マニュアルがない仕事で固まる人へ|自分用手順書を作る
— 「見て覚えて」で覚えられないのは、あなたのせいではありません
ポイント
- 手順が言葉になっていない職場では、覚えられないほうが自然です
- 自分だけが読めればいい手順書を1本作ると、聞き直す回数が減ります
- 教わるときは「見る回」「書く回」「やる回」を最初から分けておきます
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新しい仕事を任される。「まずは見て覚えて」と言われる。となりで見ていたけれど、手が速すぎて、何をどう選んでいるのか分からない。
翌日、同じ作業を一人でやることになる。最初の3秒で止まる。ファイルはどこだったか。どの順番だったか。
聞きに行くと「前に説明したよね」と言われる。もう一度聞くのが怖くなって、記憶のかけらでなんとかやってみる。当然どこかが違っていて、あとで指摘される。
先に結論を書きます。 マニュアルのない仕事でつまずくのは、覚えが悪いからではありません。その職場で、手順が言葉になっていないだけです。だから、自分用の手順書を自分で作るのがいちばん早い。しかもそれは、あとであなたの仕事の成果にもなります。
なぜ「見て覚えて」で覚えられないのか
1. 口で言われたことは、その場で消える
音は残りません。しかも、相手が手を動かしながら説明すると、こちらは聞くことと見ることを同時にやることになります。どちらも半分になります。
2. 手順の「あいだ」が抜け落ちる
教える側は慣れているので、自分がやっている工程の一部を飛ばして話します。どこを見て判断しているか、なぜその順番なのか。本人が意識していない部分ほど、説明から抜けます。 抜けた部分は、見ているだけでは埋まりません。
3. 人によってやり方が違う
Aさんに聞いた手順とBさんの手順が違う。どちらも間違ってはいない。この状態だと正解が1つに決まらないので、何度やっても不安が残ります。
4. 全体の中のどこなのか分からない
「この作業が何のためにあるのか」が分からないと、想定外が来たときに判断できません。手順を覚えていても、順番どおりに進まなかった瞬間に止まります。
自閉スペクトラムのある人の働きやすさを聞き取った研究では、物理的な環境と、手順と、人の3つが働きやすさを左右すると整理されています。手順が言葉になっていない職場は、それだけで働きにくい場所です。あなたの記憶力の話ではありません。
【いちばん効く1つ】自分用の手順書を1本作る
立派なマニュアルを作る必要はありません。自分だけが読めればいいものを1本作ります。
置き場所は先に1つに決めてください。ノートでも、スマホのメモでも、パソコンの1ファイルでも構いません。バラバラにすると探せなくなるので、置き場所は1つです。
書き方は、この形をうめるだけで足ります。
【作業名】
・何のためにやるか:
・使うもの(場所・ファイル・道具):
・手順
1.
2.
3.
・迷いやすいところ:
・終わったら誰に何を伝えるか:
・分からないときに聞く人:
実際に書くと、こうなります。
【請求書の送付】
・何のためにやるか:月末までに取引先へ請求を届ける
・使うもの:共有フォルダ「請求」→当月フォルダ、社判のデータ
・手順
1. 前月のファイルをコピーして、日付と金額を書き換える
2. 金額を、営業のBさんの一覧と突き合わせる
3. PDFにして、社判のデータを貼る
4. 先方の担当者あてにメールで送る(文面のひな形は下書きに保存)
・迷いやすいところ:金額が一覧と合わないときは、送らずBさんに確認
・終わったら:経理のCさんに「送付済み」とチャットで一言
・分からないときに聞く人:Bさん(金額)/Cさん(送り先)
「迷いやすいところ」が書いてあるかどうかで、使えるかどうかが決まります。 手順を並べるだけなら誰にでもできますが、実際に詰まるのは、いつも判断が要る場所です。
押さえるのは3つだけです。
- 動作で書く。 「確認する」ではなく「◯◯の画面を開いて、前日の数字と合っているか見る」。読んだ瞬間に体が動く言葉にします
- 迷った場所を必ず残す。 今日あなたが迷ったところは、来月のあなたもまた迷います
- 1回で完成させない。 3回目まで書き足す前提でいてください。最初から完璧に書こうとすると、書きはじめられません
マニュアルがない仕事で固まる人へ/教わるときの受け方
教わるときの受け方
「見る回」「書く回」「やる回」に分ける
1回目からメモを取ろうとすると、手が追いつかず、見るべきところを見逃します。
- 1回目は見るだけ。 終わった直後に、覚えているうちに箇条書きにする
- 2回目は書きながら見る。 抜けているところを埋める
