「あとでやる」がいつまでもできない人へ|合図で動く方法
— この記事に出てくる工夫の、共通の土台
ポイント
- 「もし◯◯したら、△△する」と場面と行動をセットで決めておく方法
- 発達障害に限らない人を対象にした研究をまとめた分析で、目標達成への効果が報告されている
- ただしADHD・ASDを対象にした研究ではない。過信せず、合わなければ捨てる
目次を開く(15項目)
当サイトの記事には、同じ形の指示がよく出てきます。
「玄関のドアを閉めたら、鍵をフックに掛ける」 「歯をみがき終わったら、明日の服を出す」 「アラームが鳴ったら、靴を履く」
これは研究の世界で「実行意図」と呼ばれている考え方です。むずかしい名前ですが、中身は「きっかけと行動をセットで先に決めておく」だけです。
何が確かめられているか
このやり方を含む目標達成の方法について、たくさんの研究をまとめた分析があり、目標を達成しやすくなると報告されています。
これは発達障害に限らない人を対象にした研究です。ADHD・ASDのある人を対象にしたものではありません。 ここは正直に押さえておく必要があります。
ただし、この方法が発達特性のある人に理屈のうえで合いそうな理由はあります。
- その場で判断しなくて済む。 何をするかを決めるのは、過去の自分。いまの自分は実行するだけ
- 思い出す必要が減る。 合図が外から来るので、あとで行うことを覚えておく力に頼らずに済む。この力に成人ADHDで困難が出やすいことは実験で示されています
- 意欲に依存しない。 やる気がある日もない日も、合図は同じように来る
理屈のうえで、発達特性のある人に合いそうな理由が3つあります。
1. その場で判断しなくて済む
何をするかを決めるのは、過去の自分。いまの自分は実行するだけです。
2. 思い出す必要が減る
合図が外から来るので、あとで行うことを覚えておく力に頼らずに済みます。この力に、成人ADHDで困りごとが出やすいことは実験で示されています。
3. 意欲に依存しない
やる気がある日もない日も、合図は同じように来ます。
習慣になるまで
習慣は同じ合図と行動をくり返すことで育つことが、日常場面を調べた研究で示されています。ただし同じ研究は、定着までの期間に非常に大きな個人差があることも報告しています。
「21日で習慣化する」といった数字をよく見かけますが、この研究の結論ではありません。 人によっては数週間、人によっては数か月かかります。
そして、途切れても終わりではありません。 1日抜けたからといって、それまでの積み重ねが消えるわけではないことも、同じ研究が示しています。
合わなければ捨てていい
この方法が誰にでも効くわけではありません。合図を決めても動けない、決めること自体が負担、という人もいます。
その場合は、外から人が声をかける方向のほうが効くかもしれません。国内には、ADHDのある成人へのコーチングで生活面の改善を報告した小規模研究があります。ボディダブリングもあわせてご覧ください。
どういう方法か
やることを「意欲」ではなく「場面」に紐づけます。
| ふつうの決め方 | この形にすると |
|---|---|
| 運動しよう | 朝、コーヒーを淹れたら、5分ストレッチする |
| 部屋を片づけよう | 洗濯機を回したら、床のものを拾う |
| 早く寝よう | 22時のアラームが鳴ったら、歯をみがきに行く |
| メールを返そう | 昼食から戻って席についたら、未読を1件開く |
| 薬を飲もう | 歯をみがいたら飲む |
| 明日の準備をしよう | 風呂から出たら、カバンを玄関に置く |
形は「◯◯したら、△△する」です。
「◯◯したら」には、必ず起きることを置きます。 時刻でもいいですが、すでに毎日やっている動作のほうが確実です。
「あとでやる」がいつまでもできない人へ/うまくいかないときのチェック
うまくいかないときのチェック
このやり方でも動けないときは、次のどれかであることが多いです。
きっかけがあいまい
「時間があったら」「余裕があるとき」「気が向いたら」。これらはきっかけになりません。 いつ起きたか分からないからです。
「風呂から出たら」「電車が最寄り駅に着いたら」のように、判定できることを置いてください。
やることが大きすぎる
「帰宅したら部屋を片づける」の「片づける」は大きすぎます。「床のものを1つ拾う」まで小さくします。
くわしくは最初の一歩がどうしても踏み出せない人へへ。
きっかけが毎日起きない
「会議が終わったら」は、会議のない日には発動しません。毎日やりたいことなら、毎日必ず起きる動作に紐づけてください。
