通勤・満員電車がつらい人へ|消耗を減らす選択肢
— 移動ではなく、朝いちばんのひと仕事だと考えます
ポイント
- 通勤は移動ではなく、体力を使う作業です。着く前に消耗して当たり前です
- まず乗る時間帯をずらします。同じ路線でも15分で混み方が変わります
- 時間帯・経路・装備・働き方の順に、お金のかからないものから試せます
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ホームに立った時点で、もう気が重い。ドアが開いて押し込まれ、四方から他人の体が当たります。香水、整髪料、汗、朝食のにおい。アナウンス、話し声、ブレーキの音。降りる駅までの20分、どこにも逃げられません。
会社に着いたときには、もう半日働いたような疲れ方をしています。それなのに、そこから仕事が始まります。
これは気の持ちようの問題ではありません。通勤は移動ではなく、体力を使うひと仕事です。感覚が敏感な人にとって、満員電車は一日のなかでいちばん刺激の多い場になりやすいところです。
先に結論を書きます。我慢の量を増やすのではなく、乗る条件のほうを変えます。 動かせるのは、時間帯・経路・装備・働き方の4つです。この順にお金がかかっていくので、上から試してください。
なぜ通勤でここまで消耗するのか
満員電車には、つらくなる条件がそろっています。
- 音:会話、放送、走行音、通知音が同時に来ます
- におい:香水、整髪料、汗、食べ物のにおいが混ざります
- 触れられる:意図せず体が当たり続けます。よけられません
- 逃げられない:次の駅まで降りられません。時間も読めません
- 距離が選べない:人との近さを自分で決められません
ASD(自閉スペクトラム症)のある人では、感覚の受け取り方に違いが出ることがあると、国内の研究で整理されています。感覚の敏感さが暮らしにくさと関わることや、感覚の負担が外出のしづらさにつながることを扱った研究もあります。気のせいでも、わがままでもありません。
そして、つらさの中心は人によって違います。音がいちばんこたえる人、においが無理な人、人と触れることが耐えられない人。中心がどれかで、効く手が変わります。
【いちばん効く1つ】乗る時間を15分ずらす
同じ路線でも、15分ずれるだけで混み方がはっきり変わります。しかも0円です。
- いま乗っている電車の時刻を書き出します
- 15分早い電車と15分遅い電車を、1日ずつ試します
- 着いたときの疲れを、10点満点の点数にしてメモします
- 3日ぶん比べて、いちばん点数の低い時刻に固定します
早めるほうが効くことが多いですが、遅らせたほうが空く路線もあります。 予想ではなく、実際に乗って比べてください。
早い電車に変えるなら、朝の支度を前の晩に寄せておくのが現実的です。やり方は朝、家を出られない人へにまとめてあります。
始業の時刻を動かせる職場なら、時差出勤の相談がいちばんの近道になることもあります。
経路を「速さ」ではなく「消耗の少なさ」で選び直す
乗り換えの検索は、たいてい早い順に並びます。でも、いま必要なのは早さではありません。
- 各駅停車に乗る:速い電車ほど混みます。10分遅くても、座れるなら安い買い物です
- 始発の駅まで戻る:反対方向に1〜2駅戻ると座れる路線があります
- 手前の駅で降りて歩く:混雑の山を外せて、体も切り替わります
- 乗り換えを1回減らす:階段と人の流れは、それだけで体力を持っていきます
- バスや別の路線に替える:遠回りでも、座れて静かなら勝ちです
定期券の経路を変えると、運賃も変わります。先に金額を調べてから決めてください。差額が出ても、月で割ると外食1回分ということもあります。
乗る車両も決めてしまいます。階段やエスカレーターの前には人が集まります。端の車両は空きやすいことが多いです。
通勤の装備を1セットに決める
毎朝考えなくていいように、持ち物は固定します。ポーチ1つにまとめて、カバンから出さないのがコツです。
| つらいもの | 電車で使いやすいもの |
|---|---|
| 音 | 耳栓、耳をふさぐ形のイヤホン |
| まぶしさ | 色の薄いサングラス、つばのある帽子 |
| におい | マスク、好きな香りを少しつけたハンカチ |
| 人との接触 | リュックを前に抱える、上着を1枚はさむ |
| 手すりや吊り革 | 薄い手袋、除菌シート |
道具そのものの選び方は人の声や生活音がつらい人へにくわしく書いています。ここでは電車で使えるかどうかだけを見てください。
- 片手でつけ外しできるか(もう片方の手はふさがっています)
- 落としても拾えるか(満員では拾えません。ひもや入れ物を用意します)
- 押されても外れないか
- 放送や呼びかけに、必要なぶんだけ気づけるか
全部の音を消さないほうが安全です。急な放送は聞こえる程度に残してください。
