残高や明細を見るのが怖い人へ|最初の1回の開き方
— 見ないでいる時間のほうが、お金を減らします
ポイント
- 開けないのは金銭感覚の問題ではなく、不安を避ける動きが働いているからです
- 最初の1回は数えなくて大丈夫です。画面を開いて閉じるだけで足ります
- 見る日を先に決めておくと、それ以外の日は安心して見ないでいられます
目次を開く(11項目)
銀行のアプリを開こうとして、指が止まる。カードの利用明細の通知は来ているけれど、押さずに消している。通帳は引き出しの奥にあって、最後に記帳した日を思い出せない。
いくらあるのか分からない。いくら使ったのかも分からない。分からないまま買い物をして、レジで残高不足になるのが怖くて、少額でも現金で払うようになった。
自分でも変だと思う。見ればいいだけなのに、その一手だけがどうしても動かない。
これは、お金にだらしないから起きているのではありません。怖いものを見ないでいると、その瞬間だけ気持ちが軽くなるからです。軽くなった経験は体に残ります。次はもっと開きにくくなります。
結論を先に書きます。最初の1回は、数えなくて構いません。 画面を開いて、そのまま閉じる。それだけで十分です。
なぜ見られなくなるのか
順番にほどいていきます。
見ない日が続くと、頭の中にある金額は実際の数字ではなく、想像でふくらんだ数字になります。想像の金額は、たいてい現実より悪い側に寄ります。すると、もっと見たくなくなります。
さらに、見ないでいる間にも引き落としは進みます。残高が足りずに止まる、延滞の連絡が来る、といったことが起きると、次に開くのはもっと怖くなります。避けるほど、開いたときに出てくるものが増えるという形です。
ここでひとつだけ研究の話をします。大人のADHDでは、感情が大きく動きやすいことが、研究をまとめた分析で示されています。同じ数字を見ても、受けるダメージの大きさは人によってちがいます。落ち込みが強く出るなら、避けたくなるのは自然な反応です。
もうひとつ、ADHDの特性がある人には「あとの大きい得」より「いまの小さい得」を選びやすい傾向が報告されています。「いま見ないで楽になる」は、まさにその形です。
性格の弱さではありません。 だから、勇気を出す方向ではなく、開く動作を軽くする方向で組み立てます。
怖さを3つに分けてみる
「見るのが怖い」とひとまとめにすると、手の出しようがありません。中身は3つくらいに分かれています。
- 額が分からない怖さ。実際の数字より、想像のほうが大きく育っている状態です
- 責められる怖さ。以前に誰かから言われた言葉が、数字に重なって見えています
- 何かが進んでいる怖さ。延滞や督促のように、具体的な事態が動いている状態です
上の2つは、開いてしまえば小さくなることが多いです。3つ目だけは、開かないほうが本当に大きくなります。 自分がどれに近いかを一度考えてみてください。どれであっても、次にやることは同じです。
【いちばん効く1つ】最初の1回は「開くだけ」にする
怖いのは金額そのものではなく、開くという動作であることがよくあります。そこで、金額を読む工程を最初から外します。
- 時間を決める。そのあと予定がない時間帯を選ぶ(深夜は避けてください)
- アプリか明細のページを開く
- 数字は読まなくていい。 画面が出たら、そのまま閉じる
- 「開けた」とだけメモに残す
- 翌日、もう一度同じことをする
3日ほど続けると、閉じる前に数字が目に入るようになります。目に入ったら、それでこの段階は終わりです。計算も反省もしません。
それでも指が止まるとき
- 開く前に「読まない、閉じるだけ」と声に出す
- 10秒でタイマーを鳴らして、鳴ったら閉じると決める
- 誰かに同じ部屋にいてもらう。中身は見せなくていい
- 画面の明るさを下げてから開く
一度でも開けたら、その日は成功です。ハードルはここまで下げて構いません。
残高や明細を見るのが怖い人へ/開く前の準備を整える
開く前に、崩れにくい状態を作る
同じ数字でも、どんな状態で見るかで受け方が変わります。準備のほうを整えます。
- 寝る直前に見ない。 夜は不安が大きく感じられやすく、そのまま眠れなくなります
- 見たあとの予定を1つ用意しておく。 風呂、散歩、決まった動画。数分でいいので次の行動を置きます
- 温かい飲み物を先に用意する。 手に持つものがあると、画面から離れやすくなります
