確定申告が手につかない人へ|最低限のやり方だけ決める
— 止まっているのは計算ではなく、資料の置き場です
ポイント
- 手が止まる原因は計算の難しさよりも、資料が家じゅうに散っていることです
- 仕事用の口座とカードを1組だけ作ると、集める作業がほとんど消えます
- 税の判断は自分で決めなくてよく、税務署や税理士に渡してかまいません
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年が明けて、その言葉を見かけるだけで胸のあたりが重くなる。レシートは引き出しと上着のポケットとカバンの底に散らばっている。取引先から届いた封筒は、開けないまま棚に立ててある。
去年もぎりぎりまで動けず、最後の数日で徹夜して出した。今年こそ早く始めると決めていたのに、気がつくとまた同じ場所に立っている。
やらなければいけないと分かっているのに、その一点だけが動かない。だらしないからではありません。確定申告は「ひとつの用事」に見えて、中身は十数個の細かい作業の束になっているからです。束のどこかが詰まると、全部が止まります。
結論を先に書きます。数字を計算する前に、紙とデータの置き場を1か所に決めてください。 手が止まっている原因は、たいてい計算ではなく、資料が家じゅうに散っていることのほうです。
なぜこの手続きだけが動かないのか
止まる場所は、だいたいこのあたりです。
- 合図が年に一度しか来ない。毎週のゴミ出しのように体が覚える機会がありません
- 一つの用事に見えて、実際は束。集める、分ける、入力する、確かめる、出す、と続きます
- 分からない言葉が途中で出る。一語つまずくと、そこで手が止まります
- 間違えたら怒られる気がする。怖さがあると、開くこと自体を避けたくなります
- 終わりの形が見えない。どこまでやれば終わりなのかが分からないと、始めにくくなります
ここでひとつだけ研究の話をします。ADHDの特性がある人には、「あとで手に入る大きい得」より「いま手に入る小さい得」を選びやすい傾向があると報告されています。半年後の安心より、いま画面を閉じるほうが選ばれてしまう。これは根性の量の話ではありません。
だから、やる気を出す方向ではなく、手をつける場所を減らす方向で組み立てます。
【いちばん効く1つ】仕事用の口座とカードを1組だけ持つ
いちばん効くのは、集める作業そのものを消してしまうことです。そのために、お金の通り道を1本に絞ります。
- 銀行口座を1つ、仕事専用にする(屋号がなくても、個人名の口座で足ります)
- 報酬の振込先を、すべてその口座に変えていく
- カードを1枚、仕事の支払い専用にする
- 仕事に関わる支払いは、必ずそのカードから出す
- 会計ソフトを1つ選んで、その口座とカードをつなぐ
これで、明細がそのまま資料になります。 一年分のレシートを机に広げて記憶をたどる作業が、ほとんど要らなくなります。
会計ソフトは無料のものから月千円台のものまであります。申告のためだけでも、払う価値が出ることが多いです。何時間ぶんの作業が消えるかで考えてください。
すでに生活費と混ざっている年は
過去の分まできれいに分け直そうとすると、そこで力尽きます。過ぎた年はそのまま、今日から分けるで構いません。
いま口座を作れば、来年の自分の作業は確実に軽くなります。今年の分は、後述の箱でしのぎます。
確定申告が手につかない人へ/紙は箱ひとつに投げ込む
紙は分類せず、箱ひとつに投げ込む
紙を「あとで整理する」と決めた瞬間から、紙は増え続けます。整理をやめてください。
- 空き箱か大きめの封筒を1つ用意して、机の上の見える場所に置く
- 側面に「2026年ぶん」と太く書く
- レシート、領収書、届いた封筒は、その日のうちに中へ落とすだけ
- 種類ごとに分けない。日付順にもしない
- 月末に一度だけ、中身を平らにならして、まとめて写真に撮る
分類は、あとでまとめてやったほうが速く終わります。受け取った瞬間にやるべきなのは、判断ではなく移動だけです。
財布に入れっぱなしを防ぐ
帰宅して上着を脱ぐ場所に箱を置くと、通り道になります。玄関でも机でも、自分が必ず通る一点に置いてください。
電子で届くものの置き場も1つに
メールで届く請求書や、サイトからしか落とせない明細もあります。パソコンの中に「2026年ぶん」というフォルダを1つ作って、届いたらそこへ入れるだけにします。ファイル名は変えなくて構いません。
