二次障害を防ぎたい人へ|無理の蓄積に気づく
— がんばれているうちに、点検します
ポイント
- 困りごとが長く重なると、あとから心や体の調子を崩す人がいます
- 積み重なりはゆっくりなので、昨日と比べても気づけません。3か月前と比べます
- 眠れない、食べられない、2週間以上の落ち込みは、相談していい合図です
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数年前は、工夫でなんとかなっていました。メモを増やして、早めに家を出て、まわりの様子を見ながら合わせて。うまくいかない日もあったけれど、翌週には持ち直していました。
それが、ある時期から様子が違ってきます。朝、体が起き上がらない。休みの日は何もする気になれない。前は楽しみだったことが、どうでもよく感じる。心あたりのある出来事は、特にありません。
これは、今日の疲れではないことがあります。何年もかけて少しずつ溜まったもので、1日休んでも戻らないという点が、いつもの疲れと違います。週末に寝だめをしても、月曜には同じところに戻っている。そういう戻り方の悪さが目印になります。
先に結論を書きます。困りごとが長く重なったあとで心の調子を崩す人がいますが、それは本人が弱かったからではありません。防ぐためにやることは「もっとがんばる」ではなく、まだ動けているうちに、人に相談することです。早い時期ほど、選べる方法が多く残っています。
二次障害とは、何を指す言葉なのか
発達障害そのものではなく、その特性から来る困りごとが重なった結果、あとから心や体の調子を崩すことを指して使われる言い方です。国の発達障害の情報提供窓口でも、二次的な不調について触れられています。
この記事では、病気の見分け方は書きません。それは医師の仕事で、文章で判断できるものではないからです。ここで扱うのは、その手前の段階です。自分に無理が溜まっていることに、自分で気づくところまでを目的にします。
前提を2つだけ書いておきます。1つ目は、誰にでも起きるわけではないこと。2つ目は、起きたとしても努力が足りなかったからではないことです。合わない環境に長くいれば、消耗するのが自然です。
なぜ、がんばれる人ほど溜まるのか
工夫でしのげていると、まわりからは「できている人」に見えます。本人も、そう扱われるうちに、そう思うようになります。ところが実際にかかっている力は減っていません。外から見えない負荷は、どこにも記録されません。
もう1つ、比べる相手の問題があります。溜まり方はとてもゆっくりなので、昨日と今日の差はほぼありません。昨日を基準にしているかぎり、何年たっても「いつもと同じ」に見え続けます。
感情が大きく動きやすい場合、日々の落ち込みも「いつものこと」として処理されがちです。成人のADHDで感情が大きく動きやすいことは、研究をまとめた分析で報告されています。上下が大きいと、長い目で見たときの下がり方が、その振れ幅にまぎれてしまいます。
そして、「この程度で弱音を吐けない」という比較が、相談する時期をどんどん後ろにずらします。もっとつらい人がいることと、自分が相談していいことは、別の話です。
二次障害を防ぎたい人へ/溜まりやすいのは、むしろうまくいっている時期
溜まりやすいのは、むしろうまくいっている時期
負荷が増えるのは、調子を崩したときではありません。うまくいっていると見られたときです。
- 異動や転職の直後。まわりの決まりごとを一から覚え直すので、同じ仕事量でも力の要り方がまったく違います
- 評価が上がった直後。任される量が増え、断りにくくなります
- 「慣れてきたね」と言われたころ。手伝いが静かに減ります
- 引っ越しや家族構成の変化のあと。家の中の段取りが全部作り直しになります
こういう時期は、本人がいちばん張り切っているので、しんどさが自覚されにくくなります。あとから振り返ると、崩れる半年ほど前に、こうした変化が置かれていることがあります。
環境が変わった月は、それだけで点検の対象だと考えてください。何も起きていなくても、予定を1つ減らしておいて損はありません。
【いちばん効く1つ】月に1回、5分の「3か月前と比べる日」
日単位で自分を見ても分かりません。比べる相手を3か月前に固定して、月に1回だけ点検します。
- 毎月同じ日に、5分の予定を入れます。給料日や月初など、必ず来る日にすると忘れません。
- 次の4つに、今の自分で答えます。同じ質問に、3か月前ならどう答えたかも書きます。
- 平日、だいたい何時に寝ているか
- 直前の休みの日に、何をしたか(1つでいい)
- 楽しみにしている予定が、この先にあるか
- 仕事や学校を休みたいと思う回数は、週に何回か
- 3か月前より2つ以上悪くなっていたら、その月は予定を1つ減らします。
