電話対応が怖い・苦手な人へ|出ない工夫と出るときの型
— 話し方を上げるより、同時にやることを減らします
ポイント
- 電話は聞く・書く・考える・話すを同時にやる作業です
- その場で答えず折り返す形にすると、同時にやることが半分になります
- 受け答えは紙に書いて電話の横に置き、読み上げて構いません
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電話が鳴る。周りの誰も出ない。心臓が跳ねる。
出てみたら、相手の会社名と名前が一度で聞き取れない。用件を聞きながら書こうとして、ペンが止まる。切ったあと、何を頼まれたのか思い出せない。
かけるほうも同じです。番号を押す前に、言うことを頭の中で何度も練習する。相手が出た瞬間に、練習した言葉が全部消える。
電話がつらいのは、聞く・書く・考える・話すを、準備なしで同時にやらされるからです。 うまく話せるようになる前に、同時にやることを減らします。
なぜ電話だけこんなにつらいのか
音だけしかなくて、巻き戻せない
対面なら、相手の口の動きも、表情も、机の上の紙も使えます。電話は音だけです。しかも一度流れた言葉は戻ってきません。
聞き取れなかった一言を頭の中で再生している間に、相手の話は先へ進みます。追いつこうとするほど、その後ろが抜けます。
4つの作業が重なっている
電話中の頭の中では、こういうことが同時に起きています。
- 相手の声を、周りの音から拾い分ける
- 言われた意味を受け取る
- 書き取る
- 次に自分が言うことを考える
頭の力には限りがあるので、どれかが押し出されます。 たいていは、書き取ることか、直前に聞いた内容が消えます。
予告なしに始まる
会議には開始時刻があります。電話にはありません。今やっている作業を途中で止めて、いきなり別のことへ切り替えることになります。切り替えに時間がかかる人ほど、鳴った瞬間に固まります。
周りの音と、周りの目がある
職場は音の多い場所です。ほかの人の話し声、印刷機の音、空調の音。その中から相手の声だけを拾います。音に敏感な人ほど、この作業だけで消耗します。
しかも自分の受け答えは、隣の席の人に聞かれています。間違えるところを見られている、という緊張が上に乗ります。 家で一人のときなら普通に話せるのに職場だと出られない、という人がいるのは、このためです。
自閉スペクトラムのある働く人への聞き取りからは、働きやすさが「物理的な環境」「仕事の手順」「まわりの人」の3つで決まると整理されています。電話は、その3つが同時に苦しくなる場面です。
【いちばん効く1つ】その場で答えず、折り返す
電話で行き詰まる人の多くは、その場で答えまで出そうとして苦しくなっています。
やることは1つです。電話中は「聞いて書く」だけにして、答えるのは切ったあとにします。
「確認いたしまして、30分以内に折り返しご連絡いたします。お電話番号をうかがってもよろしいでしょうか」
この一文を紙に書いて、電話機の横に貼ってください。読み上げて構いません。相手からは紙は見えません。
こうすると、電話中の作業が4つから2つに減ります。考えることと話すことは、切ったあとに落ち着いてやれます。折り返しなら、先に言うことを書いてからかけられます。
折り返しは、切った直後に予定へ入れる
折り返すと言って忘れるのが、いちばん大きい事故です。受話器を置いた直後に、スマホのタイマーを15分でかけてください。
相手の名前と番号は、紙のメモだけにせず、自分あてのチャットやメールに送っておくと消えません。
折り返せない電話もある
その場で答えないといけない仕事もあります。それでも、全部をその場で答える必要はありません。
「分かる部分だけ今答えて、残りは折り返す」でいいのです。
「在庫の数は今お答えできます。納期は確認して、あらためてご連絡いたします」
半分でも後ろに回せば、そのぶん頭に余裕ができます。
電話対応が怖い・苦手な人へ/出る前に用意しておくもの
出る前に用意しておくもの
準備は一度で済みます。かかるのは10分ほどです。
- 受け答えの型を1枚の紙に書く(名乗り・聞き返し・復唱・締めの4つ)
- 書き取る紙を決まった形にしておく(会社/名前/用件/電話番号/いつまで)
- ペンを電話機の横に固定する(探している間に話が進みます)
- 名乗りの一文だけ、声に出して2回練習する
- よくかかってくる電話の答えを3つだけ決めておく
紙を見ながら話すのは、ずるではありません。 案内窓口の人も、たいてい手元に紙を置いています。
出たときの型
取るのは5つだけ、と決めてしまいます。相手の会社、名前、用件をひとこと、電話番号、いつまで。それ以外は聞き流して構いません。
名乗る
「お電話ありがとうございます。◯◯株式会社、△△でございます」
聞き取れないとき
自分の耳のせいにしなくて大丈夫です。次の言い方なら、何度使っても失礼になりません。
「恐れ入ります。お電話が少し遠いようです。もう一度お願いできますでしょうか」
