食材を腐らせてしまう人へ|冷蔵庫を在庫置き場にしない
— 扉を閉じた瞬間に、中身は無いのと同じになります
ポイント
- 腐らせる原因は忘れっぽさではなく、扉の中が見えない置き方にあります
- 期限の短いものだけを1つのかごに集めると、探さずに使い切れます
- 買った日に切って冷凍まで済ませると、疲れた日の自分でも使えます
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野菜室のいちばん下から、何だったのか分からない袋が出てくる。開けるのが怖くて、口をしばったままゴミ袋へ入れる。
先週、使い切るつもりで買った鶏肉。安かったから手に取った大袋のもやし。半分だけ使ったキャベツ。どれも「明日には使う」と思って入れたものです。それが今、手の中で別のものになっています。
これは、だらしなさの問題ではありません。 食材は買った瞬間に、「あとで使うもの」へ変わります。あとで使うものを覚えておくのは、いちばん抜けやすい種類の記憶です。しかも冷蔵庫は扉で閉じる家具なので、忘れたことにさえ気づけません。
結論を先に書きます。扉を開けて3秒で全部が見える状態にしてください。 使い切る根性より、見える置き方のほうが先です。
なぜ冷蔵庫の中だけが行方不明になるのか
腐らせるまでには、いくつも段があります。
- 扉が閉じると、中身が頭から消える。棚も引き出しも、隠すためにできています
- 買う日の自分と、食べる日の自分がちがう。買うのは元気な日、料理するのは疲れた日です
- 期限がばらばら。豆腐は数日、根菜は数週間。まとめて覚えられません
- 奥が見えない。手前の物が壁になって、後ろの列は存在ごと消えます
- 量が多い。特売の大袋は、ひとり分の生活には大きすぎることがあります
成人ADHDでは、あとでやることを覚えておく力に困りごとが出やすいことが実験で確かめられています。買い物かごに入れたときの「あさって炒めよう」という考えは、あさっての自分には届いていません。
もうひとつ、見落としやすい理由があります。買った直後は、頭の中に献立の予定が残っていることです。「これとこれで炒めものにしよう」と思っている。その予定はどこにも書かれていないので、2日たてば消えます。残るのは、由来の分からない食材だけです。
直すのは記憶ではなく、置き場所です。
【いちばん効く1つ】「今週で終わらせる箱」を1つ作る
冷蔵庫の中に、浅いかごをひとつ置きます。そこへ期限の短いものだけを入れて、料理のときはそこから先に取ります。
- 幅25cmほどの浅いかごを1つ用意する(100円ショップのもので十分です)
- 扉を開けて、いちばん先に目が入る段に置く。目線の高さが理想です
- 買い物から帰ったら、3〜4日でだめになるものだけをかごへ入れる
- 何か作るときは、棚を見わたす前にかごへ手を伸ばす
- 週の終わりにかごが空なら、その週は成功です
大事なのは、全部を管理しようとしないことです。調味料も乾物も卵も対象外。放っておくと危ないものだけを、1か所へ集めます。
数が5個以下なら、扉を開けるたびに全部が目に入ります。20個あると、また見えなくなります。
置き場所は「探さない位置」にする
奥にしまうと、前と同じことが起きます。かごは手前・上段・扉のすぐ内側のどれかにしてください。冷える場所の都合で位置が決まっているなら、せめて透明のかごを選んで、中身が横から見えるようにします。
食材を腐らせてしまう人へ/期限の短いものだけを1つのかごに集める
買った日に、使える形にしておく
いちばん脱落しやすいのは、買ってきた袋のまま押し込むやり方です。次に使うとき、洗う・切る・小分けにするという作業がまるごと残っています。疲れた日には、そこで手が止まります。
帰宅したその場で、10分だけ手を動かします。
- 肉と魚は、1回分ずつに分けてすぐ冷凍する。使う日は決めなくて構いません
- 葉物は洗ってちぎり、水気を切って保存袋へ入れる
- きのこは根元を落として、袋ごと冷凍庫へ入れる
- ねぎやにらは切って、まとめて凍らせる
- 果物は洗って、そのまま食べられる形で置く
「今日はもう無理」という日は、肉だけ冷凍するでも構いません。肉と魚がいちばん高くて、いちばん早くだめになります。
袋を開けずにしまうと、次にその袋を開けるのは捨てる日になります。