数を増やしすぎた
一度に5個も6個も設定すると、どれも定着しません。1つずつ。 定着してから次を足します。
そもそも思い出せない
合図となる動作をやっているときに、次の行動を思い出せないなら、その場に物を置いてください。
「歯をみがいたら薬を飲む」なら、薬を歯ブラシの横に置く。目に入れば思い出せます。
そもそも紙を見ていない
貼る場所を変えてください。通り道にないと見ません。
やる気が出ない
この方法は、やる気を出す方法ではありません。 「思い出す」ための方法です。
やる気が出ないなら、やることを小さくしてください。 「30分やる」ではなく「1行だけ書く」に。
くわしくはやることが大きすぎて手がつかない人へへ。
場面が来なかった
「雨が降ったら」のような、来ないかもしれない場面を選ぶと失敗します。
毎日必ず起きることを選んでください。
続かない
3日で忘れるのが普通です。週に1回、書き直す日を決めてください。日曜の夜がおすすめです。
忘れてしまいます
その場に物を置いてください。 「歯をみがいたら薬を飲む」なら、薬を歯ブラシの横に。
目に入れば、思い出せます。
3日で続かなくなります
普通のことです。週に1回、書き直す日を決めてください。日曜の夜がおすすめです。
書き直すたびに、続かなかった理由も見直せます。
大きなことには効きませんでした
この方法は、「忘れる」には効きますが、「できない」「重い」には効きません。
重い作業ならやることが大きすぎて手がつかない人へ、始められないなら最初の一歩がどうしても踏み出せない人へをご覧ください。
きっかけを思い出せない
その場に物を置いてください。 「歯をみがいたら薬を飲む」なら、薬を歯ブラシの横に。目に入れば思い出せます。
きっかけに使いやすい動作
「毎日必ずやること」を並べておきます。この中から選ぶと決めやすいです。
| 時間帯 | 使える動作 |
|---|---|
| 朝 | 目が覚める/トイレに行く/顔を洗う/コーヒーを淹れる/着替える |
| 出かけるとき | 玄関のドアを閉める/靴を履く/駅の改札を通る |
| 職場 | 席につく/パソコンを開く/昼食から戻る |
| 帰宅時 | 玄関のドアを閉める/カバンを置く |
| 夜 | 風呂から出る/歯をみがく/布団に入る |
すでに100%やっていることを選んでください。 「やろうと思っていること」は使えません。
使い分けの目安
| こういうこと | このやり方が向く |
|---|---|
| 毎日やりたい小さなこと(薬、片づけ、準備) | ◎ 向いています |
| 週に1回のこと(ゴミ出し、書類) | ○ ただし合図が毎週起きるものに限る |
| 大きい仕事(企画書、勉強) | △ 「始める」ところだけに使う |
| 気が向いたときにやりたいこと | ✗ 向きません |
「始める」ところに使うのがいちばん効きます。 続けるところは別の工夫が要ります。
書き方のコツ
「いつ」は時刻より場面がいい
「15時に」より、「昼ごはんを食べ終わったら」のほうが効きます。
時刻は見ていないと過ぎますが、場面は必ず来ます。
使いやすい場面:
- 朝、歯をみがいたら
- 会社に着いてパソコンを開いたら
- 昼ごはんのあと
- 家に帰って靴を脱いだら
- お風呂から出たら
「何を」は動作にする
「片づける」ではなく、「机の上の紙を1か所に集める」。
体がどう動くか分かる言葉にしてください。ふわっとした言葉だと、動けません。
1つずつ
一度に3つも4つも決めると、全部忘れます。1週間に1つでいいです。
「あとでやる」がいつまでもできない人へ/見えるところに置く
見えるところに置く
書いただけでは足りません。目に入る場所に置いてください。
- 玄関のドア
- パソコンのモニターの縁
- スマホの待ち受け画面
- 冷蔵庫
「その場面が起きる場所」に貼るのがいちばん効きます。朝の行動なら洗面所、帰宅後の行動なら玄関です。
応用:やめたいことにも使える
「〜したら〜する」は、やめたいことにも使えます。
「スマホを手に取ったら、まず時計を見る」 「お菓子を食べたくなったら、まず水を飲む」
やめる代わりに、別の行動を入れるという形にすると、うまくいきやすいです。
「〜しない」だけだと、何をすればいいか分からないので続きません。
場面別の使い方
薬を飲み忘れる
「朝ごはんを食べ終わったら、薬を飲む」
薬を食卓に置いておくと、さらに確実です。薬を飲み忘れる人へへ。
書類を出し忘れる
「靴を履いたら、カバンの上の書類を確認する」
運動が続かない