「失礼いたします。お名前をもう一度うかがってもよろしいでしょうか」
「念のため、お名前の字を教えていただけますか」
復唱する
聞いたことをそのまま声に出すと、間違っていれば相手が直してくれます。書く時間も稼げます。
「△△様、◯◯の件で承りました。番号は03-1234-5678でお間違いないでしょうか」
締める
「確認して、本日中に折り返します。ありがとうございました」
この4つを順番に並べた紙が1枚あれば、当面はしのげます。
用件が分からないまま話が進んだら
途中で分からなくなっても、最後まで聞き続ける必要はありません。分からないまま切るほうが、あとで困ります。
「申し訳ありません、私では分かりかねます。担当の者から折り返しご連絡させていただきます」
分からないと言うのは、失敗ではありません。 間違った答えを渡すほうが、相手にも迷惑がかかります。
書き取りが追いつかないとき
書く場所をあらかじめ決めておく
白い紙に書こうとすると、「どこに何を書くか」を考える手間が上乗せされます。枠を印刷して束ねておいてください。 埋めるだけになります。
数字は復唱しながら書く
電話番号や日付は、声に出しながら書くと抜けにくくなります。相手も、復唱している間は待ってくれます。
記号を先に決めておく
急ぎは「!」、折り返しは「←」、自分の担当は「◯」。毎回同じ記号にすると、あとで自分が読めます。 書き方の工夫はメモを取っても後で読めない人へにまとめました。
録音してよいか確認しておく
職場によっては、通話の録音が認められています。勝手に始めず、先に上司か総務に聞いてください。 認められたなら、聞き取りの負担はかなり下がります。
切った直後の3分で清書する
電話中に書いた文字は、たいてい自分でも読めません。受話器を置いてすぐ、覚えているうちに書き直してください。
このとき、席は立たないでください。飲み物を取りに行った10秒で、半分消えます。清書する先は、あとから探せる場所にします。紙に残したままだと、机の上で行方不明になります。
電話対応が怖い・苦手な人へ/自分からかけるとき
自分からかけるとき
かける前に3行だけ書く
- 名乗りと用件(ひとことで)
- 聞きたいこと(多くても3つ)
- この電話で決めたいこと
「◯◯の件でご相談があり、お電話しました。3分ほどよろしいでしょうか」
用件を先に言うと、相手も答えやすくなります。 事情の説明は、そのあとで足せば足ります。
かける時間帯を決めておく
始業直後、昼どき、終業間際は避けます。「10時から11時の間にかける」と決めておくと、先延ばしのまま夕方になることが減ります。
出なかったときの言葉も用意する
留守番電話につながった瞬間に固まる人は多いです。あらかじめ用意しておけば、慌てません。
「◯◯株式会社の△△です。□□の件でお電話しました。またあらためてご連絡いたします」
これだけで十分です。
立って話してみる
声が出しやすくなる人がいます。合う合わないはありますが、お金も準備もいらないので、一度試す価値はあります。
電話そのものを減らす
工夫でしのぎ続けるより、量を減らすほうが確実です。
文字のやりとりに寄せる
「行き違いを防ぎたいので、日程と数字はメールでいただけると助かります」
このお願いは、相手にとっても記録が残るという利点があります。押しつけになりません。
一次受けを外してもらう
電話番を当番制にする、代表電話は別の人が受ける、といった調整です。「苦手だから」ではなく、仕事の成果の話にすると通りやすくなります。
「電話を受けながら書き取ると、内容が抜けることがあります。一次受けを外していただけると、その分を◯◯の作業に回せます」
働きやすくするための調整は、診断名ではなく、本人の困りごとと仕事の中身に合わせて決めるのが原則だとされています。診断がなくても相談はできます。頼み方は職場に「これがつらい」と言えない人へにまとめました。
私用の電話は、出なくていい
知らない番号は、出ないという選択でいいです。本当に用のある相手は、留守番電話かメッセージを残します。 折り返す前に番号を検索すれば、勧誘かどうかも分かります。
受けられる時間を先に伝えておく
外の相手なら、こちらから時間を指定できることがあります。
「午後は席を外していることが多いので、午前中にいただけると確実です」
電話が来る時刻が読めるだけで、身構えずに済みます。 社内なら、集中したい時間だけ転送を止められないか相談してみてください。
場面別
代表電話に出るのが怖い
名乗りだけを完璧にして、あとは全部、取り次ぎに回します。
「担当の者におつなぎいたします。少々お待ちください」
担当が不在なら、名前と番号を聞いて切ります。用件の中身まで聞き取る必要はありません。
病院や役所に予約の電話をするとき
聞かれることは、だいたい決まっています。氏名、生年月日、保険証の記号番号、症状や用件、希望の日。紙に並べてからかけてください。
ネット予約や窓口予約があるなら、そちらを先に探します。電話しか手段がないと思い込んでいるだけ、ということがよくあります。