- 見る場所を変える。 寝室ではなく、机や外の席のほうが落ち着く人もいます
- その日は対処をしないと決める。見る日と、手を打つ日を分けます
最後の一つが効きます。「見たら、その場で全部どうにかしなければ」と思っているうちは、開けません。見ることと、片づけることを、別の日にしてください。
見る日を決めて、ほかの日は見ないでいい
回数を増やせばいいというものではありません。不安が強いときは、一日に何度も残高を確かめて、そのたびに消耗することも起こります。
- 月に2回、日付で決める(たとえば15日と月末)
- カレンダーに繰り返しの予定として入れる
- 見る時間は5分。先にアラームをかけて、鳴ったら終わりにする
- それ以外の日は、通知を切って見ない
「見ない日」を自分に許可しておくのが大事なところです。見る日が決まっていれば、それ以外の日に頭から追い出しても、放置にはなりません。
見る量も決めておく
明細は行が多く、全部を追うと疲れます。最初から範囲を狭めてください。
- 残高の数字だけ見る。内訳は開かない
- 直近1か月ぶんだけ見る。それより前はさかのぼらない
- 金額の大きいものだけ見る(1万円以上、など)
全部を把握しなくても、困りごとの多くは見つかります。
一か月かけて、段階を上げる
一度で全部を見られるようになる必要はありません。週ごとに、一段だけ上げます。
| 週 | その週にやること |
|---|---|
| 1週目 | 開いて閉じる。数字は読まない |
| 2週目 | 残高の数字だけ見る。内訳は開かない |
| 3週目 | 直近1か月の明細を、上から下まで眺める |
| 4週目 | 翌月の引き落としの予定を確かめる |
うまくいかない週があったら、前の段に戻ればいいだけです。戻るのは失敗ではありません。4週目まで来たら、あとは月2回のペースに落として続けます。
通知を味方にする
カードを使った直後に金額を知らせてくれる設定があります。大きな数字とまとめて向き合うのではなく、少しずつ受け取る形にすると、月末に開くときの重さが下がります。
ただし、通知そのものが負担になる人もいます。試してみて苦しければ、切って構いません。
開いたあとに出てくるものへの一手
見た結果、何か出てくることがあります。慌てないように、先に手を決めておきます。1回で全部を片づけません。1つだけ選んでください。
| 出てきたもの | その日にやる1つ |
|---|---|
| 覚えのない定額の引き落とし | 名前をそのまま検索する。使っていない申し込みのことが多いです |
| 残高が足りずに引き落とせていない | その日のうちに入れる。分からなければカード会社に電話します |
| 分割や後払いの残りが多い | どこに残高が書いてあるかだけ確認する |
| 督促の連絡が来ている | 封を開けて、日付と連絡先だけ見る |
支払いが追いつかない状態なら、それは工夫の範囲を超えています。自治体の生活相談の窓口や、消費生活センターに無料で相談できます。 早い段階のほうが、選べる道が多く残ります。
残高や明細を見るのが怖い人へ/場面ごとの対処
場面別に考える
通帳の記帳に行けない
窓口や機械の前に立つこと自体が重いなら、紙の通帳を使わない形に変えられます。多くの銀行がアプリや画面上で明細を出せるようにしています。切り替えの手続きは一度きりです。
何か月も開いていない
期間が空いているほど、開いたときに出てくる量が増えます。それでも、過ぎた月をさかのぼるのは後回しでいいです。まず今月の分だけ見てください。古い分は、必要になったときに取り寄せられます。
家族に見られるのがつらい
一人で見られる時間と場所を確保してください。数字を共有するかどうかは別の話で、先に自分が把握しておくほうが、話すときも楽になります。
明細の行の意味が分からない
店の名前がそのまま載るとはかぎりません。運営している会社の名前や、決済を代行している会社の名前で並ぶことがよくあります。心当たりのない行は、その名前をそのまま検索するか、カード会社に問い合わせれば教えてもらえます。分からない行があること自体は、珍しくありません。
見たあと落ち込んで動けなくなる
見た直後に判断しないでください。落ち込みが強い日は、紙に金額を書き写して、その紙を明日の自分に渡すだけにします。判断は、気持ちが平らなときのほうが正確になります。
つらさが長く続くときは、お金の話とは別に、相談できる場所を確保しておいてください。
