お風呂に入るのが億劫な人へ|ハードルを下げる仕組み
— 全部やるか、まったくやらないかの二択をやめます
ポイント
- 入浴は工程がとても多い作業です。ひとまとまりで考えると重くなります
- 今日の目標は「服を脱ぐところまで」で十分です。湯船は使わなくて構いません
- 入れない日の代わりの手段を先に決めておくと、悪循環が止まりやすくなります
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夜、椅子に座ったまま時間だけが流れていく。入らないといけないのは分かっている。それでも立ち上がれない。
気づくと日付が変わっていて、「もういいか」と思って布団に入る。翌朝、髪がぺたっとしていて、少しだけ気持ちが沈む。
これは、生活態度の問題ではありません。入浴は、家のなかの用事のなかでも群を抜いて工程が多い作業です。脱いで、湯を出して、体を洗って、髪を洗って、拭いて、着て、乾かして、洗い物を出す。数えると十個近い用事の束になります。
結論を先に書きます。目標を「お風呂に入る」から「服を脱ぐ」に置き換えてください。 入浴は、途中でやめてもいい作業です。
なぜお風呂がここまで重くなるのか
理由は大きく3つあります。
ひとつめは、いま書いた工程の多さです。頭のなかで束のまま見ると、実際にかかる労力より重く感じます。
ふたつめは、姿勢と場所を変えないと始まらないことです。座ったまま片手でできる用事ではありません。動いている流れのなかなら入れるのに、いったん腰を下ろすと入れなくなる。よくあることです。
みっつめは、刺激の強さです。脱衣所が寒い、シャワーの音が大きい、髪が濡れていく感じが苦手、シャンプーのにおいがきつい。どれかひとつでも強く出ると、体のほうが先に避けます。
そして、入らない日が続くほど次が重くなります。間が空くほど洗う工程が増えるからです。ここが悪循環の入口になります。
なお、「この場面になったらこれをする」と先に決めておく方法は、目標の達成を助けると報告されています。ただし、同じ合図で同じ行動をくり返しても、身につくまでの日数には大きな個人差があるという研究もあります。うまくいくまで時間がかかっても、それが普通です。
【いちばん効く1つ】ゴールを「服を脱ぐ」までにする
いちばん効くのは、目標地点を手前にずらすことです。
- 今夜の目標を「服を脱いで、洗濯かごに入れる」だけにする
- 脱いだら、そこで終わってもいいと本気で決めておく
- 脱げたら、シャワーの栓をひねるかどうかをそのとき決める
多くの場合、脱いだ時点で流れができます。裸で立っていると、浴びたほうが早いからです。
大事なのは3の判断を脱ぐ前にしないことです。座ったまま「今日はフルコースだ」と考えると、そこで止まります。
| 頭に浮かんでいる言い方 | 今夜の目標に置き換える |
|---|---|
| お風呂に入る | 服を脱いで洗濯かごに入れる |
| ちゃんと洗う | 湯を浴びる |
| 髪を洗って乾かす | 頭皮だけ流す |
| 湯船につかる | 足だけ湯につける |
| 全部やる | どれか1つだけやる |
右の列は、考えなくても手が動く大きさになっています。この大きさまで下げてから立ち上がってください。
途中でやめてもいい
髪を洗わずに出る日があっていいです。体だけ流して終わる日もあっていいです。
0点と100点のあいだに、30点や60点があるという感覚を持てると、入浴はぐっと軽くなります。
入る前の壁を先にどける
立ち上がったあとに小さな障害が残っていると、そこで引き返します。夜の自分に判断させないため、明るいうちに片づけておきます。
- 着替えとタオルを、脱衣所に出しておく(帰宅直後がおすすめです)
- 脱衣所を温めておく。冬はセラミックヒーターを5分だけ回す
- 浴室に飲みかけのボトルや洗濯物があれば、先に出しておく
- シャンプーの残量を、入る前ではなく買い物の日に確認する
寒さは想像以上に大きな壁です。脱衣所と浴室の温度差をなくすだけで、入る回数が変わる人がいます。小型のヒーターは3,000〜6,000円くらいから買えます。
着替えは「1セットで置く」
下着・部屋着・靴下を、ばらばらの場所から集めるのが面倒で止まることがあります。帰宅したらその日の1セットを脱衣所に置くと決めておくと、探す工程が消えます。
スマホを持って立ち上がらない
立ち上がったのにスマホを握ったままだと、脱衣所の手前で止まります。動く前に、充電器につないでから席を立ってください。 置き場所が決まっていると、手が勝手に持っていきません。