当日の順番を、あらかじめ決めておく
始める日が来たら、考えずに上から実行できる形にしておきます。順番が決まっているだけで、入口が軽くなります。
- 箱の中身を全部出して、紙の種類だけで山を分ける(売上/経費/その他)
- 会計ソフトに口座とカードの明細を取り込む
- 現金で払ったぶんだけ、手で足していく
- 分からない項目には触らず、付箋を貼って飛ばす
- 一通り終わったら、付箋の分だけを人に聞く
- 提出前に、名前・振込先の口座・控えの保存場所の3つだけ確かめる
分からない項目で止まらないことが、いちばん大事です。飛ばして進めば、聞く材料が手元にそろいます。
途中でやめるときは、次の一手を書き残す
一日で終わらせなくて構いません。やめるときに、紙一枚だけ書いてください。
「9月ぶんまで入力ずみ。次は10月の通帳から。付箋は3枚。」
これがないと、次に開いたとき思い出す作業から始まって、また閉じることになります。
一人では机に向かえないとき
誰かに横にいてもらうだけで進むことがあります。中身を手伝ってもらう必要はありません。同じ部屋にいてもらって、こちらは黙って手を動かすだけで足ります。喫茶店や図書館のように、席を立ちにくい場所を選ぶのも似た働きをします。
出し方を先に決めておく
提出のやり方はいくつかあります。当日に迷わないよう、前もって1つ選んでおいてください。
| 出し方 | 向いている場面 |
|---|---|
| 画面から送る | 外に出るのがつらい。夜しか動けない |
| 郵送する | 画面の操作でつまずきやすい。控えを手元に置きたい |
| 窓口へ持っていく | その場で聞きたいことがある。一人だと進まない |
画面から送る形は、利用者の登録や本人確認の準備で一度つまずきやすいところがあります。期限の直前ではなく、余裕のある時期に登録だけ先に済ませておくと安全です。
窓口は混みますが、人がいる場所のほうが手が動くという人もいます。会場で相談しながら書いていく形も用意されています。どれが正解ということはありません。
期限の怖さを下げておく
期限が近づくほど動けなくなる、という形はよくあります。前もって知っておくと、少し軽くなります。
- 申告の期間は毎年決まった時期にありますが、日付は年によってずれます。 国税庁のページで、その年の日付を確認してください
- 期限を過ぎても、申告そのものは受け付けてもらえます。 出さないまま放置するほうが、選べる道が狭くなります
- 間に合わないと分かった時点で、税務署に電話して構いません。相談されて怒られる場所ではありません
- 払うお金がすぐ用意できない場合も、まず相談する窓口があります
どのくらいの負担が生じるか、どんな扱いになるかは、その人の状況によって変わります。ここでは判断しません。 数字の話は必ず税務署か税理士に確認してください。
完璧に整った申告より、期限内に出した申告のほうが強い、とだけ覚えておいてください。
確定申告が手につかない人へ/分からないことは人に渡す
分からないところは、人に渡していい
自分で判断しようとするから止まります。判断は外に出すと決めてください。聞ける場所はいくつもあります。
- 税務署の窓口と電話相談(無料です)
- 税理士(有料。相場は幅があるので、まず見積もりを聞きます)
- 青色申告会、商工会や商工会議所の相談会
- 会計ソフトのサポート窓口(使い方の範囲で答えてくれます)
聞くときは、うまくまとめようとしなくて大丈夫です。
「個人で仕事をしていて、申告は初めてです。まず何を用意すればいいか教えてください。」 「レシートは残っていますが、帳簿をつけていません。この状態からどう進めればいいですか。」
2月から3月は窓口が混みます。 動けるなら1月のうちに一度行っておくと、相談の時間を長く取れます。
使える控除があるかどうかも、聞いていい
所得税には障害者控除という仕組みがあり、控除される額は区分ごとに決まっています。 障害者控除は27万円、特別障害者控除は40万円です。同居している家族が対象になる場合など、ほかの区分もあります。これは所得税の額で、住民税の控除額は別に決まっています。
ただし、自分がどの区分に当てはまるかは、この記事では判断できません。 手帳の種類や等級、その年の状況、住んでいる自治体によって扱いが変わります。国税庁のページを見たうえで、税務署か税理士に確認してください。「私の場合は対象になりますか」と聞いていい質問です。
