役所の手続きが進められない人へ|窓口でつまずかない型
— 難しいのは制度ではなく、そこへたどり着くまでの段の多さです
ポイント
- 役所の手続きは段が多く、どこか一段で止まると全部が止まります
- 行く前に代表番号へ1本かけると、行き先と持ち物がその場で決まります
- 書類は家で書かず、窓口で聞きながら書くほうが早く終わります
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封筒は届いている。中身も一度は開けた。「持参するもの」の欄まで読んで、そこで閉じた。
それから2週間。封筒はテーブルの端にある。見るたびに気が重くなって、下に別の紙を重ねてしまう。期限は近づいているのに、どの課へ行くのかも、何を持っていくのかも、まだ決まっていません。
これは、面倒くさがりだからではありません。 役所の手続きは、たどり着くまでにいくつも段があります。行き先を決める、書類をそろえる、日を決める、その日に思い出す、家を出る、番号を取る、順番を待つ、説明する、書く、出す。どれか一段で止まれば、全部が止まります。
結論を先に書きます。行く前に、代表番号へ1本だけ電話をかけてください。 行き先と持ち物が決まった瞬間に、残りの段はほとんど消えます。
なぜ役所の手続きだけ、こんなに重いのか
止まる場所は、だいたい3つに分かれます。
- 紙の壁。書式が細かく、書き方の見本が小さい。1か所まちがえると全部やり直しに見えます
- 電話の壁。どの課にかければいいか分からない。聞きながらメモを取るのも難しい
- 窓口の壁。開いている時間が平日の昼だけ。待ち時間が読めず、その日の予定が組めません
そこに、期限があります。期限のあるものほど、開けるのが怖くなります。開かないから中身が分からず、分からないから余計に開けない。この輪の中に入ると、封筒はテーブルの上で古くなっていきます。
ADHDの傾向がある人では、あとでやることを覚えておく力が、先延ばしとの関係の一部を説明するという報告があります。避けていたのではなく、頭から抜けていただけ、ということが実際に起こります。
忘れる自分を直そうとするより、思い出さずに済む形にするほうが早いです。
【いちばん効く1つ】代表番号に1本かけて、行き先と持ち物を確定させる
自分で調べて確信を持ってから動こうとすると、いつまでも動けません。調べるのをやめて、聞いてください。
- 市区町村の代表番号を調べる(課の名前は分からなくて構いません)
- つながったら、やりたいことをそのまま言う
- 担当の課につないでもらう
- 持ち物・窓口の名前・受付時間の3つだけ聞く
- 聞いたことを、その場でスマホのメモに打ち込む
言い方は、これで足ります。
「すみません、どちらの課か分からないのですが、◯◯の手続きをしたいです。おつなぎいただけますか」 「窓口へ行くとき、持っていくものを教えてください」 「いま持っていない書類があったら、その日は何ができますか」
3つ目がいちばん効きます。 そろっていなくても受け付けてもらえる部分がある、と分かれば、完璧にそろうまで待たずに動けます。
課の名前を覚えなくていい
役所の課の名前は、自治体ごとに違います。同じ手続きでも呼び名が変わります。覚えようとしないでください。 電話で聞いた窓口の名前を、そのままメモに残せば十分です。
役所の手続きが進められない人へ/代表番号に1本かけて持ち物を確定させる
書類は、家で書かない
家で完成させようとすると、そこで止まります。分からない欄が1つ出た時点で、ペンが置かれるからです。そして次に開くのは、期限の前日になります。
空欄のまま持っていってください。
- 名前と住所など、確実に分かるところだけ先に書く
- 分からない欄には、鉛筆で小さく「?」を書く(聞き忘れを防げます)
- 窓口で「ここが分かりませんでした」と言って、教わりながら書く
- 書き損じたら、その場で新しい用紙をもらう
窓口の人は、書き方を案内するのが仕事です。書けていない状態で行くのは、失礼にはあたりません。 むしろ、まちがったまま提出して郵送で返ってくるほうが、お互いに手間が増えます。
書類そのものが家の中で行方不明になるなら、書類が山になっている人へもあわせて読んでください。
持ち物は、前の晩にひとまとめにする
当日の朝に集めようとすると、探しているうちに時間が過ぎます。前の晩に、袋を1つ用意してください。
- 電話で聞いた持ち物を、上から順に袋へ入れる