「歯をみがいたら、スクワットを5回する」
回数を小さくするのがコツです。5回なら続きます。
部屋が散らかる
「寝る前に、机の上のものを箱に入れる」
効きやすいこと・効きにくいこと
万能ではありません。 向き不向きがあります。
効きやすい
- 忘れがちな行動(薬、提出、持ち物)
- 小さくて短い行動(1〜5分で終わるもの)
- 毎日同じ場面で起きること
効きにくい
- 気が重い大きな作業
- やり方が分からないこと
- そもそも時間が足りないこと
「忘れる」には効きますが、「できない」「重い」には効きません。
重い作業なら、やることが大きすぎて手がつかない人へを、始められないなら最初の一歩がどうしても踏み出せない人へをご覧ください。
関連する困りごと
- 薬を飲み忘れる → 薬を飲み忘れる人へ
- 朝の準備が進まない → 朝バタバタして何も進まない人へ
- 忘れ物が多い → 玄関で毎回何か忘れる人へ
- 掃除が続かない → 掃除がまったく続かない人へ
まとめ:定着させる5つ
- 「◯◯したら、△△する」の形で書く
- きっかけは、毎日必ず起きることにする
- やることは、2分以内でできる大きさにする
- 1つずつ。定着してから次を足す
- その場に物を置いて、目に入るようにする
やる気ではなく、思い出すための方法です。
この記事について
「もし〜なら〜する」と先に決めておくやり方には、目標を達成しやすくするという報告があります(たくさんの研究をまとめた分析)。
習慣は同じ合図と行動のくり返しで育ち、身につくまでの期間に大きな個人差があること、途切れても再開できることも研究で示されています。「21日で習慣化」という話をよく聞きますが、それはこの研究の結論ではありません。
ADHDのある大人は「あとでやることを覚えておく力」に困りごとが出やすいことも実験で確かめられています。
ただし、この「先に決めておく」やり方と習慣づくりの研究は、発達障害のある人を対象にしたものではありません。 この方法が同じように効くかどうかは、確かめられていません。
当サイトがこの形を多用しているのは、理屈のうえで合いそうで、費用も害もないためです。効果を保証するものではありません。 合わなければ、別のやり方を試してください。
「今度やろう」と「玄関を出たらやろう」は、まったく違います。後者には、動き出す合図があります。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討「もし〜なら〜する」と先に決めておく方法が目標達成に与える効果の研究をまとめた分析
(原題:A Meta-Analysis of the Effects of Mental Contrasting With Implementation Intentions on Goal Attainment)
この研究でわかっていること:行動を「場面」と結びつけて決めておく方法に一定の効果があると言えます。
ここはまだ分かっていません:ADHD・ASDだけを対象にした研究ではありません。一般の人向けの知見を当てはめています。
研究で検討習慣はどうやってできるのか:日常生活での習慣づくりを追った研究
(原題:How are habits formed: Modelling habit formation in the real world)
この研究でわかっていること:同じ合図と同じ行動の反復が習慣化を支えること、定着に個人差が大きいことを示せます。
ここはまだ分かっていません:ADHD・ASDを対象にした研究ではありません。「21日で習慣化」も本研究の結論ではありません。
研究で検討成人ADHDにおける「あとでやることを覚えておく力」の困難
(原題:Complex Prospective Memory in Adults with Attention Deficit Hyperactivity Disorder)
この研究でわかっていること:予定や約束を忘れるのは記憶の使い方の問題で、意欲の問題ではないと説明できます。
ここはまだ分かっていません:リマインダーなど外部化の道具そのものの効果はまだ調べられていません。
研究で検討大人の注意欠如多動症の認知行動療法(考え方と行動を整える心理的な治療)
この研究でわかっていること:整理・計画・先延ばしを「性格」ではなく介入対象として扱う枠組みを示せます。
ここはまだ分かっていません:レビューであり、個々の生活術の効果量を示すものではありません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。