音や動画がないと気が向かない場合は、防水スピーカーを浴室側に置いておくと、本体を持ち込まずに済みます。2,000〜4,000円くらいのものがあります。
お風呂に入るのが億劫な人へ/入る前の壁を先にどける
浴室のなかの手数を減らす
入ったあとが長いと、次の日に響きます。中の作業は削れるだけ削って構いません。
- シャンプーとトリートメントを一体型にする。ボトルが2本減ります
- 体は手で洗う。タオルを絞って干す工程がなくなります
- 風呂椅子と手桶を置く。立ちっぱなしがつらい日に、座って続けられます
- 詰め替えをやめて、本体ボトルを買う。1回あたり数十円高くても、詰め替え作業が消えます
- 髪が長いなら、乾かす時間を先に測っておく。10分かかると分かっていれば、その分だけ早く始められます
「毎日ぜんぶ洗う」を疑う
髪を毎日洗わないと落ち着かない人もいれば、2日に1回で問題ない人もいます。頭皮や肌の状態は人によって違います。 気になるときは皮膚科で相談してください。ここでは、自分の必要量を勝手に引き上げないことだけをおすすめします。
出る時刻を決めてから入る
長くいすぎて、そのぶん翌日が重くなる人もいます。入る前にタイマーを15分でかけて、鳴ったら出ると決めておくと、終わりが見えるぶん入りやすくなります。
出るきっかけがつかめず、のぼせるまで座っている人にも同じ手が使えます。
どうしても入れない日の代わりを決めておく
入れない夜はあります。そこで何もしないと、翌日のハードルがさらに上がります。代わりの手段を先に用意しておくのが目的です。
- 蒸しタオル。濡らして絞り、電子レンジで30〜40秒。首と顔を拭くだけでも気分が変わります
- 体拭きシート。ドラッグストアで400円前後。脇と足だけでも十分です
- ドライシャンプー。700〜1,500円くらい。頭皮のべたつきを一晩ぶんしのげます
- 足だけ湯につける。洗面器かバケツに湯を張って5分。座ったままできます
- 着替えだけする。服を替えると、体感がかなり変わります
このどれかをやった日は、入らなかった日ではなく、別の方法をとった日として数えてください。
入れない夜があること自体は、そんなに珍しくありません。 疲れきった日、予定が詰まった日、気持ちが落ちている日にはよく起きます。人に言いにくいだけで、同じところで困っている人はたくさんいます。
家族や同居人への言い方
責められている気がして、余計に動けなくなることがあります。先に一言だけ渡しておくと楽になります。
「今日はシャワーだけにするね。無理な日は体を拭くだけにしてる」
説明を長くする必要はありません。予告してあると、あとで指摘されにくくなります。
入る時間を前にずらす
夜が遅くなるほど重くなるなら、時刻そのものを動かす手があります。
- 帰宅してすぐに入る。荷物を置いて、そのまま脱衣所へ
- 夕食の前に入る。食べたあとは動きにくくなります
- 朝に入る。夜に固執しなくて構いません
- 家の外で済ませる。銭湯やジムのシャワーを使う日を作る人もいます
いちばん効くのは、すでに毎日やっていることの直後に置くやり方です。「玄関で靴を脱いだら、そのまま脱衣所に行く」のように、既存の行動を合図にします。
曜日で「やる内容」を決めておく
毎晩ゼロから中身を決めていると、決めるところで力を使い切ります。先に週の型を作っておくと、その場の判断が減ります。
- 月・水・金:髪まで洗う
- 火・木:体だけ流す
- 土:湯船を使う
- 日:入らない日にしてよい
紙に書いて脱衣所の壁に貼るか、カレンダーにくり返しの予定として入れておきます。
「今日は入らない日」と先に決まっている日があると、気持ちが軽くなります。 決めていなかった日に入らなかったときだけ、落ち込みが強く出ます。
型は、いまの回数から1つだけ足す
理想の週を書き出すと、守れなくて終わります。いまできている回数を数えて、そこに1回だけ足してください。 週2回入れているなら、次の型は週3回です。
半分しか守れなかった週も、型としては生きています。守れた日だけ丸をつけて、翌週も同じ型を使ってください。
お風呂に入るのが億劫な人へ/入れない日の代わりを決めておく
よくある質問
何日入らないとまずいですか
日数で線を引くより、困りごとが出ているかどうかで考えるほうが実用的です。かゆみが出た、においが気になって外出を避けている、肌が荒れた。そういうときは、内容を軽くしてでも回数を増やす方向で調整してください。判断に迷うときは皮膚科などで相談できます。