- 届いていた封筒は、中身を出さずに封筒ごと入れる
- 印鑑、本人確認のもの、通帳やカードなど、聞いた範囲で入れる
- 書くもの(黒のペン)を1本入れる
- 袋を玄関に置く
封筒ごと持っていくのがこつです。受付番号や整理番号は、たいてい封筒か同封の紙に書いてあります。 番号があると、窓口での確認が早く終わります。
足りないものがあっても行く
「1つ足りないから今日はやめよう」が、いちばん先延ばしを長くします。足りない状態でも、そこまでの説明は受けられます。 次に何を持ってくればいいかも、その場で確定します。
1回で終わらせようとしない
役所の手続きは、1回で終わらないことがよくあります。書類を取りに行く回と、出しに行く回に分かれることもあります。
- 予定は2回分を先に押さえる。空振りしても、気持ちが折れません
- 混む時期を外す。年度の変わり目、月曜、連休明け、月初、昼どきは待ちが長くなりがちです
- 午前中の早い時間か、昼が終わったあとを選ぶ
- その日は、役所のあとに予定を入れない
待ち時間の負担が大きい人は、呼び出しが番号でされるかを電話のときに確認しておくと計画が立てられます。外で待てる仕組みがある窓口もあります。
郵送やオンラインで済むものもある
すべての手続きに窓口へ行く必要があるわけではありません。郵送で受け付けているかを、電話のときに一緒に聞いてください。人と話す負担が大きい日は、この一言が効きます。
役所の手続きが進められない人へ/窓口で紙を1枚出す
窓口では、紙を1枚出す
順番が来たとたんに頭が白くなって、うまく言えないことがあります。話す代わりに、紙を出してください。
紙に書くのは3行だけです。
「◯◯の手続きに来ました」 「この封筒が届きました」 「持ち物は電話で確認しています」
これを見せれば、あとは向こうが進めてくれます。うまく説明できなくても手続きは進みます。説明の上手さは、条件に入っていません。
聞き取れなかったとき
早口で言われて分からなかったら、そのまま伝えて構いません。
「メモを取りたいので、もう一度ゆっくりお願いできますか」
書きながら聞くのが難しいなら、言われたことを紙に書いてもらうよう頼めます。「次に何をすればいいか、ここに書いていただけますか」と言えば、たいてい書いてもらえます。
ひとりで無理なときの頼り先
同行や代理を頼める先があります。人間関係の外にある窓口なので、気を使わずに使えます。
- 発達障害者支援センター。全国にあり、診断や手帳がなくても相談できます。手続きの相談にも乗ってもらえます
- 市区町村の福祉の相談窓口。どの制度が使えるかの整理から頼めます
- 社会福祉協議会。地域によって、手続きの支援を行っているところがあります
障害のある人向けの福祉サービスは、障害者総合支援法という法律にもとづく制度です。窓口は市区町村になります。ただし、法律の条文だけでは実際の運用までは分かりません。どこまで手伝ってもらえるかは、自治体によって差があります。 電話で「同行や代筆をお願いできますか」と聞いてみてください。
場面別
引っ越しをしたとき
転出と転入で2回に分かれます。転入のあとに続く手続きは期限が決まっているものが多いので、封筒が届くのを待たずに日を押さえてください。同じ日にまとめて済む窓口があるかを電話で聞いておくと、行く回数が減ります。
保険や年金の切り替え
仕事を辞めた、変わったというときは、複数の窓口にまたがることがあります。自分で分類しようとせず、「仕事を辞めました」と最初に言ってください。必要なものを順番に並べてもらえます。
子どもに関する手続き
学校や園から配られる紙と、役所へ出す紙が混ざりがちです。役所へ出すものだけを別の場所へ分けると、期限を追いやすくなります。冷蔵庫に貼るより、袋に入れて玄関へ置くほうが持ち出せます。
福祉サービスを使いたいとき
いきなり申請書ではなく、まず相談から始まります。「こういうことで困っています」と伝えるところが入口です。何が使えるかを整理してもらう段階があると思っておくと、身構えずに済みます。
よくある質問
何の手続きが必要なのかも分かりません
その状態で電話して大丈夫です。「引っ越しました」「仕事を辞めました」と、起きたことだけ言えば、必要な手続きは向こうが並べてくれます。自分で当たりをつける必要はありません。
平日に休みが取れません