- 3回目は、見てもらいながら自分でやる
この3段階を最初に伝えておくと、「何回まで聞いていいのか」の不安が消えます。 「3回目まではお願いしたいです」と先に言っておくと、教える側も予定を立てやすくなります。
記録の許可は、はじめに取る
写真、録音、画面の記録。あとから頼むより、最初のほうが通ります。
「あとで自分用の手順メモを作りたいので、画面の写真を撮ってもいいですか」
自分の勉強のため、と伝われば断られることはあまりありません。ただし個人情報や社外に出せない内容が写る場合は、必ず先に確認してください。
その場で言い直す
教わった直後に、自分の言葉で組み立て直して言います。
「確認させてください。①ファイルを開いて、②前日ぶんと数字を突き合わせて、③合っていたら◯◯さんに送る。これで合っていますか」
ここでずれが見つかれば、あとで直すよりずっと安くすみます。言い直せなかった部分が、聞けていなかった部分です。そこだけもう一度聞きます。
教えてくれる人がいないとき
前任者がもういない、聞ける相手も詳しくない。そういう仕事も回ってきます。このときは、人ではなく残っているものから入ります。
- 去年の同じ時期のファイルを探す(フォルダを日付順に並べるのが近道です)
- 送信済みのメールを、案件名で検索する
- 前任者が使っていたひな形や下書きを開く
- 取引先や別の部署に「前回はどう進めましたか」と聞く
過去のやり方を一度なぞってみて、詰まった場所だけを質問にします。 ゼロから教えてくださいと頼むより、はるかに答えてもらいやすくなります。
聞き直すときの型
質問はためて、1日1回にする
思いつくたびに席へ行くと、相手の時間を細かく削ることになります。手元に質問をためておいて、決まった時間にまとめて持っていく。それだけで、聞くときの気まずさがかなり減ります。
自分の案を持っていく
「どうすればいいですか」と聞くと、相手は一から説明することになります。「◯◯でいいですか」と自分の案を出すと、相手は「それでいい」か「そこだけ違う」で答えられます。答える側の負担が小さいほど、次も聞きやすくなります。
口で聞きづらいなら、文字にする
忙しそう、機嫌が読みにくい、聞くと空気が変わる。そういう相手には、チャットやメールを使ってください。相手は都合のいいときに返せますし、返事がそのまま手順書の材料として残ります。
聞く相手をあらかじめ割り振る
「この作業はAさん、経費のことはBさん」と決めておくと、聞くたびに「誰に聞けばいいのか」で止まらずにすみます。
聞く前に、自分の記録を30秒だけ見る
同じことを何度も聞いてしまうのは、手順書を開く前に人へ向かっているからです。「聞く前に自分のメモを30秒だけ見る」と決めておくと、聞く回数は自然に減ります。それで見つからなければ、手順書のその項目が足りていないということなので、聞いたあとに必ず書き足してください。
マニュアルがない仕事で固まる人へ/人によってやり方が違うとき
人によってやり方が違うとき
これは、あなたの理解の問題ではありません。職場側で決まっていないだけです。
- 両方書き出します。 手順書に「Aさん式/Bさん式」と並べて書く
- 違いが結果に響くかを見ます。 順番が違うだけで同じ結果になるなら、どちらでも大丈夫です
- 響くなら、決められる人に一度だけ聞きます
「◯◯の手順ですが、AさんとBさんで進め方が少し違っていました。どちらに合わせるのがいいでしょうか」
責める形にしないのがコツです。 「どちらが正しいですか」ではなく「どちらに合わせますか」と聞くと、角が立ちません。
作った手順書を、資産にする
自分のために作ったものは、そのまま職場の役に立ちます。
共有していいか、先に確認する
黙って配ると角が立つことがあります。上司に一言だけ。
「自分用に手順のメモを作ったのですが、新しく入る人にも使えそうなら共有しましょうか」
直すルールを1つだけ決める
やり方が変わったら、その日のうちに1行だけ直します。 あとでまとめて直そうとすると、二度と直りません。
「手順を言葉にできる人」は少ない
頭の中でできてしまう人は、それを説明できるとはかぎりません。覚えるのが苦手だから作ったものが、引き継ぎのときに驚かれることがあります。無理に狙う必要はありませんが、そういうことは起こります。
よくある質問
教えてくれる人が、いつも忙しそうです
細切れに5回聞くより、まとまった15分をもらうほうが、相手の負担も小さくなります。「15分だけ、今週のどこかでお願いできますか」と、短さと期間をセットで伝えてください。時間を先に取るほど、こちらも聞き漏らしを気にせずすみます。
手順書を作る時間がありません