よくある質問
帳簿をまったくつけていません
その状態から始める人はたくさんいます。先に口座とカードの明細を集めてください。 通帳や利用明細は、あとからでも取り寄せられることが多いです。そのうえで、何をどうすればいいかを窓口で聞くのがいちばん早いです。
そもそも申告が必要かどうかが分かりません
必要かどうかは、収入の種類や金額、他の仕事の有無で変わります。ここでは判断しません。 税務署に電話して、状況をそのまま伝えれば教えてもらえます。住民税の扱いは市区町村が担当なので、そちらにも聞いておくと安心です。
期限をもう過ぎてしまいました
過ぎた年のぶんも申告できます。気づいた時点で税務署に連絡するのが、いちばん静かに済む道です。何年か放置している場合も同じで、まとめて相談できます。
税理士に頼むのは大げさな気がします
作業を丸ごと渡せるかどうかで、その年の消耗がかなり変わります。毎年ぎりぎりで消耗しているなら、費用を払う価値は十分あります。 まずは料金の目安だけ聞いてみて、合わなければ断って構いません。
関連する困りごと
- 大きすぎて手がつかないとき → やることを小さく割れない人へ
- 書類が積み上がっているとき → 書類の山が片づかない人へ
- お金の通り道を整えたいとき → 給料日前にいつもお金がない人へ
- 期限が近づくと固まるとき → 締め切りに間に合わない人へ
まず今日、これだけやってみる
- 空き箱を1つ、机の上に置いて「今年ぶん」と書く
- 財布とカバンの中のレシートを、その箱に全部落とす
- 仕事用の口座を1つ決める(新しく作らなくても、既にある口座を指定するだけで足ります)
この記事について
この記事は、2つの出どころに支えられています。
ひとつは、ADHDの症状と、「あとの大きい得」より「いまの小さい得」を選びやすい傾向、そしてお金の使い方の関連を調べた研究です。申告が後回しになる現象を、意欲の不足として片づけないための土台にしています。ただしこの研究は本人が答えたアンケートをもとにした小さな規模の分析で、ここに書いた箱や口座の作り方の効果を確かめたものではありません。
もうひとつは、国税庁が公開している障害者控除の説明です。控除の額はここから引いています。ただし、住民税の扱いや、自治体ごとの減免については別に確認が必要です。 対象になるかどうかの判断も、このページだけでは決められません。
そのうえで、この記事に書いた進め方は、確定申告という場面で効果を測った研究があるわけではありません。 作業の数を減らす仕組みとして筋が通る、という段階のものです。
税額や控除の可否といった判断は、この記事では一切していません。それは税務署や税理士が扱う領域です。お金と手続きのことで生活が回らない状態が続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
確定申告って、難しいから止まるというより、どこから手をつけるか決まってないから止まるんですよね。数字の前に、紙とデータの置き場を1か所に決めてしまいましょう。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
- 専門家・公的情報
- 厚生労働省などの公的な機関や、専門家が出している情報をもとにしています。
研究で検討ADHDと、目先の得を選びやすい傾向、そしてリスクの高いお金の使い方
(原題:Attention-deficit/hyperactivity disorder, delay discounting, and risky financial behaviors)
この研究でわかっていること:「あとの大きい得より、いまの小さい得」を選びやすい傾向を説明できます。
ここはまだ分かっていません:本人が答えたアンケートをもとにした、小さな規模の分析です。家計術の効果を示すものではありません。
専門家・公的情報No.1160 障害者控除
この研究でわかっていること:税の控除額を示せます。
ここはまだ分かっていません:住民税や自治体ごとの減免については、別に確認が必要です。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。