初めての場所に行くのが不安な人へ|下見と迷子対策
— 当日その場で決めることを、前の日のうちに減らします
ポイント
- 不安の中身は、当日その場で決めることが多すぎることから来ています
- 道順は地図より、曲がる角の写真で固めるほうが迷いにくくなります
- 迷ったときの戻り方を先に決めると、遅刻の被害が小さくなります
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明日は、行ったことのない場所へ行く日です。地図は開きました。それでも夜になると落ち着きません。駅を出たあと本当にたどり着けるのか、建物に入ってからどこへ行けばいいのか。
当日はかなり早く家を出ます。それなのに駅の出口を間違え、同じ角を二度曲がり、着いたころには汗だくで、用件が始まる前にもう疲れています。
一度これをやると、次から「初めての場所」と聞くだけで気が重くなります。行きたい場所のはずなのに、たどり着くまでが重い。
先に結論を書きます。不安の正体は、当日その場で決めることが多すぎることです。 決める回数を、前の日までに減らしてください。それだけで当日の負担がかなり軽くなります。
この記事は、毎日通う道ではなく、一度きり、または初回だけ行く場所の話です。
なぜ初めての場所はこんなに疲れるのか
知っている道を歩くとき、人はほとんど何も決めていません。体が勝手に曲がってくれます。
ところが初めての道では、角に来るたびに判断が必要になります。
- 駅のどの出口から出るのか
- この角で曲がるのか、それとも次か
- 建物の入口は正面か、裏か
- 受付を通るのか、そのまま入るのか
- 何分前に着いていればいいのか
この判断の連続が、着く前に体力を削ります。 目的地に立った時点で一仕事終えたようになるのは、当たり前のことです。
そこへ音や光の負担が重なります。知らない駅、人の流れ、案内放送、店先の音楽。感覚の違いが気のせいでもわがままでもないことは、国内の研究でも整理されています。慣れた道なら流せる刺激でも、迷っている最中はすべてが入ってきます。
【いちばん効く1つ】道順を、地図ではなく写真で固める
地図が読めても、実際に角の前に立つと分からなくなることがあります。地図は上から見た形で、目の前に広がる景色とは別のものだからです。
いちばん効くのは、曲がる角の写真を先に用意しておくことです。
- 地図アプリで、出発地から目的地までの経路を出します。
- ストリートビューで、駅の出口から順に「曲がる角」だけをたどります。
- 曲がる角に着くたびに、画面のスクリーンショットを撮ります。
- 撮った順に並べ、1枚ずつに「歩道橋の手前を右」と一言だけ書き込みます。
- スマホのメモに貼るか、自分あてのメッセージで送っておきます。
曲がる角は、たいてい3か所から5か所です。 道の全部を覚える必要はありません。
目印には、店の名前より動かないものを選んでください。のぼりや看板は入れ替わります。橋、歩道橋、信号の形、大きな建物の色のほうが当てになります。
建物に着いてからも迷いやすい人は、入口とエレベーターの写真も足しておきます。正面ではなく裏の入口だった、というのはよくあることです。
建物の中の情報も、先に集める
地図アプリに載っているのは、建物の外までです。中のことは、自分で取りにいく必要があります。
- 公式サイトの「アクセス」のページを開き、写真つきの案内があれば保存する
- 階の案内図があれば、行く階と部屋の名前を控える
- 車で行くなら、駐車場の入口の位置と料金を見ておく
分からないところは、電話で聞いてかまいません。 初めて行く人からの問い合わせは、受ける側にとって珍しいものではありません。
「はじめて伺うのですが、正面の入口から入ってよろしいでしょうか。」
電話が苦手なら、問い合わせフォームやメールでも同じことが聞けます。当日その場で困るより、前の日に一度聞くほうがラクです。
前の日までにやる、3つの準備
朝の自分に考えごとを残さないのが目的です。
経路を1本に決める
到着時刻ではなく、家を出る時刻を決めます。乗り換えが2回以上あるなら、速い経路より乗り換えの少ない経路を選んでください。速さより、迷いにくさが優先です。
検索した結果は画面ごと保存します。電波の弱い場所でも見られます。
持ち物をカバンごと作る