苦情の電話に当たってしまった
その場で解決しようとしないでください。不便をかけたことへのお詫びは先に言えますが、「対応します」という約束は、その場でしないのが安全です。
「ご不便をおかけしております。確認いたしまして、折り返しご連絡いたします」
そのうえで、必ず上司に共有します。一人で抱えるほど、あとで大きくなります。
電話のあと、何も手につかない
これは珍しいことではありません。電話のあとに3分の区切りを入れてください。 席を立つ、水を飲む、外の空気を吸う。次の作業に移る合図になります。
うまく言えなかった場面を、そのあと何時間も頭の中で再生してしまう人もいます。そのときは、次にどう言うかを1行だけ紙に書いて、そこで終わりにしてください。 反省を続けても、次の電話がうまくなるわけではありません。用意した言葉が1つ増えることのほうが、はるかに効きます。
関連する困りごと
- 話を聞きながら書けない → 会議の内容が頭に入らない人へ
- メモがあとで読めない → メモを取っても後で読めない人へ
- 職場に頼みごとがしづらい → 職場に「これがつらい」と言えない人へ
- いつ声をかければいいか分からない → 報告のタイミングが分からない人へ
まず今日、これだけやってみる
- 「確認して折り返します」の一文を紙に書いて、電話機の横に置く
- 会社・名前・用件・番号・期限の枠を作って、5枚印刷する
- 折り返すと言ったら、受話器を置いた直後にタイマーを15分かける
この記事について
自閉スペクトラムのある働く人への聞き取りをもとにした研究では、職場の使いやすさが「物理的な環境」「仕事の手順」「まわりの人」の3つに整理されています。ただし聞き取りをもとにした研究なので、どの調整がどれだけ効くのかまでは分かりません。
働きやすくするための調整を、診断名ではなく本人の困りごとと仕事の中身に合わせて決める、という原則は国内の論文で示されています。こちらも、個別の調整メニューを比べた研究ではありません。「一次受けを外す」が誰にでも合うとは言えませんし、職場によって実現しやすさも変わります。
音については、ホワイトノイズ(ザーという一定の雑音)が作業の出来を助けるかを、たくさんの研究をまとめて分析したものがあります。調べられたのは主に子どもと若者です。大人や音楽の効果までは分かっていません。静かな場所へ移動する工夫も、この記事に並べた受け答えの例文も、研究で確かめられたものではありません。実務でよく使われている形です。
電話に出ようとすると動悸や吐き気が出る、電話が原因で仕事が続けられない、という状態が続くときは、無理に慣らそうとしないでください。困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
電話が鳴っただけで心臓が跳ねる、ってありますよね。あれは気が小さいからじゃなくて、準備ゼロで4つのことを同時にやらされているからなんです。同時にやることを減らせば、ずいぶん楽になります。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討ホワイトノイズやピンクノイズは、ADHDや注意の困りごとがある子ども・若者の課題成績を助けるか:たくさんの研究をまとめた分析と研究をまとめた分析
(原題:Systematic Review and Meta-Analysis: Do White Noise or Pink Noise Help With Task Performance in Youth With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder or With Elevated Attention Problems?)
この研究でわかっていること:ノイズを流す方法は、試してみる価値があります。
ここはまだ分かっていません:調べたのは主に子どもと若者。大人やブラウンノイズ、音楽については分かりません。
研究で検討「車いすの人にとってのスロープのようなもの」:自閉スペクトラム症のある従業員にとっての職場の使いやすさ
(原題:"It’s like a ramp for a person in a wheelchair": Workplace accessibility for employees with autism)
この研究でわかっていること:物理環境・手順・人の3つが働きやすさを左右すると整理できます。
ここはまだ分かっていません:聞き取りをもとにした研究であり、配慮の効果量を示すものではありません。
研究で検討合理的配慮(働きやすくするための調整)に基づく就労支援
この研究でわかっていること:配慮は診断名でなく本人の困りごとと職務に合わせて決める、という原則を示せます。
ここはまだ分かっていません:個別の配慮メニューの効果を比較した研究ではありません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。