つがはっきりしていると、診察の時間が短くても要点が伝わります。予約が数か月先になることも多いので、予約を取ってから準備する順番で問題ありません。
よくある質問
HSPは病気ですか
病気の名前としては使われていません。ただし「病気ではないから我慢すべき」という話にはなりません。困っているかどうかと、名前があるかどうかは別々に考えて大丈夫です。
チェックで高い点数が出ました。病院に行くべきですか
点数だけを理由に急ぐ必要はありません。判断の材料になるのは、生活にどれだけ支障が出ているかです。仕事や家事が回らない、休んでも戻らない状態が続いているなら、そこを理由に相談してください。
「繊細なだけ」と言われて終わりました
その人は、あなたの一日の消耗の量を見ていません。言い返す必要はないので、代わりに事実を出してください。「人と会った翌日は午前中動けません」のように、回数と時間で話すと扱いが変わることがあります。
両方に当てはまる気がします
珍しいことではありません。感覚のつらさや疲れやすさは、一つの特性だけに結びつくものではないからです。「どちらか一方に必ず決まる」という前提のほうを外してみてください。困っている場面が分かっていれば、名前が2つあっても3つあっても、やることはあまり変わりません。
関連する困りごと
- 音・光・においを場面ごとに減らしたいとき → 音・光・においがつらい人へ
- 人の声や生活音が特にきついとき → 人の声や生活音がつらい人へ
- 人といた翌日に動けなくなるとき → 人といると異常に疲れる人へ
- 受診を考え始めたとき → 発達障害かもと思ったら
まず今日、これだけやってみる
- しんどかった場面を3行、事実の形で書く(10分あれば足ります)
- いちばんつらい刺激を1つ決めて、その入口をふさぐ道具を1つだけ用意する
- 今週の予定表を開いて、人と会う予定の直後に90分の空欄を作る
この記事について
発達障害の基本的な説明と相談先については、国立障害者リハビリテーションセンターが公開している情報を参照しています。ただしこれは、個々の生活の工夫が効くことを保証するものではありません。
感覚のつらさについては、自閉スペクトラム症に見られる感覚の過敏さ・鈍さを神経のはたらきの面から整理した国内の論文を参照しました。この論文が示しているのは、感覚の違いが気のせいでもわがままでもないという点までです。耳栓やイヤホンといった個別の道具の効果を調べたものではありません。
自閉スペクトラムの傾向を測る質問紙には、日本語版として整えられ、その内容を検討した研究があります。これは傾向をつかむための目安であり、医師の判断とは別のものです。
HSPそのものを扱った出典は、この記事にはありません。 そのため、この記事はあなたがHSPに当てはまるかどうかを見分けるものではありませんし、HSPという考え方の正しさを判定するものでもありません。書いているのは、二つの言葉の位置づけがちがうという事実と、どちらであっても使える工夫だけです。
困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
どっちなんだろう、で何年も止まっている人がいるんですよね。名前が決まらなくても、まぶしいなら暗くしていいし、疲れたら休んでいいんです。順番は逆でかまいませんよ。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
- 専門家・公的情報
- 厚生労働省などの公的な機関や、専門家が出している情報をもとにしています。
専門家・公的情報発達障害情報・支援センター
この研究でわかっていること:発達障害の基本的な説明と支援情報の一次情報として使えます。
ここはまだ分かっていません:個別の生活術を保証する情報ではありません。
この研究でわかっていること:日本語での自閉スペクトラム傾向の測定について語れます。
ここはまだ分かっていません:診断ではありません。
研究で検討自閉スペクトラム症に見られる感覚処理障害の臨床神経生理学
この研究でわかっていること:感覚の違いが「気のせい」でも「わがまま」でもないことの裏づけになります。
ここはまだ分かっていません:個別の対策グッズ(イヤーマフ等)の効果を調べた研究ではありません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。