当日に入れ替える作業が残らないよう、前の夜のうちに完成させます。予定を書いた紙かその画面、充電器、少しの現金、飲み物、上着。
朝の支度そのものが毎回崩れる人は、朝バタバタして何も進まない人へ|前の日の夜に3つだけやるもあわせてどうぞ。
服を出しておく
当日の朝に服で迷うと、そこで時間と気力を使い切ります。迷ったときは、長くいても苦しくないもの、締めつけないもの、途中で脱げるものを選んでください。
初めての場所に行くのが不安な人へ/「こうなったら、こうする」を先に決める
「こうなったら、こうする」を先に決める
不安が大きいときほど、その場で考えようとします。ですが、迷っている最中はいちばん判断しにくい状態です。
先に紙かメモに書いておくのは、次の4つで十分です。
- 道が分からなくなったら → 立ち止まり、最後に合っていた場所まで戻る
- 10分以上遅れそうなら → 歩きながら悩まず、その場で連絡する
- 人に聞くなら → 住所の画面を見せる
- 早く着いたら → 建物に入らず、決めておいた場所で待つ
行動を場面と結びつけて先に決めておく方法には一定の効果がある、と研究をまとめた分析で報告されています。その場で考えなくて済む形にしておくのが要点です。
迷ったときの戻り方
迷った瞬間に歩き続けると、ズレはどんどん大きくなります。手順は3つだけです。
- 止まります。 歩きながらスマホを見ないでください。店の前や広い歩道など、立ち止まっても邪魔にならない場所に寄ります。
- 戻ります。 「ここまでは合っていた」と分かる場所まで引き返します。先へ進んで探すより、結局は速く着きます。
- 聞きます。 交番、コンビニ、駅の窓口。目的地の名前を言うより、住所の画面を見せるほうが早く伝わります。
「すみません、この住所に行きたいのですが、どちらの方向でしょうか。」
この一文をスマホに保存しておいてください。とっさに言葉が出ない人でも、画面を見せながらなら成立します。
遅刻保険のかけ方
早めに出るだけでは、保険になりません。早く着いたあとの居場所まで決めて、はじめて安心して出発できます。
- 到着は約束の20分から30分前を目安にします。
- 早く着いたときの待ち場所を、先に1つ決めておきます。カフェ、コンビニ、ベンチ、駅の中。
- 建物の中で待つと落ち着かない人は、外で待って5分前に入ります。
- 待ち時間にやることを1つ持っていきます。読むもの、聞くもの、どちらでも。
早く着きすぎて間が持たないのも、立派な負担です。 そこまで含めて組み立ててください。
出る時刻や所要時間の見積もりが毎回ずれる人は、何度も遅刻してしまう人へ|時間の感覚のズレを埋めるにやり方をまとめています。
初めての場所に行くのが不安な人へ/着いてからの消耗を減らす
着いてからの消耗を減らす
たどり着くことだけを考えていると、着いたあとに力が残りません。移動中の負担を減らす道具を、少しだけ持って出てください。
- 耳栓かイヤホン。 移動中だけでも音を減らすと、着いたときの余力が変わります。
- 帽子か、色の濃いめがね。 明るい場所がつらい人には効きます。
- 飲み物。 喉の渇きに気づきにくい人は、先に持って出るほうが確実です。
- 脱ぎ着できる上着。 建物の中は、寒すぎたり暑すぎたりします。
音や光がつらい人向けの工夫は音・光・においがつらい人へ|感覚の過敏との付き合い方にまとめました。
帰ってから何日か動けなくなる人は、その日の後ろに予定を足さないでください。回復の話は外出したあと2日動けない人へ|回復のとり方にあります。
前の日の夜、不安が戻ってきたら
準備が済んでいても、夜になると不安がふくらむことがあります。頭の中で当日を何度も再生しはじめたら、覚えておこうとしている中身を外へ出してください。
- 決めたことを紙に書き出して、カバンの上に置く
- 当日の最初の一歩だけ、声に出して確かめる(「7時に家を出る」)
- それでも頭が回るなら、心配ごとは紙の上に置いてある、と決めてしまう
全部を覚えている状態で寝る必要はありません。 紙が覚えていてくれれば十分です。
場面別|初めての場所の下ごしらえ
初めての病院や役所
持ち物は前の夜に袋へ。予約票、保険証、書くもの。受付の位置は、入口の写真で先に確かめておきます。