職場に着いて外したものは、決まった場所に戻します。カバンの同じポケットと決めておくと、なくしません。通勤の装備をなくした日は、帰りがまるごとつらくなります。
通勤・満員電車がつらい人へ/乗っているあいだにできること
乗っているあいだにできること
立つ場所で、受ける刺激の量が変わります。
- ドアの横の角:片側が壁になり、当たる面が減ります
- 連結部のあたり:人の出入りが比較的少なめです
- 座席の端の脇:正面に人が立ちにくくなります
そして、残り時間を数えないことです。あと何分と考えるほど長く感じます。かわりに駅の数で区切ってください。「あと3駅」のほうが短く感じる人が多いです。
苦しくなったら、次の駅で降りてホームに出ていいです。1本見送っても数分の遅れです。倒れてしまうより、ずっと安全です。「途中で降りてもいい」と先に決めておくだけで、乗っていられる時間はかえって延びます。
途中で具合が悪くなったときの手順
先に手順を決めておくと、その場で慌てずにすみます。
- 次の駅で降りて、ホームのベンチか壁ぎわに移動する
- 人の流れから外れて、上着やマフラーをゆるめる
- 水を飲む。持っていないなら売店か自動販売機へ
- 立てないほど苦しいときは、駅員に声をかける
- 落ち着くまで、次の電車には乗らない
駅員に頼っていいです。 具合が悪い人への対応は、駅の仕事のうちに入っています。
遅れる連絡は、あらかじめ短い文をスマホのメモに入れておくと楽です。
「体調のため1本遅れます。◯時ごろ着きます」
その日は無理をせず、予定を軽くしてください。同じことが何度も起きるなら、我慢を重ねずに相談先の探し方を見てください。
通勤時間を「使う時間」にしない
通勤中に本を読む、メールを返す、勉強をする。できる日はいいのですが、混んでいる日にまでやろうとすると、消耗が二重になります。
- 座れた日だけにする
- 立っている日は、目を閉じるか、聞くだけにする
- 帰りは何もしないと決めてしまう
通勤は、すでに体力を使っている時間です。そこを空けておくほうが、着いてからの持ちが良くなります。
着いてからの10分で立て直す
着いた勢いのまま仕事を始めると、消耗を抱えたまま午前が終わります。
- トイレか階段の踊り場で、3分だけ一人になる
- 水を飲む
- 耳栓やマスクを外して、体を戻す
- きょう最初に手をつけることを、1行だけ書く
早めに着いて、始業までの10分を静かな場所で過ごす形でも同じ働きをします。会社の休憩室が騒がしいなら、外のベンチでも構いません。
朝の消耗が大きい日は、午前に重い仕事を入れないほうが安全です。予定の側を動かしてください。
通勤・満員電車がつらい人へ/帰りの電車がつらいとき
帰りの電車がつらいとき
帰りは、すでに一日ぶんの刺激を浴びたあとです。行きより耐えられないのは、おかしなことではありません。
- 30分だけ、会社の近くで時間をつぶしてから乗る
- 座れる各停に切り替える
- 帰りだけタクシーやバスを使う日を、月に何回までと決めておく
- 帰った日の夜に予定を入れない
帰宅後にまったく動けない日が続くなら、外出したあと2日動けない人への回復のとり方が使えます。
車・自転車・徒歩という選択肢
電車を減らせるなら、それがいちばん確実です。
- 自転車:片道5km前後までなら現実的です。天気と体調の波には左右されます
- 徒歩:30分までなら通っている人もいます。音とにおいの負担がほぼなくなります
- 車:一人になれるのが最大の利点です。駐車場代と渋滞は先に調べます
- 組み合わせ:週2日だけ自転車、雨の日は電車という形でもいいです
全部を変えなくてかまいません。 週に1日でも電車から降りられれば、その週の消耗は確実に減ります。
引っ越しは大きな判断ですが、通勤時間の長さが原因なら考える価値はあります。ただし、引っ越しを決める前に、時間帯と経路を先に試してください。順番を逆にすると、お金だけかかって同じつらさが残ります。
場面別|とくにつらくなる日
雨の日
傘、濡れた服、湿ったにおい、いつも以上の混雑。全部が上乗せされます。雨の日は1本早い電車と決めておくのがいちばん楽です。置き傘を職場に用意しておくと、持ち物も減ります。靴が濡れると一日じゅう気になる人は、替えの靴下を職場に置いておくと午後が変わります。
電車が止まった日
見通しが立たないのが、いちばんこたえます。
- 代わりの経路を、あらかじめ1つだけ調べておく
- 遅れる連絡の文を、スマホのメモに保存しておく
- 人の多い駅で待たず、いったん改札の外に出る
慣れない路線に乗る日
出張や面接など、初めての路線は消耗が大きくなります。前の日に経路と乗り換えを1度だけ見ておくと、当日の負担が減ります。時間は多めに取ってください。
前の日に人と会った翌朝
前日の疲れが残っていると、同じ電車が別物のようにつらく感じます。人と会った翌朝は、通勤の条件を1つ甘くすると決めておいてください。各停にする、1本遅らせる、在宅にする。どれでも構いません。
働き方のほうを動かす