気持ちを聞かないのがポイントです。「調子はどうか」と自分にたずねても答えは出ませんが、寝る時刻と休みたい回数なら答えられます。
書く場所は1か所に決める
ノートでもスマホのメモでも構いません。大事なのは、去年の分を読み返せることです。同じ場所に足していくだけで、あとから比べられる材料になります。
早めに動いたほうがいいサイン
次のうち1つでも当てはまるなら、様子を見るより相談したほうが早く済みます。全部そろう必要はありません。
| 起きていること | 目安 |
|---|---|
| 寝つけない、夜中に何度も目が覚める | 2週間以上続いている |
| 食べられない、または食べる量が急に変わった | 体重が短期間で動いた |
| 気分の落ち込みが抜けない | ほぼ毎日、2週間以上 |
| 前は楽しめたことが、何も楽しくない | 2週間以上 |
| 朝、体が動かず、欠勤や欠席の連絡をくり返している | 月に数回以上 |
| お酒やゲームなど、特定のことに逃げる時間が増えた | 自分でも多いと感じる |
| 消えたい、いなくなりたいと思う | 一度でも |
この表は、病気かどうかを判定するためのものではありません。「そろそろ人に相談していい」という合図として使ってください。当てはまったからといって、何かが確定するわけではありません。
二次障害を防ぎたい人へ/「消えたい」と思うときは、今日話す
「消えたい」と思うときは、今日話す
その気持ちが出てきたときは、様子を見る段階ではありません。今日のうちに、誰かに言ってください。
厚生労働省の「まもろうよ こころ」には、電話やSNSで相談できる窓口が一覧になっています。受付の時間や対象は窓口ごとに違うので、いま開いているところを選んでください。働いている人向けには、同じく厚生労働省の「こころの耳」に相談先の案内があります。
うまく話せなくても構いません。「つらい」の一言で十分です。相手に説明できる形に整えてから連絡しよう、と思わないでください。整えている間に時間がすぎます。
そして、そのときは次の3つをやってみてください。
- 一人でいる時間を短くする。 家族や友人に「今日、少し話せますか」と送るだけでいいです。
- 大きな決断をその日にしない。 退職、退学、解約、引っ越し。どれも翌週まで置いて構いません。
- 危ないと思うものを、手の届かない場所に置く。 人にあずかってもらえると、なお安心です。
迷ったときは、大げさなほうを選んでください。 相談してみて「思ったより軽かった」と分かるのは、いい結果です。
積み重ねを減らす、環境側の工夫
気の持ちようではなく、かかっている力そのものを減らします。
やめる順番を、元気なうちに決めておく
余裕がなくなってから何を削るか考えるのは、いちばん難しい判断です。調子がいいうちに、削る順番を紙に書いておきます。
①付き合いの予定 → ②手の込んだ食事 → ③掃除の回数 → ④趣味の集まり
仕事や通院は、最後まで残す側に置いてください。順番が決まっていれば、判断せずに上から実行できます。
相談先を、困る前に1つ作っておく
困ってから相談先を探すのは、力が残っていないときにいちばん重い作業になります。元気なうちに1か所だけ調べて、連絡先を保存しておいてください。地域の相談窓口でも、かかりつけの医療機関でも構いません。
かかっている負荷を、1つだけ下げる
全部を変えようとすると動けません。いちばんこたえている場面を1つ選んで、そこだけ調整をお願いします。頼み方は配慮をお願いしたい人へにまとめています。
記録が、そのまま相談の材料になる
相談の場では「いつから」「どれくらい」を聞かれます。月1回の点検メモがあれば、その場で答えられます。思い出しながら話すより、ずっと早く進みます。
相談の入口は、3つに分けて考える
「相談する」と言われても、どこに行けばいいのか分からないと動けません。入口は大きく3つあります。どれから入っても構いません。
- 地域の相談窓口。 自治体の窓口や、発達障害のある人の相談を受けている支援機関があります。診断や手帳がなくても相談できるところがあるので、まず電話で確認してみてください。
- 働いている人は、職場の側。 産業医や健康管理の担当、社外の相談窓口が用意されていることがあります。厚生労働省の「こころの耳」に、働く人向けの相談先の案内があります。
- 医療機関。 精神科や心療内科が思い浮かびますが、眠れない、体がだるいといった形で出ているなら、まずはかかりつけの医療機関に相談する形でも構いません。
持っていくものは、メモ1枚でいい
その場でうまく話せなくても大丈夫です。次の4つを書いた紙を渡せば足ります。
- いつごろから、そうなっているか
- どんなときに強くなるか
- 最近の睡眠時間
- 休んだ回数や、休みたいと思った回数
月1回の点検を続けていれば、この4つはすでに手元にあります。話す力が残っていないときほど、記録が代わりに説明してくれます。