迷ったら、迷った時点で冷凍する
「明日使うかも」で冷蔵に残したものは、そのまま忘れます。1秒でも迷ったら冷凍、と先に決めてください。行動を場面と結びつけて決めておく方法は、目標の達成を助けると報告されています。凍らせて困るのは、生のまま食べる野菜くらいです。
買う量を、冷蔵庫の広さで決める
使い切れないのは、入る量より多く買っているだけのことがあります。
- 特売の大袋は、その場で小分けにできる日だけにする
- 「1週間分まとめて」ではなく、3日分を基本にする
- 新しい食材を1つ買う前に、かごの中身を1つ減らす
- 出かける前に、冷蔵庫の中をスマホで1枚撮る
写真は在庫表の代わりになります。店で迷ったときに開けば、同じものをもう1つ買うことも防げます。買う段階から崩れているときは買い忘れと二重買いが多い人へへ。
3日分という区切りには、もうひとつ利点があります。献立を先まで決めなくて済むことです。1週間分を買うと、木曜の自分が何を食べたいかまで予想しなければいけません。その予想はまず外れます。3日なら、外れても被害が小さくて済みます。
「安いから」を理由に量を増やさない
大袋のもやしが50円でも、捨てれば50円そのものの損です。使い切れる量が、いちばん安い量になります。
期限を読むのをやめる
小さな数字を毎回さがして確認するのは、続きません。日付を自分で書き直してください。
- 保存袋や容器に、テープで「◯日まで」と大きく書く
- 冷凍したものには、中身と日付を1行だけ書く(「とり 8/28」で足ります)
- 開けたら、その日に開封日を書き足す
文字が大きければ、扉を開けたときに勝手に目へ入ります。読みに行かなくて済むのが利点です。
週に1度、決まった日に見る
思い出したときに確認するやり方だと、思い出せない週がまるごと抜けます。曜日で固定してください。
「ゴミを出す前の晩に、かごの中だけを見る」
捨てるものが出ても、次の朝すぐ出せます。生ゴミを部屋に置く日数が減るので、においの負担も下がります。ゴミ出しのほうが回っていないときはゴミ出しを忘れる人へへ。
食材を腐らせてしまう人へ/捨てた日に一行だけ記録を残す
捨てた日に、一行だけ残す
捨てるときは落ち込みます。そこで終わらせず、メモに一行だけ書いてください。
「もやし1袋 / 買って3日 / 使う予定を決めていなかった」
3回もたまれば、どの食材で失敗しているかが見えます。だいたい決まった数種類に偏ります。そうしたら、その食材は買うのをやめるか、最初から冷凍のものを買う。それだけで失敗の回数は落ちます。
責めるためのメモではありません。買い物リストから外す候補を見つけるためのメモです。
場面別
ひとり暮らし
ひとり分は、どうしても余ります。最初から冷凍前提で買うとラクです。冷凍野菜、小分けの肉、切り身の魚。生の大袋を避けるだけで、捨てる量はかなり減ります。
家族と暮らしている
かごは人ごとではなく、期限ごとに分けてください。「誰が買ったか」でもめると続きません。かごの中身は全員が先に食べていいもの、と決めておくと動きます。
作りおきをした日
作りおきは、冷蔵で置ける日数が思ったより短いものがあります。半分は最初から冷凍へ回してください。全部を冷蔵に置く形が、いちばん傷みます。料理そのものが重い日については自炊が続かない人へへ。
もらいものが届いたとき
実家から野菜が届く日は、量が読めません。届いたその日に、配る・凍らせる・今日食べるの3つに分けてください。段ボールのまま床に置くと、そこで傷みます。
体調が悪くて動けない日
無理に処理しなくて構いません。冷凍庫に入れるだけでその日は終わりにしてください。冷凍は、判断を先送りにできる数少ない場所です。
よくある質問
冷凍すると味が落ちませんか
落ちるものはあります。ただ、少し味の落ちたものを食べるほうが、腐らせて捨てるよりずっと得です。汁物や炒めものに使えば、違いはほとんど分かりません。生のまま食べたいものだけ、冷蔵に残してください。
かごを作っても、結局見ないまま終わりそうです
かごを見るきっかけが決まっていないのかもしれません。「開けたときに目に入るはず」に頼らず、夕方に台所へ立ったら、かごごとテーブルへ出すという形にしてみてください。手に持って出してしまえば、そのまま奥へ戻ることがありません。
冷凍庫が、もういっぱいです