待ち時間が読めない場所なので、後ろに予定を入れないでください。 終わる時刻を決められないことが、そのまま不安になります。
面接や初出勤
入口と受付の写真を、とくにていねいに用意します。最初にかける一言も決めておくとラクです。
「◯時にお約束しております、◯◯と申します。」
余裕があれば、前の日に道だけ歩く下見が効きます。できれば当日と同じ時間帯に歩くと、人の多さまで分かります。
大きなイベントや、知らない人が多い場所
着いたらまず、入口・トイレ・座って休める場所の3か所を確認します。この3つが分かっていると、途中で苦しくなっても立て直せます。
帰る時刻も先に決めてください。最後までいる必要はありません。
旅行や、遠くへ行くとき
乗り換えごとに写真の束を作ります。宿の住所は紙にも書いて持ってください。スマホの電池が切れた時点で道具がゼロになる、という状態を避けます。
関連する困りごと
- 朝の支度が毎回崩れるなら → 朝バタバタして何も進まない人へ|前の日の夜に3つだけやる
- 時間の見積もりがずれて遅れがちなら → 何度も遅刻してしまう人へ|時間の感覚のズレを埋める
- 人混みや音そのものがつらいなら → 音・光・においがつらい人へ|感覚の過敏との付き合い方
- 出かけたあとに動けなくなるなら → 外出したあと2日動けない人へ|回復のとり方
まず今日、これだけやってみる
- 次に行く初めての場所を1つ選び、曲がる角の写真を3枚だけ撮る。 ストリートビューで十分です。
- 「道が分からなくなったら、最後に合っていた場所まで戻る」と紙に書く。 カバンに入れておきます。
- 早く着いたときの待ち場所を1つ決める。 地図に印を付けておきます。
準備をしても、迷うときは迷います。迷ったあとの戻り方まで決まっていれば、それは失敗になりません。
この記事について
感覚の敏感さや鈍さについては、神経のはたらきの面から整理した国内の研究があります。感覚の違いが気のせいでもわがままでもないことの裏づけになります。 ただし、耳栓や帽子といった個別の道具の効果を調べた研究ではありません。
「こうなったら、こうする」と場面と行動を結びつけて先に決めておく方法については、目標の達成しやすさを調べた研究をまとめた分析があります。一定の効果があると言えます。 ただし、ADHDやASDのある人だけを対象にした研究ではありません。一般の人向けに調べられた結果を、ここでは当てはめています。
そのうえで、この記事に書いた写真での道順の固め方や、待ち場所の決め方そのものは、研究で効果が確かめられたものではありません。 仕組みとしては筋が通るので、合いそうなところから小さく試してみてください。
外出のたびに強い不安が出る、外に出ること自体がむずかしくなっている。そうした状態が続くときは、支度の工夫だけで抱え込まないでください。困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
初めての場所って、行くこと自体よりも「分からないことが多すぎる」のがしんどいんですよね。分からないものを前の日のうちに1つずつ減らしておくと、当日の自分がずいぶん助かりますよ。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討自閉スペクトラム症に見られる感覚処理障害の臨床神経生理学
この研究でわかっていること:感覚の違いが「気のせい」でも「わがまま」でもないことの裏づけになります。
ここはまだ分かっていません:個別の対策グッズ(イヤーマフ等)の効果を調べた研究ではありません。
研究で検討「もし〜なら〜する」と先に決めておく方法が目標達成に与える効果の研究をまとめた分析
(原題:A Meta-Analysis of the Effects of Mental Contrasting With Implementation Intentions on Goal Attainment)
この研究でわかっていること:行動を「場面」と結びつけて決めておく方法に一定の効果があると言えます。
ここはまだ分かっていません:ADHD・ASDだけを対象にした研究ではありません。一般の人向けの知見を当てはめています。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。