窓口の時間を延ばしている日や、月に数回の休日開庁を設けている自治体があります。「平日に行けないのですが、方法はありますか」と聞いてください。 郵送やオンラインに切り替えられる手続きもあります。
期限を過ぎてしまいました
過ぎてから連絡しても、たいていは受け付けてもらえます。放置するのがいちばん不利です。「期限を過ぎてしまったのですが」と、そのまま電話してください。事情を聞いたうえで案内されます。
窓口で嫌な思いをしたことがあります
対応する人によって差があるのは事実です。同じ役所でも、日を変えれば別の人が出ます。苦手な窓口を避けて、電話や郵送に寄せるのも立派なやり方です。
何度も同じことを聞くのが申し訳ないです
制度は複雑で、職員も手引きを見ながら答えています。2回聞くのは、まちがった書類を出し直すより安く済みます。 聞き直す前提で行ってください。
関連する困りごと
- 手が出せないまま日が過ぎるとき → やらなきゃいけないのに手がつかない人へ
- 提出そのものを忘れてしまうとき → 提出物や手続きを忘れてしまう人へ
- 手帳の申請を考えているとき → 障害者手帳の申請のしかたが分からない人へ
- 段が多すぎて固まるとき → 大きい仕事を前に固まってしまう人へ
まず今日、これだけやってみる
- 届いている封筒を1つだけ選んで、表に期限を大きく書く
- 市区町村の代表番号を調べて、スマホに登録する
- 明日かける時刻を決めて、アラームをセットする
この記事について
この記事は、1つの研究と2つの公的な情報をもとにしています。
研究のほうは、ADHDの症状と先延ばしの関係を、あとでやることを覚えておく力が部分的に説明するというものです。手続きが進まないのを、性格や意欲の話にしないための根拠にしています。ただし、この研究はある時点での関連を調べたものが中心で、対策の効果を確かめたものではありません。
公的な情報として、障害のある人向けの福祉サービスが障害者総合支援法という法律にもとづく制度であることを参照しています。制度に法的な土台があることは示せますが、条文だけでは、実際に窓口でどう運用されているかまでは分かりません。もうひとつ、全国の発達障害者支援センターの一覧を参照しています。診断や手帳がなくても相談できる窓口ですが、対応してもらえる内容は自治体ごとに異なります。
そのうえで、この記事に書いた電話の言い方、封筒ごと持っていくやり方、窓口で紙を出す方法は、効果を確かめた研究があるわけではありません。 段を減らすと動きやすい、という筋が通るだけのものです。合う合わないは人によりますので、1つだけ試してみてください。
なお、個別の制度が自分に使えるかどうかは、この記事では判断していません。それを決めるのは、住んでいる市区町村の窓口です。困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
役所が苦手なの、当たり前だと思うんですよね。あそこは、もう分かっている人に向けて作られている場所ですから。分からないまま電話をかけていいんです。それが正しい使い方です。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
- 専門家・公的情報
- 厚生労働省などの公的な機関や、専門家が出している情報をもとにしています。
専門家・公的情報障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律
この研究でわかっていること:制度の法的な根拠を示せます。
ここはまだ分かっていません:条文だけでは、実際にどう運用されているかは分かりません。
専門家・公的情報発達障害者支援センター・一覧
この研究でわかっていること:相談先の案内として使えます。
ここはまだ分かっていません:対応内容は自治体ごとに異なります。
研究で検討「あとでやることを覚えておく力」は、ADHD症状と先延ばしの関係を部分的に説明する
(原題:Prospective memory (partially) mediates the link between ADHD symptoms and procrastination)
この研究でわかっていること:先延ばしの一部が「やること自体を思い出せない」ことに由来しうると言えます。
ここはまだ分かっていません:横断的な関連が中心。対策の効果を示すものではありません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。