冷凍庫が満杯だと、この方法は回りません。先に冷凍庫を空けるほうが早いです。中身を全部出して、いつのものか分からないものは処分してください。1回やっておくと、そのあとは入る量が読めるようになります。
まとめ買いをやめると、買い物の回数が増えてつらいです
その場合は、回数ではなく買うものの中身を変えてください。日持ちするもの(冷凍食品・缶詰・乾物)はまとめて買い、生鮮だけを3日分にします。出かける回数は増えません。
家族が勝手に買ってきて、量が増えます
在庫が2人分になると、量は読めなくなります。その週の買い出し担当を1人に決めるか、店に着いたらかごの写真を送り合う形にすると重複が減ります。だらしなさの話ではなく、置き場所の話として伝えるのがこつです。
関連する困りごと
- 買う段階でつまずくとき → 買い忘れと二重買いが多い人へ
- 料理そのものが重いとき → 自炊が続かない人へ
- 捨てる判断ができないとき → ものが捨てられない人へ
- 生ゴミが部屋にたまるとき → ゴミ出しを忘れる人へ
まず今日、これだけやってみる
- 冷蔵庫の中をスマホで1枚撮る(今ある在庫が、それだけで分かります)
- 浅いかごを1つ入れて、期限の近いものだけを移す
- 家にある肉を、1回分ずつに分けて冷凍する
この記事について
この記事は2つの研究をもとにしています。ひとつは、成人ADHDであとでやることを覚えておく力に困難が出やすいことを、実験の課題で確かめた研究です。「買ったときは使うつもりだったのに忘れる」を、意欲や性格の話にしないための根拠にしています。ただしこの研究が調べたのは実験室での課題で、冷蔵庫の使い方ではありません。メモやリマインダーのように、覚えることを外に出す道具そのものの効果も、まだ確かめられていません。
もうひとつは、「こうなったらこうする」と行動を場面に結びつけて先に決めておく方法が、目標の達成を助けるという、研究をまとめた分析です。「迷ったら冷凍する」「ゴミを出す前の晩にかごを見る」という形は、ここから来ています。この分析は発達障害のある人だけを対象にしたものではなく、広く一般に向けた知見を当てはめています。
そのうえで、かごの使い方、買った日の下ごしらえ、テープに日付を書くやり方は、食材を捨てる量が減ることを確かめた研究があるわけではありません。 仕組みとして筋が通る、という段階のものです。合う合わないは人によりますので、まず1つだけ試して、続かなければ別のものに替えてください。
食品の衛生や、傷んだものを食べたときの体調については、ここでは判断していません。においや見た目に不安があるものは、食べずに処分してください。困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
野菜室から知らない袋が出てくるの、こわいですよね。あれは買い方が下手なんじゃなくて、しまった瞬間に見えなくなる家具を使っているだけなんです。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討成人ADHDにおける「あとでやることを覚えておく力」の困難
(原題:Complex Prospective Memory in Adults with Attention Deficit Hyperactivity Disorder)
この研究でわかっていること:予定や約束を忘れるのは記憶の使い方の問題で、意欲の問題ではないと説明できます。
ここはまだ分かっていません:リマインダーなど外部化の道具そのものの効果はまだ調べられていません。
研究で検討「もし〜なら〜する」と先に決めておく方法が目標達成に与える効果の研究をまとめた分析
(原題:A Meta-Analysis of the Effects of Mental Contrasting With Implementation Intentions on Goal Attainment)
この研究でわかっていること:行動を「場面」と結びつけて決めておく方法に一定の効果があると言えます。
ここはまだ分かっていません:ADHD・ASDだけを対象にした研究ではありません。一般の人向けの知見を当てはめています。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。