最初から全部を書こうとしているのかもしれません。1回に書くのは、その日にやった作業1つぶんだけ。 5分で終わります。3週間も続ければ、よく使うものはだいたい揃います。
メモを取っていると「遅い」と言われます
「あとで聞き直さないように書いています」と一言添えてください。それでも急かされるなら、その場は見ることに集中して、離れた直後に書きます。 席に戻るまでの1分が勝負です。
手順書どおりにやっても、うまくいきません
手順が細かすぎるか、判断が要る場所が書けていないかのどちらかです。詰まった場所に印をつけて、次に教わるときにそこだけ聞いてください。全部を聞き直す必要はありません。
引き継ぎがないまま任されました
分からないことを一覧にして、上司に見せてください。「できません」ではなく、「この5つが分からないので、誰に聞けばいいか教えてください」の形にします。分からない点が具体的に並んでいると、放置されにくくなります。期限のある仕事なら、期限も一緒に伝えてください。
覚えられないのは、能力が低いからでしょうか
一度で覚える人が目立つだけです。長い目で見れば、書いて残す人のほうが強いです。 覚えた人はいずれ忘れますが、書いたものは残ります。あなたが作った手順書は、半年後のあなたと、次に入ってくる人の両方を助けます。
働きやすくするための調整として、お願いしてもいいですか
「口で言われた指示を、文字でももらう」「手順をまとめる時間を仕事として認めてもらう」。どちらも、実際に相談されることのある内容です。国内の就労支援の研究でも、こうした調整は診断名ではなく、本人の困りごとと仕事の中身に合わせて決めるものと整理されています。頼み方は職場に「これがつらい」と言えない人へにまとめました。
関連する困りごと
- 指示そのものがあいまいで動けない → 「適当にやっといて」で固まってしまう人へ
- 書いたメモがあとで使えない → メモを取っても後で読めない人へ
- 手順が大きすぎて始められない → 大きい仕事を前に固まってしまう人へ
- 職場に相談したいとき → 職場に「これがつらい」と言えない人へ
まず今日、これだけやってみる
- 手順書の置き場所を1つ決める(ノートかメモアプリ、どちらか一方)
- 今日やった作業を1つだけ、5行で書く(動作の言葉で)
- 次に教わるときに「あとで自分用にまとめたい」と先に伝える
この記事について
自閉スペクトラムのある就労者への聞き取りをもとにした研究では、物理的な環境・手順・人の3つが職場での働きやすさを左右すると整理されています。ただしこれは聞き取りをもとにした研究で、それぞれの調整がどのくらい効くのかを測ったものではありません。
また、国内の就労支援を扱った論文では、働きやすくするための調整は診断名ではなく、本人の困りごとと仕事の中身に合わせて決めるという原則が示されています。こちらも、個別の調整メニューの効果を比べた研究ではありません。
そのうえで、この記事に書いた手順書の作り方や聞き方そのものを調べた研究は見つかっていません。仕組みとして筋が通るものを組み立てたものとして読んでください。合わないやり方は飛ばして構いません。
覚えられないことが続いてつらい、聞くこと自体が怖くなっている——そんなときは、一人で抱えないでください。困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
「見て覚えて」って、教える側からすると親切のつもりなんですよね。でも、頭の中にしかない手順を見ただけで写し取れる人って、そんなに多くないんです。だったら、こちらで言葉にしてしまえばいい。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討合理的配慮(働きやすくするための調整)に基づく就労支援
この研究でわかっていること:配慮は診断名でなく本人の困りごとと職務に合わせて決める、という原則を示せます。
ここはまだ分かっていません:個別の配慮メニューの効果を比較した研究ではありません。
研究で検討「車いすの人にとってのスロープのようなもの」:自閉スペクトラム症のある従業員にとっての職場の使いやすさ
(原題:"It’s like a ramp for a person in a wheelchair": Workplace accessibility for employees with autism)
この研究でわかっていること:物理環境・手順・人の3つが働きやすさを左右すると整理できます。
ここはまだ分かっていません:聞き取りをもとにした研究であり、配慮の効果量を示すものではありません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。