湯船に入らないと疲れが取れない気がします
湯船が合う人もいますが、ためる・洗う・入れ替えるの工程が加わります。平日はシャワー、休日だけ湯船のように分けている人もいます。両方を毎日やる前提を外すと続けやすくなります。
入ったあとに髪を乾かせず、そのまま寝てしまいます
乾かす工程まで含めて重いなら、タオルドライだけで終わる長さに髪を切る、吸水タオルを使う、ドライヤーを椅子のそばに置いて座って乾かすあたりが現実的です。乾かす場所を浴室の外に移すだけでも変わります。
子どものころから苦手で、直せないままです
苦手な理由が感覚の側にあるなら、意志の力では変わりにくい部分があります。湯温を1度下げる、シャワーヘッドを弱い水流のものに替える、耳栓をして入るなど、刺激のほうを調整すると入りやすくなる人がいます。
関連する困りごと
- 立ち上がるところで止まってしまうとき → 最初の一歩がどうしても踏み出せない人へ
- 今やっていることをやめられないとき → 作業の切り替えができない
- 音やにおい、温度がつらいとき → 音・光・においがつらい人へ
- 夜になると何も残っていないとき → 気づいたら限界になっている人へ
まず今日、これだけやってみる
- 着替えとタオルを1セット、いま脱衣所に置く
- 今夜の目標を「服を脱ぐまで」と紙かスマホに書く
- 入れなかった日の代わりを1つだけ決める(体拭きシート、蒸しタオル、足湯のどれか)
この記事について
この記事の土台は2つあります。ひとつは、行動を場面と結びつけて先に決めておく方法が目標の達成を助けるという研究をまとめた分析です。「玄関で靴を脱いだら脱衣所へ」という形にしているのは、ここから来ています。ただしこの研究は、発達障害のある人だけを対象にしたものではありません。一般の人に向けた知見を当てはめています。
もうひとつは、習慣ができるまでの過程を日常のなかで追った研究です。同じ合図と同じ行動のくり返しが習慣づくりを支えること、そして身につくまでの期間には大きな個人差があることが示されています。「何日で習慣になる」という数字は、この研究の結論ではありません。
一方で、この記事に書いた工程の削り方や代わりの手段は、入浴という場面で効果を確かめた研究があるわけではありません。 仕組みとしては筋が通る、という段階のものです。合うものだけ試してください。また、肌や頭皮の状態、においの変化については医療の領域なので、ここでは判断していません。
気持ちの落ち込みが続いて何日も動けない、身のまわりのことが全体的に止まっている。そういうときは、入浴だけの話ではないかもしれません。困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
お風呂に入れない夜があるのは、そんなに珍しいことじゃないんですよね。困るのは入れなかったこと自体より、入れなかった自分を責めて、翌日もっと重くなっていくほうです。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討習慣はどうやってできるのか:日常生活での習慣づくりを追った研究
(原題:How are habits formed: Modelling habit formation in the real world)
この研究でわかっていること:同じ合図と同じ行動の反復が習慣化を支えること、定着に個人差が大きいことを示せます。
ここはまだ分かっていません:ADHD・ASDを対象にした研究ではありません。「21日で習慣化」も本研究の結論ではありません。
研究で検討「もし〜なら〜する」と先に決めておく方法が目標達成に与える効果の研究をまとめた分析
(原題:A Meta-Analysis of the Effects of Mental Contrasting With Implementation Intentions on Goal Attainment)
この研究でわかっていること:行動を「場面」と結びつけて決めておく方法に一定の効果があると言えます。
ここはまだ分かっていません:ADHD・ASDだけを対象にした研究ではありません。一般の人向けの知見を当てはめています。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。