よくある質問
見ないでいても、なんとかなってきました
いまはそうかもしれません。ただ、気づかない引き落としや、上がっていく残高は、時間とともに大きくなります。 早く見るほど、打てる手は多く残ります。
見るたびに自分を責めてしまいます
数字は、その月に起きたことの記録であって、人の値打ちの点数ではありません。 責める言葉が出てきたら、「これは記録」と言い直してみてください。それでも止まらないなら、見る量をもっと減らして構いません。
そもそもログインできなくなっています
パスワードが分からないまま何年も止まっている人もいます。再設定は、電話や窓口でできます。 「ログインできなくなったので、やり方を教えてください」と伝えれば足ります。カードや通帳、本人確認の書類を手元に置いてからかけると、一度の連絡で終わります。
何度も確認してしまうのも困っています
回数が多すぎるのも消耗します。見る日を決めて、通知を切るのは、この場合にも効きます。確かめたくなったら、次の「見る日」まで持ち越すと決めてください。
関連する困りごと
- 記録そのものが続かないとき → 家計簿が3日で終わる人へ
- 引き落としや納付を忘れてしまうとき → 支払いを忘れて延滞してしまう人へ
- 覚えのない定額が並んでいたとき → 使っていないサブスクを払い続けている人へ
- お金全体を整理したいとき → お金が残らない人へ
まず今日、これだけやってみる
- アプリを開いて、数字を読まずに閉じる
- カレンダーに「見る日」を月2回入れる
- 見たあとにやる小さな予定を1つ決めておく(風呂でも散歩でも可)
この記事について
この記事は、2つの研究を土台にしています。
ひとつは、成人のADHDにおける感情の調節のしにくさを扱った、研究をまとめた分析です。数字を見たときの落ち込みが強く出ることを、性格ではなく特性の一部として説明するために使っています。ただしこの分析は、対処法の効果を調べたものではありません。
もうひとつは、ADHDの症状と、「あとの大きい得」より「いまの小さい得」を選びやすい傾向、そしてお金の使い方の関連を調べた研究です。「いま見ないで楽になる」が選ばれやすいことの説明に使っています。こちらは本人が答えたアンケートをもとにした小さな規模の分析で、家計の工夫の効果を示すものではありません。
そのうえで、「最初の1回は開くだけにする」「見る日と見ない日を決める」といった具体的な進め方は、この場面で効果を確かめた研究があるわけではありません。 避ける動きを弱める形として筋が通る、という段階のものです。小さく試して、合わなければやめてください。
お金の不安で眠れない、生活が回らないという状態が続くときは、一人で抱えないで専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
見ないでいると、頭の中の金額って勝手に悪いほうへ育つんですよね。実際に開いてみると、思っていたより落ち着いていることのほうが多いです。まずは数えないで、画面だけ開けてみましょう。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討ADHDと、目先の得を選びやすい傾向、そしてリスクの高いお金の使い方
(原題:Attention-deficit/hyperactivity disorder, delay discounting, and risky financial behaviors)
この研究でわかっていること:「あとの大きい得より、いまの小さい得」を選びやすい傾向を説明できます。
ここはまだ分かっていません:本人が答えたアンケートをもとにした、小さな規模の分析です。家計術の効果を示すものではありません。
研究で検討成人ADHDにおける感情の調節のしにくさ:研究をまとめた分析
(原題:Emotion dysregulation in adults with attention deficit hyperactivity disorder: a meta-analysis)
この研究でわかっていること:感情が大きく動きやすいことを、性格ではなく特性の一部として説明できます。
ここはまだ分かっていません:対処法の効果を調べたものではありません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。