一人の工夫で減らせる量には限りがあります。負担が続くなら、条件そのものを相談したほうが早いです。頼むときは、つらさではなく仕事への影響で伝えると通りやすくなります。
「朝のいちばん混む時間だと、着いた時点で消耗してしまって、午前の仕事の質が落ちています。始業を30分ずらすことはできますか」 「週に1日でも在宅の日があると、その週の後半まで体力が持ちます」
- 時差出勤(30分ずらすだけでも変わります)
- 在宅勤務を週に1〜2日
- 出社する日をまとめる(毎日1時間より、週2日のほうが回復しやすい人もいます)
- 通勤の負担が小さい勤務地への異動
使える制度があるかは、就業規則を見るか人事に聞けば分かります。制度はあるのに知られていないことは、けっこうあります。
言い出すまでの準備は職場に「これがつらい」と言えない人へにあります。在宅が増えたあとの進め方は在宅勤務だとまったく仕事が進まない人へへどうぞ。
関連する困りごと
- 音そのものがつらい → 人の声や生活音がつらい人へ
- 出かけたあと動けない → 外出したあと2日動けない人へ
- 職場に言い出せない → 職場に「これがつらい」と言えない人へ
- 在宅だと進まない → 在宅勤務だとまったく仕事が進まない人へ
まず今日、これだけやってみる
- 明日、15分早い電車に乗って、着いたときの疲れを10点満点で書く
- 耳栓かマスクを1つ、カバンのポーチに入れっぱなしにする
- 各駅停車だけで行く経路を1つ調べて、休みの日に試す
3日ぶん点数を並べると、自分に合う時間帯が見えてきます。感覚ではなく、点数で決めてください。
この記事について
この記事は、3つのものをもとにしています。ASD(自閉スペクトラム症)にみられる感覚の受け取り方を整理した国内の論文。感覚の処理のしかたと暮らしやすさの関係を扱った、研究をまとめた分析。それに、大人の自閉スペクトラム症のある人の感覚と、外出や社会参加の関係を調べた研究です。感覚の違いが気のせいでもわがままでもないこと、感覚の負担が外出のしづらさとつながりうることは、これらから言えます。
言えないことも書いておきます。感覚と暮らしやすさの関係は、関わりがあるという話までで、対策をすれば暮らしやすさが上がると示したものではありません。外出との関係を調べた研究も、工夫をすれば出かけられるようになるかを試したものではありません。国内の論文も、耳栓やマスクなど個別の道具の効果を調べたものではありません。
つまり、ここに書いた工夫そのものが研究で確かめられたわけではありません。合うものだけ残して、合わないものはやめてください。 通勤の条件は路線や職場でまったく違うので、そのまま当てはまらないものもあります。
通勤のつらさで出勤できない日が続く、体調を崩している。そういうときは一人で抱えないでください。困りごとが続くときは、専門家に相談してください。相談先の探し方にまとめています。
満員電車って、逃げ場がないのがいちばんきついんですよね。我慢の量を増やすより、乗る条件のほうを変えていきましょう。
この記事の出どころ
- 研究で検討
- 論文で調べられている内容です。ただし、どんな人を対象にした研究かは記事ごとにちがいます。
研究で検討感覚の処理のしかたと生活の質の関係:たくさんの研究をまとめた分析
(原題:Relationship between Sensory Processing and Quality of Life: A Systematic Review)
この研究でわかっていること:感覚の敏感さが暮らしにくさと関連することを示せます。
ここはまだ分かっていません:関係があるという話で、感覚の対策をすれば生活の質が上がるとまでは言えません。
研究で検討自閉スペクトラム症のある成人における感覚の処理と、地域での活動への参加
(原題:Sensory Processing and Community Participation in Autistic Adults)
この研究でわかっていること:感覚の負担が外出のしづらさにつながることを、成人対象の研究として示せます。
ここはまだ分かっていません:「対策すれば外出できる」という実際に何かを試して調べた研究ではありません。
研究で検討自閉スペクトラム症に見られる感覚処理障害の臨床神経生理学
この研究でわかっていること:感覚の違いが「気のせい」でも「わがまま」でもないことの裏づけになります。
ここはまだ分かっていません:個別の対策グッズ(イヤーマフ等)の効果を調べた研究ではありません。
制度の内容・金額は改定される場合があります。最新の情報は各窓口・公式ページでご確認ください。 出典の考え方は 情報の出どころの見方 にまとめています。
合わなかったら、別のやり方を試してください
ここに書いたことが全員に効くわけではありません。ひとつ試して合わなければ、それは失敗ではなく「自分に合わない方法が1つ分かった」ということです。