よくある質問
診断を受けていなくても相談できますか
窓口によりますが、診断名がなくても話を聞いてくれるところは多くあります。最初の電話やメールで「診断はありませんが」と先に伝えて構いません。そこで断られたら、別の窓口をあたってください。
病院に行くほどではない気がします
行くほどかどうかを自分で決めるのは、実はとても難しい判断です。その判断をしてもらうために行くと考えると、行きやすくなります。何もなければ、それが分かっただけで収穫です。
忙しくて、相談する時間が取れません
15分あれば話せる窓口もありますし、電話やオンラインで受けているところもあります。それに、時間が取れないほど予定が詰まっている状態そのものが、点検の対象です。
「みんなつらいよ」と言われました
つらさの大きさを人と比べても、何も決まりません。比べる相手は他人ではなく、3か月前の自分です。相談していいかどうかは、順位で決まるものではありません。
家族に心配をかけたくありません
動けなくなってからのほうが、まわりにかかる負担は大きくなります。伝え方に迷うなら、家族に伝えたい人へを参考にしてください。
関連する困りごと
- 疲れの信号そのものが届きにくいなら → 気づいたら限界になっている人へ
- まわりに合わせ続けることで消耗しているとき → 人といると異常に疲れる人へ
- 眠れない状態が続いているなら → 夜、眠れない人へ
- 環境の側を1つ変えたいとき → 配慮をお願いしたい人へ
まず今日、これだけやってみる
- 来月の同じ日に、5分の点検の予定を入れる
- 4つの質問に、今の自分で答えてメモに残す(寝る時刻/休日にしたこと/楽しみな予定/休みたいと思う回数)
- 相談できる窓口を1つ調べて、連絡先に保存する
この記事について
発達障害の基本的な説明と支援の情報は、国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターを参照しています。国の情報提供窓口としての一次情報ですが、ここに書いたような個別の点検方法を保証するものではありません。
成人のADHDについては、感情が大きく動きやすいことが13の研究をまとめた分析(2,535名)で報告されています。日々の落ち込みを性格の問題として扱わなくていい根拠になりますが、この分析は二次的な不調の予防法を調べたものではありません。
相談先として挙げた厚生労働省の「こころの耳」と「まもろうよ こころ」は、働く人向けの情報と、つらいときの電話・SNS相談窓口の一覧です。どちらも医療機関の代わりにはなりませんし、このサイトの記事も、相談や受診の代わりにはなりません。
表に書いた「2週間」などの日数は、相談を考えるきっかけの目安であって、病気かどうかを決める基準ではありません。当てはまらなくてもつらいなら、相談していいものだと考えてください。
つらさが続くときは、一人で抱えないで専門家に相談してください。相談できる場所は相談先の探し方にまとめています。
「まだ動けてるから大丈夫」って言う人ほど、あとで長く休むことになるんですよね。動けているうちに相談したほうが、選べる道が多く残っています。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
- 専門家・公的情報
- 厚生労働省などの公的な機関や、専門家が出している情報をもとにしています。
専門家・公的情報発達障害情報・支援センター
この研究でわかっていること:発達障害の基本的な説明と支援情報の一次情報として使えます。
ここはまだ分かっていません:個別の生活術を保証する情報ではありません。
研究で検討成人ADHDにおける感情の調節のしにくさ:研究をまとめた分析
(原題:Emotion dysregulation in adults with attention deficit hyperactivity disorder: a meta-analysis)
この研究でわかっていること:感情が大きく動きやすいことを、性格ではなく特性の一部として説明できます。
ここはまだ分かっていません:対処法の効果を調べたものではありません。
専門家・公的情報こころの耳(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)
この研究でわかっていること:職場の悩みの相談先として案内できます。
ここはまだ分かっていません:医療機関の代わりではありません。
専門家・公的情報まもろうよ こころ(相談窓口一覧)
この研究でわかっていること:緊急性のあるときの案内先として使えます。
ここはまだ分かっていません:サイトの記事は相談・受診の代わりになりません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。